双頭蓮

 夜明け前、あたしたちは蓮の花が咲く水場へ行った。


「夜明け前にね、蓮の花が開くのよ」

 あたしはアオの頭の上でうきうきと言った。

「ニナちゃん、蓮の花が開くと何があるの?」

「うふふ。それはね、見てのお楽しみ!」

 あたしは、アオのふわふわの髪の中で跳ねた。


 あたしは精霊のニナ。雷のアオとは、すっごく仲良しなんだ。うふふふ。

 夜明けの銀色の月灯りの下で、蓮の花が、月の雫を受けて咲く。

 双頭連は特別な花。

 一つの茎から、花がふたつ咲くの。


「ニナちゃん、あったよ!」

 アオが指さした方角を見ると、まあるい蕾が二つ、ついている蓮があった。

「間に合ったね」

 あたしはアオと顔を見合わせてにっこりとした。


 夜明け前、銀色の月が、ぶるんと身体を揺らしたように見えた。

 消えゆく星ぼし。下からだんだん、白んでゆく空。

 藍色の空にぽつんと残る銀色の月から、涙が、落ちた。銀色の。

 銀色の月の涙はまっすぐに双頭連に落ちた。ぽたん。

 すると、双頭連はゆっくりと花びらを開く。

 ゆっくりゆっくり、ピンク色の花弁が開く。すると、花の中から、ふわりと精霊が現れた。一つの花から一人ずつ。透明な羽を震わせて、夜明けの空気の中をゆらりと泳ぐ。


「ニナちゃんだ……」

「あたしはここだよ」

「あ、うん、ニナちゃんの妹?」

「そんなようなものかな」


 あたしはアオといっしょに、明けゆく空の中でゆらゆらする、生まれたての二人の精霊を見ていた。とても素敵な光景だった。


「あ、ここです、神さま!」

「レイ?」

 振り向くと、レイがいて、神さまを手招きしていた。

「ああ、いたね。幸運の精霊たち」

 神さまは、そっと手に精霊たちを乗せた。


「幸運の精霊たちが生まれるところ、見てたの?」とレイが言うので、あたしとアオは「うん!」って答えた。

「すっごく、きれいだった!」


「ねえ、ニナちゃん」

「なあに?」

「ニナちゃんも、双頭連から生まれたの? ニナちゃんも幸運の精霊でしょう?」

「あたしはね、ちょっと特別な生まれ方をしたんだって」

「へえ」

「あたし、神さまの涙が落ちた蓮の花から生まれたのよ!」


 ニナはえへんと胸を張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る