第35話 ズラした時間のお客さん

 こうして母親とお昼ごはんを食べ終え、私は喫茶店のバイトに行った。


 いつも美華と一緒に行っていた為、どことなく寂しい。


 けれど、喫茶店のオーナーさんが彼女に言ってくれた。


 オーナー「美華ちゃんは頑張り屋さんだし、唯愛ちゃんと、美華ちゃんはウチの看板娘だから、またこっちに帰ってきたら働きにおいで」

と。


彼女が帰ってくるまで私が頑張らないといけない。

そうやる気に満ち溢れていた。


 そしてバイトの時間が始まる。

 

今日の喫茶店はいつもよりお客さんが多い。


コーヒー以外にも注文してくるお客さんが多く、いつも奥で寝ているオーナーも汗だくになりながら働いていた。


 そしてピークの時間も終わりようやく落ち着く店内。 


 オーナー「ふぅ〜。今日は忙しかったね〜。美華ちゃんがいなくなった途端だよ〜」


 唯愛「でも忙しい事はいいことじゃないですかっ!」

各テーブルに散乱していたお皿を片付けながら私は言う。


 オーナー「唯愛ちゃん。しっかりしたね〜!」


 唯愛「美華が帰ってくるまで私が頑張らないとっ!」


そんな会話をしていた。


すると、

 "ガチャッ"


 「今の時間大丈夫ですか?」


男の人の声。


振り向くとそこには、海さんがいたのだ。


 仕事してるところを見られてしまい、急に恥ずかしくなる私。


 唯愛「いっいらっしゃいませ〜...」

持ち上げたお皿を置き、そしてまたお皿を広げて、フキンを取り出し、そしてお皿をまとめ持ち上げると言う、意味不明な行動をとる。


 その行動を見て彼は言う。


 海「唯愛さんお疲れ様!手伝おうか?」


 唯愛「だっ大丈夫です!一人でできますー!それにお客様でしょ!どうぞ中にお入りください!」

いつものちょっとした小競り合いが始まった。


私の行動を見ながらニヤニヤとし、席に着く彼。


 唯愛「お待たせしました!コーヒーでいいですか?」


 海「はい!お願いします」

私の怒りに対し物ともせず、子供扱いをするように優しい目で見てくる彼。

それについ甘えてしまっていた。


 唯愛「はい!コーヒーどうぞ!」

そのコーヒーをしばらく眺めそして一口飲む。


 海「え?おいしいっ!」


 唯愛「え?ってなんですか!」


 海「いや...こんなにも美味しいコーヒー始めてだよ」


 唯愛「穴場スポットですからねっ!」


彼との話が穏やかに弾む。


 海「美華さんは、無事行った?」


 唯愛「うん!無事にいったよ!」


 海「そっかぁ!帰ってくるまでしっかり俺頑張らないとだな!」


 唯愛「私も美華に頑張ってねっ!って言われたんです!だから私も頑張らないとっ!」


二人は目を合わせ気合いを入れた。


すると、ふいに彼が私に言った。

おどおどとした話し方で。


 海「そ...そういえばさ...あれなんだけど...」


 唯愛「どうされました??」


 海「来週の土曜日、この近くで花火大会があるらしいんだけど、一緒に行かない?」

急な誘いにビックリし、顔中が熱くなった私。

そのせいで、意地悪に解答してしまった。


 唯愛「海さんが、どっ...どうしてもって言うならいいですけどっ!」

意地悪に言ったつもりだったが動揺が隠せず言葉を詰まらせてしまった。


すると彼が私の顔を見ながらニコッとした表情で言う。


 海「はい!どうしてもですよ!行きましょう。花火大会」


本当に彼のその笑顔に弱い私。

他の人とは違った、吸い込まれるようなこの安心感。



気づけば私は彼の事が好きになっていた。

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