第3話 五味民雄の述懐 一コマ目

 ああ、最悪だ最悪だ。何で十三年前の事件なんぞを思い出さなきゃならんのだ。そりゃ覚えてるさ。覚えてたって得をする訳でもないのに、どうして記憶ってヤツは要らん情報を消し去ってくれないのかね。とんだ欠陥システムだ。


 確かに、あの事件に巻き込まれなきゃ、いまの俺はなかったろう。だがそれは感謝するようなことでもない。どちらかと言えば傍迷惑はためいわくな話だ。傍迷惑か。あのとき、あのタヌキジジイもそんなことを言ってやがったな。いまの俺が当時のアイツと同じ状況だとは思いたくはないが、どうにもムシャクシャする。


 まあどんなに忘れたいと思っても、ボタン一つで忘れられる便利な時代はまだ到来してないからな、俺たちはこれからも当分、この理不尽な記憶と付き合わなきゃいかん訳だ。何とも鬱陶うっとうしいし面倒臭いしムカつく限り。


 わかったわかった、読むよ、読んでやればいいんだろ。まったく十文字の姪っ子かよ。外見以外そっくりじゃねえか。これボイスレコーダー入ってるよな。ちゃんと動いてるよな。後でもう一回とか言われてもお断りだぞ。


 やれやれ、始まりは何だっけかな。


 ああ、桜だ。

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