第37話  俺のものになって

 そして、その日から私達は付き合う事になり、朝のランニング以外でも度々会うようになった。


 彼が喫茶店に来るのはしょっちゅうの事。彼の仕事が終わり、私のバイトが終わると、その後駅で待ち合わせし、ご飯を食べに行き、映画を見たりする。


 初めて彼ときちんと手を繋いだのは、告白されてから1週間後、初めて彼とキスをしたのはその1週間後。

そしてその次の事は、何ヶ月も後になってからだった。


冬の休みには美華も帰ってきて、3人で彼の車で、遠くに遊びに行ったり、クリスマスはイルミネーションを二人で見に行ったり。


彼から初めてもらったクリスマスプレゼントは、四葉のクローバー模様のネックレスだった。


四葉のクローバーの花言葉。


 "幸運"



........


幸せな私。


こんなにも急な幸せが訪れていいのかと思うぐらい、彼の事で頭がいっぱいだった。



 だが、幸せも束の間、



3年後...


彼は交通事故でこの世を去った。


 そしてその彼を車で引いた犯人は、私と美華と小春さんが合コンをしたときにいた、彼の会社の上司でもある男だった。


 その男は、初めはたまたま偶然だと言い張り、無罪を主張していたが、その後罪を認めた。


 私と付き合っていた時の"海"はいつも通りで優しいその笑顔を絶やすことはなかった。

しかしその裏では、会社での彼に対するいじめはあの時を境に増し、彼の罰は終わっていなかったのだ。


 彼が交通事故に遭った日、私は彼と公園で待ち合わせしていた。

 

その前日、

 海「唯愛に明日渡したい物があるから、公園で待ち合わせてから、ある場所に行こう」

と言っていた。


 彼が渡したかった物は何なのか。


 彼は私とどこへ行こうとしていたのか。


 もう彼に聞こうと思ってもその答えは返ってこない。


私が、"彼がこの世を去ったんだ。"と実感したのも、随分後からになった。

全く受け入れたくなかったが....


 

そして....


しばらくしてようやく私は喫茶店のバイトにいけるようになった。


 久々の喫茶店。


ピークの時間が過ぎても彼はこの店にはやってこない。


 どこを見るでもなく、意味もなくコーヒーカップを無心に拭く私。

そして、彼から生前にもらった、四つ葉のクローバーのネックレスをふいにギュッと握りしめる。


 すると...


"ガチャッ"


 唯愛「いらっしゃいませ!」


コーヒーカップを置き、顔を上げるとそこにいたのは、仕事中の私の母親と、もう一人彼と同じぐらいであろう男の人が一人、そこにはいた。


 唯愛「あ。お母さん。どうしたの?」


 母「うん。近くで打ち合わせがあってね。それと紹介するわ。この人...」


 そう。


この人は、彼の友人。 


"高橋 亮さん"だった。

 

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