神殿の鍵と蓮の花びらの手紙

「アオ、待ちなさい!」

「神さま、慌ててどうしたの?」

 あたしは神さまの前にひらひらっと、かわいく舞い降りた。あたしは精霊のニナ。神さまの手の中に着地したの。


「ニナ。アオを捕まえてくれるかい?」

「アオ、何かしたの?」

「いや、神殿の鍵を持って行っちゃったんだよ」

「どうして?」

「さあ、分からないんだ」

「大丈夫、神さま、あたしに任せて!」

「ニナ、頼むよ」

「うんっ」あたしは愛らしく微笑むと、ひらひらと飛んでアオを探しにいった。


 アオはすぐに見つかった。蓮の花畑にちっちゃくなって座ってた。

「アオ!」

「ニナちゃん!」アオが顔いっぱいの笑みであたしを呼ぶ。

 アオはあたしが好き。あたしもアオが好き。


「アオ、どうしたの? 神殿の鍵を持って行ったって聞いたけど?」

「うん……」

 アオは手の中のものをあたしに見せてくれた。それは、つのだった。

「これ、おじいちゃんのつのなんだ。ぼく、おじいちゃんのつのが欲しくて」

「地獄の門の鍵は小鬼のつのだけど、天国の神殿の鍵は雷のつのなのよね」

「うん……あっ」

「どうしたの?」

「なんか、入ってる」


 アオはつのの先端から、器用に何かをするするっと抜いた。それは広げてみると、きれいな蓮の花びらだった。

「なんか、書いてあるよ」

「ほんとだ」


  後代のセント・エルモへ 元気でいるかな? 雷としての務めと修業は果たせて 

  いるかい? 天界での雷修業は思ったよりつらいことだと思う。雷は神鳴り。か

  つては神の一族だった。だけど、今では別の一族だから、孤独になることもある

  だろう。仲間を見つけて頑張るんだよ。 五代目のセント・エルモより


「おじいちゃん」

 アオが涙をこぼしたので、あたしはアオの涙をそっと拭おうとしたら

 ――ぽんっ! 

 なんと、あたし、おっきくなっちゃった! 手のひらサイズの精霊だったのに!


「ニナちゃん!」

 アオがあたしにぎゅってしてきた。

 あたしもアオをぎゅってしてあげる。

 わあ、大きくなると、ぎゅって出来るんだね。


 アオはあたしのほっぺをなでなでして、それから顔を近づけて来た。アオ?

 と、そこへ「ああああああ!」という叫び声がして、振り向くと小鬼のレイがいた。

「やべえやつがおっきくなってる!」

「何よお!」

 あたしはえいってレイの頭を殴ろうとしたら、手が滑ってレイのつのにあたって、つのがぽろって取れちゃった。それをアオがすかさず奪い、自分の頭につける。

「ちょ、やめろよ! 返せ!」

「邪魔した罰だっ」

「えへへ、ふたりとも頑張れ~! ……あっ」

 ――ぽんっ! 

 あたしは元のサイズに戻ってしまった。



 夕陽が見えるころ、あたしとアオとレイは、仲良く蓮の花畑を眺めていた。


「レイ、つの返すよ」

「ありがと。……それ何?」

「おじいちゃんからの手紙」アオは大切そうに蓮の花びらの手紙を胸に抱えた。

つのにしまったら?」

「うん」アオはおじいちゃんの手紙を自分の角にしまった。


「この手紙さ、きっと父さんも読んだと思う。そして捨てられなくてまたつのの鍵にしまっておいたんじゃないかな」

「へえ」あたしはアオの頭の上に乗り、つのをぺたぺたと触った。

「ねえニナちゃん」

「なあに?」

「また大きくなってね!」

「うん!」


 そしたらねそしたらね、あたしアオのこともレイのことも、ぎゅってするんだ!

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