第26話 初めて触れた感触

 そして女子会当日。


私と美華は一足先に駅前のとある居酒屋の前に辿り着いていた。


思えば、小春さんと会ってから今日まであっと言う間。


たくさん話も聞き、絡まれた男の人に助けてもらって、本当に小春さんにはたくさん教えてもらった。


早く会いたいと思っていた私達。


 美華「小春さんまだかなぁ~」


 唯愛「後もう少しだと思うんだけど...仕事が長引いちゃってるのかもね...」


まだ、待ち合わせの時間にはなっていなかったが、待ちきれずにいた私達。


空を見上げると、いかにも雨が降り出しそうな匂いだった。


 すると...


 「おっ!唯愛ちゃんじゃん!」


聞いたことのあるような声が後ろから聞こえた。


振りむくとそこにいたのは...


前合コンをした時に、私の腕を掴んできた"あの男の人"と他に2人の男の人がそこにいた。

あの時の事が蘇り、声が出なくなる私。


変わりに美華が言ってくれた。


 美華「何ですか?」


 男の人「前、途中で終わっちゃったし、一緒に飲まない?」


 美華「無理です。予定があるので...」


 男の人「お前はそうかもしれないけど、唯愛ちゃんはどうなのよ?」


怯えて声が出なかった私だったが、なんとか言う。


 唯愛「む...むりです...」

必死に私は声を出した。


 美華「だから無理なんです!待ち合わせもしてるし!」

続けて彼女も必死に言ってくれたがその人には伝わらない。


 男の人「無理とか意味わからんよなぁ?ちょっとあっちに連れて行こうか?」

そう言ってその人の男友達に言い、私の腕を掴んだ。


 美華「離して!」


 男の人「うるせえ!お前は黙ってろ」

彼女が言うも一歩も引かない。


 唯愛「やめてください!」


 男の人「ちょっとだけだからさ~!」


また思い出すあの恐怖。

あの時小春さんがいてくれたからなんとか回避できたものの、今は小春さんはここにはいない。


最後の小春さんとの女子会。


感謝の気持ちを言いたかった。


楽しく3人で話したかった。


最後ぐらい、成長した私を見せたかった。


でも...







    ”「その腕 離せや」”



 

一瞬その言葉が聞こえた。


あ。


小春さんが来てくれた。


助かった。


すると、新たな感触が私の身体に触れてくる。


 「唯愛さん。大丈夫ですか?」


どこか聞いたことのある声。


見上げるとそこにいたのは...


 


あの、"もう会わないと"いった日から、私の頭の中からずっと離れずにいた、”海さん”がそこにいた。


ほんの少しだけ気になっていた彼。


"好き"ってわけではなかったはずの私の気持ちに、迷いがうまれた。


掴まれた私の腕を離した時、一瞬だけ私の腕を優しく握ってくれた。


あ。


この安心感。


一瞬で恐怖感が消えた私。


 すると、距離を取られた"男の人"が彼に言う。


 男の人「あれ?最上さんじゃないすか?」

そう。


その男の人は彼の会社の上司だったのだ。


 男の人「ちょい邪魔だからあっち行ってくれる?」


そう言って"年下上司"がこっちに近づいてきた。


 海「女の子嫌がってるじゃないですか?やめてくださいよ。こんな事」

彼は黙々と話す。


 年下上司「お前の相手してる暇ないんだよ!」

そお言って彼の顔を殴ろうとしてきた。

だがそれをスムーズに交わし、"年下上司"を一気に抑え込む彼。


 年下上司「お前!いつも俺たちの受けてるくせに調子に乗んな!」

彼に抑えられながら、もがきつづけるその人。


 そして彼が言った。


 海「いつでも、受け止めますよ。これからも。でもこの2人に手を出したら、俺、絶対許しませんから」

そお言って、さらに強く抑えつけた。


 その"年下上司"と一緒にいた2人の男も、彼に殴りかかっていたが、全く効いていない彼。


そして抑えつけられていたその人が言う。


 年下上司「わかったから、離せ!悪かった!」


こうして、この場はなんとか収まった。


周りに人がいなくてよかった。


そしてその男の人たちも離れていった。


小春さんではなく、彼に助けられた私。


もう会わないようにしようと言ってた彼。


なのに彼が来てくれた。





でも...


その後も小春さんはこの場に来ることはなかった。

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