第5話 素直じゃない私

 スポーツ用品店で買い物を終えた私達は、一旦私の家へ向かう事にした。


すると、こんな昼間にもかかわらず、私の母の車が家に止まっていることに気づく。

仕事が珍しく早く終わったのか、それとも何かあったのか。


 私達は普段ほとんど親とは会話をせず、ご飯も各自で食べ、家族なのに他人同士でシェアハウスをしているような、そんな暮らしをしていた。

だから母の車が家に止まっているのも、ほとんど見たことがない私。


恐る恐る家の中に入ると、私と美華が帰ってきたことに気づた母が、廊下まで出てきた。


 母「あらっ!美華ちゃんこんにちわー。元気にしてた?」

母は友達といる時にはいつも通りの親をする。


 美華「こんにちわ!お久しぶりです!はいっ!元気にしてました」

彼女も母の事は私から聞いていて知っている為、話を合わせてくれた。


 母「そう。よかったわ。今日はどおしたの?」


 美華「今日からしばらく実家に帰るんです。大学休みなので。なのでしばらく唯愛借りますね!」


 母「そおなの。全然大丈夫よ。しっかり二人で楽しんでおいでね。唯愛、美華ちゃんのご両親にも"ちゃんとよろしくお願いします"って言うのよ」

一見どこから見ても普通の母。


別に冷たいわけでもなく、怖いわけでもない。

なのにどうしてだろう。


いつからか、小さい頃のように、母に甘える事ができなくなってしまっている私がいた。


それは母のせいなのか、自分のせいなのか。


 唯愛「うん」

普段のテンションに戻る私。

そして私と美華は部屋に行き、荷物をまとめた。


 美華「今日から楽しみだね~!海さんにも会えるかもだしっ!」

母親の事について突っ込みたいはずなのに、あえて全く違う話をする彼女。

そういうところが本当に優しいのだ。


 唯愛「どおだろうね...」

まだ母親と話した時のテンションが戻らない私がいた。


 美華「とりあえず、荷物も詰めたし行こっか!まずはお泊り会楽しもっ!」

その彼女の気遣いに笑顔が戻る私。


そして家を出ていき、美華の実家に向かった。


 彼女の家は、私の家から歩いて約20分の所にある。

母から解放された私は、歩きながら両手をめい一杯広げ背伸びをした。


 唯愛「ふぁ~っ!今から楽しみだねっ!お泊り会!」


 美華「やっと言ってくれた~!一瞬だけど不安になっちゃったよ~...」

寂しそうな表情で上目遣いをしてくる彼女。


 唯愛「ごめんねっ!本当にさっきはありがとっ!」

私は上目遣いをしてくる彼女に、笑いながらおでこをくっつけた。


 美華「許してあげないっ!」

彼女が可愛く拗ねた。


 唯愛「どうしたら許してくれるの?」


 美華「ん~と~...じゃあ今日ぎゅ~ってして一緒に寝てもらおうかなっ!」

彼女がさらに甘えたになる。


 唯愛「うん。いいよっ!他には?それだけでいいの?」

私は聞いた。

聞いておきながら、少し他にも求めてしまう自分もいた。

彼女の顔が赤くなり、必死におねだりを考える。


そして彼女は答えた。


 美華「うんっ!それだけで充分っ!ありがとっ唯愛!」

そお言って彼女は私の少し前を歩いていった。


本当は彼女だって、たくさんのおねだりをしたかったはず。

なのに、彼女は...。


少し切なくなる私。

きっと彼女は、私以上に切なかった事だろう。




 こんな話をしているうちに、美華の実家が見えてきた。

そして私たちは、いつも走っている公園の前を通る。


すると...




その公園のベンチで、しばらく見なかった彼が座っているのが見えた。


その彼の様子を見て私は思う。


なにかいつもと違うと。


太陽が私達を真上から照らしていたが、その時の彼だけは、何か違う陽が差し込んでいるように見えたのは私だけだろうか。

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