第36話  幸運、約束

 そして花火大会当日。


母親に借りた赤の浴衣を来て、家を出た。


 母「唯愛~!気をつけて行ってくるのよ~」


 唯愛「はーい!いってきまーす!」


あの日から私は母親とよく話すようになった。

なんのたわいもない話。


美華の事や、小春さんの事。


彼の事は恥ずかしくて言えなかったが...。


 そして家を飛び出した私は、いつも彼と会う公園へ向かった。


花火大会に行くと決まった日から私達は毎日朝、公園で会い、ランニングを一緒にしていた。


彼とも毎日たわいもない話をしながら...


 そして公園に来た私。


いつものベンチには彼はいない。


先に来ちゃったかと思いベンチに座ろうとする。


すると、履いていた下駄が慣れず、躓きかける私。


 "コケるー!!"


躓きそうになったその時。


 パサッ...


何かが私を包みこんだ。


 海「大丈夫ですか?」


彼が私を支えてくれたのだ。

思わず彼をじーっと見つめてしまう私。


すると彼が言う。


 海「ほほほらっ。慣れないんだから、き...きをつけないとっっ!」

そお言ってそっと優しく私をベンチに座らせた。


目があったことに焦る彼。


その様子を見て私は思った。





 "可愛い..."と




 そして私達二人は花火大会の会場へと向かった。



 海「やっと着きましたねー!」


 唯愛「わぁ~!」

私達が着いた途端、満開の花火が空高くにひらいた。


 唯愛「すごーい!きれーい!」


 海「そおですねっ!」

2人で見た花火。気づけば2人の距離が近くなっていたのはお互いに意識していたからだろう。

身体が当たるか当たらないかの絶妙な距離を保ちつつ、空に舞い上がる花火を見ていた。



初回の花火を入り口で見た私達は、中に入り、屋台を見て周る。


りんご飴、綿菓子、そしてたこ焼き。


2人で自然と分け合って食べながら歩いた。


そして、穴場スポットを下調べしていた彼に従い、人混みから少し外れた河川敷へと向かう。


 海「唯愛さん!ここ綺麗に見えるらしいよ!ほら!」


 唯愛「ほんとだー!さっきよりもすごーく綺麗に見えるー!」

花火が舞い上がる中、私達はそこにシートを引き、座った。

そして彼が私に言う。


 海「唯愛さん。今日は来てくれてありがとっ!ずっと言いたかった事があるんだけど...」

私は待ち構えてしまった。

少し意識してしまい、彼の顔を見る事ができなくなる私。


 唯愛「はっはい!なんですか?」

心臓の鼓動が高まる。


 海「唯愛さん...今日の髪型すごく似合ってて可愛いですねっ!」


 唯愛「えっ?かっ髪?」

拍子抜けした。もちろん髪の事褒めてもらえたのは嬉しい...

けど...


そして彼が言った。

 海「髪だけじゃないですよ!唯愛さんの全部が可愛い...初めて会った時から唯愛さんには何か感じるものがありました」


 唯愛「....!?」


 海「唯愛さんの事が大好きです...必ず幸せにします!こんな情けなくて、駄目な俺だけど、付き合ってください!」

こうして、私の目の前に咲いていたシロツメクサの花を渡してきた。


瞬間的に待ち構えてはいたものの、いざ言われるとどうしていいのかわからなくなってしまった私。

でも、これだけは言える。

高校生の時、"あの人"に言われた時よりも、私の心に刺さる何かが全く違った。


全く嫌じゃなかった。


全く不安にならなかった。


なんだろう。


この安心感。


不器用だけど、優しさに満ち溢れているその感じ。


情けなくなんかない。


決して駄目人間なんかじゃない。


この人なら...と...


瞬間的に思えたのだ。


 そして私は彼の差し出したその花を受け取り、答える。


 唯愛「はい!よろしくお願いします!」と...

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