第35話 五味民雄の述懐 十五コマ目

 何が発想の飛躍だよ、そんなもんがポンポン飛んでたまるか。


 しかし中庭をコンクリートで埋めるとは思っていなかった。証拠隠滅するにしても徹底してる。そりゃ殺人現場にわざわざ文字を書くなんて大胆なことができる訳だ、いつ警察に踏み込まれても痛くもかゆくもないんだからな。行動の裏打ちがある自信だ。夏風走一郎が言っていた『親切』ってのはそう言う意味だったんだよ。これは簡単にボロを出しそうにない。正直感心したね。


 ただ逆に考えれば、そこまで徹底して隠している以上、清廉潔白ってはずはない。隠さなきゃ自分にトドメを刺す事実がそこにあるからこそ、何が何でも隠そうとしてるんだ。あと必要なのは理由か。証拠がどこにあるのかはわかっている。何が隠されているのかも見当が付いている。それを暴き出すための理由さえあれば、警察は理事長を追い詰められる。


 しかしまあ、そこまで行けばもう素人探偵の推理云々関係なく、警察の通常業務だとも思うけどな。俺たちが頭を使うような場面は事実上終わってたんだろう。


 それより、このときの俺は夏風のことが気になってた。別に心配してた訳じゃないんだが、調子の悪さを必死に隠してたように見えてな。




「幾津刑事さんってどんな人だったんですか」


 興味津々といった顔の十文字茜に五味は言う。


「何だ、刑事が珍しいのか」


「珍しいも何も、刑事さんって会ったことないですから」


「ああそうか、普通の高校生の大半は刑事と知り合う機会なんかないだろうな」


「やっぱり怖そうな感じなんですか」


 五味は少し考えると、首を振った。


「いや、ちょっとガタイはいいが、身長も百八十ないだろうし、威圧感もたいしてなかったよ。真面目そうな男だった」


「へえー、暴力団の事務所のドアをガンガン叩いたりしそうな感じじゃないんですね」


「おまえテレビの見過ぎだ」


 呆れ顔の五味に、剛泉部長は申し訳なさそうな笑みを向けた。

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