第14話  隣町の喫茶店

 彼が立ち去った後、頭の中で急に過去の”あの事”が鮮明に蘇り、その場で蹲ってしまう私。


やっぱり大人って皆そうなの...?


大人の恋ってわからない...


なぜ一生、運命の人と共に生きていくと誓ったはずなのに、どうして他の人を好きになっちゃうの?


好きって何?


愛してるって何?


聞くんじゃなかった...


全然言わなくて大丈夫って言えばよかった。


知らなければ...


怖くなりすぎて涙もでなかった。


 美華「唯愛!大丈夫?海さんは?」


走り終えた彼女が、私の所に駆け寄ってきた。


 唯愛「せっかく、せっかく、優しい人かなと思ったのに。この人はそういう人じゃないと思っていたのに...」

蹲っている私に背中をさすってくれる彼女。


 美華「おうちに帰ろっか...」

そお言って彼女は私を起こし、手を引きながら家まで帰っていった。

彼女も彼と何かあった事はわかっている。

きちんと説明したかったが、今うまく言葉にできない私は、彼女のベッドに入り眠りについた。




 目が覚めたのは夕方。


朝にランニングから帰ってきてからずっと布団で寝ていた私。


ちょうど目が覚めたと同時に、ベッドの外から私の顔を除きこんでくる彼女がそこにいた。


 美華「よく眠れた?ちょっとスッキリしたかな?」

優しい眼差しで私を見てくる彼女。


 唯愛「うん...ありがとう。だけど、少しお腹空いた。美華は食べた?」


 美華「ううん。私もお腹空いた。少し外に出て食べに行く?」


 唯愛「うん」


そお言って私達は、準備をし、隣町の喫茶店まで足を運ばせた。


 美華「ここの喫茶店、前から行ってみたかったんだ~!それに唯愛としたい事があって!」


 唯愛「ん?どしたの?」


 美華「ここの喫茶店めちゃくちゃおしゃれなんだよ~!それでほらっ!見てっ!」

彼女が喫茶店の入り口に貼ってはるチラシを指さした。


 唯愛「バイト?」

私は首を傾げる。


 美華「そう!唯愛とランニングもするのもいいけどバイト一緒にするのもいいかなぁ~と思って!しかも短期でもバイトできるから、私はこういった長期の休みの間だけでもいいかなぁと思ってさ!」


別に彼にいつか会えると思ってしていたわけではないが、若干の期待はしていた。

だが正直、今日の出来事で一瞬にしてランニングをしたくなくなっていた私。



 唯愛「でも、二人とも受かるかなぁ~。それに私達、コーヒーの美味しさがわかる程大人じゃないよ」


 美華「ここの喫茶店の店員さん、おじいちゃんのオーナーしかいないから、絶対受かるよっ!それにもしかしたら”まかない”とかでコーヒーただで飲めるかもしれないしっ!勉強になるかもじゃんっ!」

と、彼女はドヤ顔をして私に言ってきた。


 そして彼女に引っ張られながら店内に入る私。


中に入ると、そこは薄暗く、大人の雰囲気が漂った店内だった。


席に座ると、オーナーらしき人であろう人がこっちにやってくる。


 オーナー「はい。こんにちわー。何がいるかね?」

ぽっちゃりとした70歳後半ぐらいの優しそうな人だった。


 美華「こんにちわー!コーヒー2つください!それと、私達ここでバイトしたいんです!」

見切り発車にオーナーに伝えた彼女。


 しばらく表情を変えずに、私達を見ながら黙っていたオーナーが、ゆっくりと顔のしわを集め、笑顔で私達に言った。


 オーナー「はい!二人とも合格。これからよろしくね」


よく分からない突如始まった面接に見事合格し、私達は喫茶店でバイトをする事になった。

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