第34話 長い反抗期
美華を見送り、私は自分の家に戻った。
ちょうどお昼前。
しばらく彼女の家にいた為、家に帰るのは久しぶりである。
家の門を空けると、今日も母親の車が停まっていた。
"いるんだ..."
と思いドアを開ける。
すると玄関の奥の台所から明かりが灯っていた。
いつもの私の家の雰囲気は基本一階は暗く、冷たい。
なのになぜだか、今日は少し暖かい温もりを感じた。
自然と台所に足を忍ばせる私。
すると、一生懸命皿洗いをする母親と、台所のテーブルの上には、私の大好きな、トンカツが用意されていた。
私の気配に気づき、振り向く母親。
母「あっ...おかえり、唯愛」
どことなくぎこちないが、気を使っているように聞こえた。
唯愛「これ...どおしたの?」
アラームが鳴る電子レンジから、温めたもう一つのトンカツを出し言う。
母「今日仕事が午前中で終わって、唯愛が今日帰ってくる日だから一緒にご飯食べようかなっと思ってね...」
少し申し訳なさそうに話をしてくる母親。
仲良しの高校生の女子二人が、長い冷戦を経て、仲直りをしようとするような雰囲気。
母親のその様子を見て、
そのトンカツをしばらく見つめ、
そして私は、
唯愛「クスッ」
笑った。
唯愛「なんでお昼にトンカツなのよ〜!」
母「だって唯愛、昔からトンカツ大好きでしょ〜...」
こうして私達二人は何年ぶりと言えるだろうか。
向かい合い、お昼ごはんを食べた。
母「トンカツ少し味薄かったかなぁ?」
私の様子を伺いながら不安そうに見つめる母親。
唯愛「ううんっ!美味しいよっ!ありがとっ!」
正直な所、言ってた通り味は薄かった。
でも...
それに負けないくらい、母親の温かい何かがこのトンカツにしっかり詰まっており、私を懐かしい気持ちにさせ、美味しく感じたのだ。
私は言う。
唯愛「今度は一緒に作ろっか!お父さんの分まで!それに...晩ごはんとしてねっ!」
その言葉を聞き母親が笑顔になった。
久しぶりに見たその笑顔。
どうしていつの間にか、両親を避けるようになったのかはわからない。
嫌いになってたわけではない。
ただ家族三人が家で会うタイミングがなかっただけ。
もしかしたら気づけば、私自身が長い反抗期だったのかもしれない。
何がきっかけで母親がトンカツを作ってくれたのかはわからない。
けれど、
こうして歩み寄ろうとしてくれた母親に私は思う。
"お母さん。ありがとう"と
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