第2話 十文字香の手記 その一
早いものだ、私が高校を卒業してからもう十年になる。ならば十一年になるのか、あの連続殺人事件から。
高校の卒業証書は丸筒に入れたまま出したことがない。出す気にならないというよりは、出してはいけないような気さえする。何故なら私はまだ夢を叶えていないからだ。約束というほどではなくても、彼の言葉はまだ生きている。彼らとの体験はまだ胸の中に光り輝いている。
こんなことを書き始めたのは引っ越しの荷物を片付けているとき、茶碗の包み紙や荷物の敷き紙の中に何枚かの寺桜院タイムズが紛れ込んでいたのを見つけたからだ。これはやはり、私が書き記しておくべきことなのではないか。たとえ世に出せなくても、残しておくべき記録なのではないか。そんな運命もこの世にはある気がする。
この物語を書き終えたとき、私は卒業証書を出して見ることができるだろうか。いや、それは期待するまい。たまには代償の伴わない仕事も悪くない。ただ、いつかこれを読んでくれた誰かの心に、何かを残すことさえできれば。
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