第12話  あなたは悪くない

 病院に行ったおかげで膝の調子が良くなった俺。


 病院の先生には”歳なんだから、少しずつ走るように”と言われた。


 まだ30代なのに。


そして俺は一度、昼間に公園に寄ってみた。


昼間なら彼女はいないだろうと。


そして、ゆっくり走り出す俺。


だが、朝よりも日差しがキツイせいかすぐにバテてしまう。


立ち上がろうと思っても前に進ませてくれない。


本当にお天道様は、俺に罰を与えていた。




苦しめと。




今まで、どれだけ自分が甘く生きていたか思い知りなさいと。


お天道様は今にも地面に這いつくばりそうになる俺を、空高くから見下ろしていた。


相当なダメージを受けているオレだったが、なんとかベンチに座る。


会社にいても駄目。


一人でなんとかしようとしても駄目。


俺はどうしたらいい?


こうゆう時の為に家族がいるのか...。


そう思った。


こうゆう時に彼女がいるのか...。


そう思った。


じゃあなんで俺は別れた?


嫌いになったわけでもないのになぜ?


小春ともそう。


小春はもう別の道を行った。


俺も彼女まで作りたいとは言わない。


だけど、一緒に前に進めるパートナーがいてくれれば...


そう思っていた。


そしてふと後ろを振り返る。


するとそこには...


公園から出ようとする唯愛と、恐らく彼女の友達であろう人の歩く、後ろ姿が見えたのだ。


俺がいたことバレた?


だけどなんでこんな時間に?


あの日からしばらく会ってないから、気まずくて話しかけて来なかったか?


それとも俺に負のオーラがかなり漂っていた?

それは間違いないだろう。


でも俺は、彼女がほんの少し気になっていたのもあったが、病院に行く後押しをしてくれたことのお礼が言いたかった。


本当に感謝してる。


だからこそ気まずいままで終わりたくないと。


こうして俺は、お天道様に一度だけ逆らい、朝に公園に行く事を決めた。


決して恋愛感情なわけではない。


あの時、言ってくれなかったら俺は本当に今がなかったかもしれない。


だからこそ、きちんとお礼がしたかったのだ。


そして次の日の朝。


いつもより早く公園にたどり着く俺。


するとすぐに、向こうから彼女がこっちに向かってくるのが横目に見てわかった。


俺の心臓の鼓動が一気に高くなる。


なんで...


なんで緊張している俺。


俺にはもっと罰がくだらないといけない。


なのに...なのに...意識をしようとしている。


 そして俺は声を掛けた。


彼女はすぐに返事を返してくれた。


その彼女の声のリズムで、自然と緊張が一気に溶ける俺。


なんだこの感じ。


急にお天道様から罰を与えられていた俺が、少し解放された気分になった。


今まで俺がしてきたこと。


"あなたは悪くない。頑張っているのを見ていたから"


ってどこからか聞こえる。


幻想か?...


彼女と話をしている間、俺は今までの過ごしてきた中で一番の幸せな時間を過ごすことができた。


小春の時とは違う何か。


あの時の、逃げ出したくどこか癒しを求めていた時とは違う何か。


だから俺も唯愛に対し、久しぶりに自然と笑顔になった。




 「今日は会えてよかったよ。また今度ね」と。

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