記憶をなくした雷

「ニナ」

 神さまに呼ばれて、あたしは蓮の花畑から神さまのもとへゆく。ひらひらとかわいく飛んでいくのよ。

「なぁに、神さま」

「この子のめんどうを見てもらえないか?」

 神さまが、白くて長いドレープに隠れていた、その子をあたしの前に出す。


「きゃー! かわいい! ……小鬼ちゃん? じゃなくて?」

「うん、実はこの子、記憶を失っているんだよ」

 神さまの膝くらいの背のその子は、二本の角を青いくせ毛の中に生やしていた。ちっちゃくてかわいいの。……まあ、あたしは神さまの手のひらくらいしかないから、もっとちちゃいんだけどさ。


 地獄の小鬼のレイは角が一本で(その角が地獄の門の鍵なんだけど!)、こげ茶のくせ毛で肌はくすんだ赤色だ。この子の肌はくすんだ黄色。

 ……でもいいや! 地獄の小鬼ちゃんじゃなくても。

「ね、遊ぼう?」

 あたしは青いくせ毛の子の前にふわりと飛んで行き、笑顔でそう言った。

「名前、憶えてる?」

 その子はふるふると首をふる。

「じゃあね、アオって呼ぶね!」

 後ろで神さまが「そのままじゃないか……」とつぶやいているのが聞こえたけど、気にしない。


 あたしはアオと蓮の花畑で遊んだ。

「今日は地獄に行くんじゃないぞ」って神さまが言ったから、逆に行きたくなっちゃった、じごく。

 だって、レイと遊んだら、記憶戻るかもしれないよね? つの仲間だし!

 あたしはアオと、そーっと蓮の葉に乗った。よし! と思ったら、「げ。ニ、ニナっ」っていう声が聞こえた。

 振り向くと、小鬼のレイがいた。


「あ、レイ! いま遊びに行こうと思ったのよ。あたしが遊びたいって分かったの?」

「ち、ちげーよっ。閻魔さまのお使いだい! 来んなっ」

「えー、あたし、レイと、アオといっしょに遊びたいのにぃ」

「アオ?」

「うん、この子。つの仲間でしょ。お友だちじゃない? 記憶がないのよ」

 レイはアオをじっと見て言った。

「地獄の小鬼じゃねーぞ、こいつ」


 アオはレイを睨みつけるように見て、「お前、ニナちゃんの、何なの?」と怖い声で言った。「アオ、初めてしゃべった!」

「はあ? おれはニナの何でもねーよ」

「呼び捨てにした……‼ ぼくのニナちゃん!」

 アオの身体からぱちぱちと光が出て、さらに激しい青白い光となり、レイに直撃した!!!


「ぎゃっ!」

 レイは黒焦げになってしまった!

「レ、レイ……だいじょうぶ? 小鬼だから、だいじょうぶかな?」

「ニナと関わると、ろくなことがない……」

「ニナちゃんを呼び捨てにするな!」

 また、アオから雷が飛ぶ。


 そこへ神さまがやってきた。

「やれやれ。もっと穏便に出来なかったのかな?」

「あたし、悪くないもん!」

「ニナちゃんは悪くない!」

「やれやれ。……お前は雷の子だね? 思い出した?」

 アオはあたしを両手の中にそっと入れながら、こっくりうなずく。

「ニナちゃんはぼくの!」

 神さまはレイに手をかざして傷を癒しながら「やれやれ」と言った。

「まあでも、記憶が戻ったなら、ひとまず、よし、かな?」

「よくないっ」

 レイはひとりで怒っていたけど、あたしは友だちが増えて嬉しいな。


「アオ、よろしくね!」

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