第15話 大人って
バイトの時間は昼13時から17時にかけての4時間。
美華がこうした長期休みの時は、その時間にしてもらい、その後は私の学校の都合に寄ってまた、勤務時間を決める事になった。
1週間程働いてみたが、見た感じお昼のランチタイムの時間もお客さんはほとんどこず、来ても30分に1人来るか来ないぐらい。
すごくゆったりとしたお店の雰囲気だが、時給が1100円とまあまあ高い。
オーナーはお客さんから注文があれば裏からのっそりと出てきて、何か独り言をいいながらコーヒー豆を引く。
そして私達に、注文の品を渡して、また裏に戻る。
その他、いろんな料理もあるが、オーナーのやり方は同じような感じだ。
決して変わったメニューがあるわけではないが、食べてみるとすごく美味しい。
なのにオーナーがマイペース過ぎるからか、ほとんど新規のお客さんはこなかった。
ホールに私と美華を二人だけしかいない時間も多く、その中でたくさんのお話もできた。
あるバイトの時間での事。
唯愛「美華。この前はありがとうねっ」
美華「ん?どうしたの?」
唯愛「私が海さんと話をしていた後何も聞かずに、心配だけしてくれて、その後もここに連れてきてくれて...」
美華「あぁ~。全然大丈夫だよっ!前から少し唯愛と一緒にバイトしたいって思ってたからさっ!」
唯愛「そおだったんだね。ちょっとしばらくはランニングしたくないかなと思ってたから...」
美華「いいよっ!またしたくなったら誘ってくれれば一緒にするしっ!だし、このバイトも気分転換になっていいでしょっ!」
私達はあの事があってから公園に行くことすらやめていた。
外に出る時、美華の家の玄関からあのベンチが見える所にあったが、私は見て見ぬフリをしていた。
唯愛「海さんね...不倫していたらしい...」
私はあの時の事は彼女に話す。
唯愛「で...それを奥さんに全部話したんだって。それで離婚したらしい...」
美華「そおだったんだ...」
唯愛「それで、その不倫相手との出来事を全部言ってくれて...」
唯愛「私、初め聞くつもりなかったんだけど、どうしても悲しそうにしてたから気になっちゃって、つい聞いちゃったの...」
美華「うん...」
唯愛「そしたら海さん、話をするから、もう二人で今みたいに話をするのはやめよう。って言って、この事を話し始めたんだ...」
唯愛「そしたら全部話し終えた彼が、”本当にありがとう。さようなら”って言って帰っていったの...」
美華「...」
唯愛「私、海さんの事好きとかそういうのじゃないんだけど、ずっと気になってて...あの悲しそうにしてた姿が凄く心配で...だけど全部聞いたら、ちょっと軽蔑しちゃって...大人って皆こんななの?って思っちゃった...」
美華「そおだったんだ...」
唯愛「大人の人って皆そおなの?」
私は彼女に聞いた。
しばらく私の話に相槌をしてくれていた彼女が言う。
美華「そうなのかもね。私にもわからないかな...」
唯愛「そっか...」
さすがの彼女でも大人の考えている事はわからなかった。
大人の世界。
高校を卒業し、少し自立し大人に一歩前進したと思っていたが、そんな大人になるぐらいなら、子供のままでいいと思っていた。
すると...
”ガチャッ”
一人のお客さんが店内に入ってきた。
話を一旦やめ、お客さんを席に案内し、メニューを聞きに行く私。
唯愛「いらっしゃいませ!こちらがメニューになります」
見た感じ、綺麗な顔立ちのスラッとした大人の女性。
そのお客さんは私の顔を見ながらニコッとして言う。
女性「ありがとうございます。じゃあコーヒー1つお願いします」
その女性の笑顔。
どこか思い出すような優しい笑顔だった。
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