Episode-04 文化祭準備

 この学校の文化祭は九月末の週末に開催される。

 昔は出入り自由だったのだが、現在では在校生以外では卒業生または在校生が招待した人間、または中学から申請があった学生のみが入場可となっているのは現在の世情では仕方がないところだろう。


 とはいえ、学生主体のイベントとしては、その多様性において最大を誇るイベントであるのは間違いなく、一部夏休みから準備してるクラスもある。二学期早々から本格的に準備が始まるこのイベントは、各クラス、部活、同好会が全力を出すイベントとなる。


「天文同好会としては何かしないの?」


 明菜のその発言はもっともなところだ。

 会員を増やすなら、同好会として活動報告をして、興味を持ってもらうのが一番だ。

 在校生へのアピールにもなるし、来年この学校に入学する生徒にも、こういう同好会がある、という宣伝にもなる。

 形だけとはいえ、賢太に加えて明菜の友人である二条香澄も入ってくれたことで、会員数も四人。

 全員二年生なので、来年までは全員ほぼ確実に在学している以上、あと一人でも入れば部の昇格申請が可能になる。

 そういう意味では、文化祭は格好のアピールの場なのだが。


「余裕があるかどうかだよな……」


 夏輝の言葉に、明菜もうーん、と腕を組んでしまう。


 一応申請は出している。申請内容は展示物。

 食品を扱うものでない限りは、たとえお化け屋敷だろうがゲーム館だろうが同じ展示物扱いというアバウトさなので、内容はこれからというところ。

 場所は地学室。実はこれに関しては去年も申請していたが、結局何もしなかった。

 特別棟はその立地条件の都合で、あまりというか非常に人気がないので、今年もあっさりと申請は通っている。


 ただ、二人が学級委員をやってるのが問題なのだ。

 実質活動しているのが夏輝と明菜の二人である以上、天文同好会として何か展示をやるのであれば、クラスを手伝う余裕はない。

 クラスの準備の中心になるのは当然文化祭実行委員だが、それだけでは到底手が足りないので、たいていの場合は学級委員がそのサポートをやるのが通例となる。


「ところできーくん、天文同好会の展示ってやるとしたら?」

「定番は星の写真の展示や、壁新聞的な掲示だな。あとは凝ったところだと手作りのプラネタリウムやるところもあるらしいが……」

「それはちょっと無理だね……」

「ああ、それに写真もな……俺ら、観測はやっても記録あまり残してないからな……俺は写真素人ってのもあるし」


 何回かやってる観測会でも、写真はほとんど残していない。

 スマホで何回か撮ってはいるが、それだけだ。


「まあ、奥の手に父さんたちの写真を借りるって手はあるけど……ちょっとズルだしなぁ」

「あれ。でも長野に行った時に、お父さんに教えてもらいつつ撮った写真もあったよね? あれは立派な活動ってことにならない?」

「ああ、まあそうだけど……でもさ。ああいう写真撮るような活動してるって思われるのも……さすがに違う気はしないか」


 あれは天文同好会の活動としてではなく、夏輝が個人で行ったのに明菜が一緒に来てくれただけだ。

 確かにあそこで撮った星の写真はかなりいいとは思うが、ああいう場所に行く活動をやってると思われると、それはそれで違う気がする。

 それに――できればあそこは、いつか明菜と二人で行きたい場所だ。


「うーん。でも、スマホで撮った写真でも十分だし、むしろ専用機材なしでこういう写真が撮れるような活動ができる、って方がアピールにはなるんじゃない?」


 明菜のいう事にも一理ある。

 天体観測は道具ありきだから、どうしても敷居が高いと思われがちだ。

 だが、そんなことはない、と思ってもらえるならその方がいいだろう。

 となると後の問題は――。


「クラス企画のお手伝いとの時間が問題だね、あとは」

「だよな」


 今回の二人が属する三組のクラス企画はコスプレ駄菓子屋というよくわからないものになっている。

 要は駄菓子屋なのだが、店員がコスプレをする、という事らしい。

 喫茶店と違い、料理担当というのもいないので基本全員が店番担当。

 そして各自、『コスプレっぽい格好』をするように、というお達しだ。

 内装も各自の服に合わせてデザインするという。

 美術部所属のクラスメイトがやる気満々らしい。


 早速、週明けの月曜日にそれっぽい服を持ってくるように、と云われているが――。


「そもそも月曜に持っていく服のアイデアが全くないんだよな……」


 夏輝は基本的に似たような服ばかり持っている。

 だいたいジャケットやシャツ、ジーンズかスラックスしか持ってない。

 柄は多少違えども、基本地味目だ。これに関しては中学の頃からほとんど変わっていない。


「きーくんっていつも同じような格好してるもんね。あれはあれでかっこいいんだけど、他のは持ってないの?」

「ないなぁ。せいぜい袖の長さが変わるとか上に羽織るものが増えるとかで季節調節してるくらいだし」

「……もしかしてジーンズとかは年中同じ?」

「だな。というかまあ、普段制服だからあまり困らないというか……明菜はさすがに女の子だけあって色々持ってるよな」

「そりゃあまあ……おしゃれは好きだし……その、きーくんに可愛いと思ってもらいたいし」


 思わぬ反応に夏輝は顔が紅潮するのを自覚した。

 こういう不意打ちはやめてほしい。反応に困る。

 明菜を見ると、言った側も照れているっぽい。


「と、とにかく……コスプレっぽい、といわれてもどうすればいいのか……」

「……いっそ女装とか」

「は!?」

「ほら、きーくん線は細いし、肌もきれいだし、肩幅もそう広くないし」

「いやいやまてまて。それはない。というか勘弁してくれ。俺が羞恥心で死ぬ」

「えー。ちゃんと可愛く化粧もするよ?」

「……明菜、楽しんでないか」

「てへ」


 こういうところで悪乗りをする性格だというのはいい加減把握してきた。

 とはいえ女装は論外だ。たとえあの初めて家に来ることを承知させられたあの仕草をされても――なんとしても拒否する、と決意する。


「そういう明菜はどうするんだよ」

「私? うーん。私もノープランなんだよね。……ね、二人で探してみない?」

「へ?」

「せっかく週末だし。ハロウィンはまだ少し先だけど、そういうショップは年中やってるところもあるしさ」

「そうなのか?」

「うん、ほら」


 明菜がスマホの検索結果を見せる。

 この近くでも、電車で少し行けばコスプレ用の衣装や小道具を扱っている店はいくつもあるようだ。


「どうせなら、星にちなんだ衣装考えて、それで時間融通してもらって、それで天文同好会の展示もやろうよ、ね?」


 学級委員である以上、どうしてもクラスの準備に時間を使わなければならないが、天文同好会を基本展示物とかで終わらせるなら、アイデア次第ではあるが準備はともかく当日の労力は多くない。

 一応、部活側での準備がある生徒はそちらの準備を優遇してくれるという話にはなってるので、二足の草鞋わらじでも何とかなるとは思う。

 その上で、コスプレっぽい衣装で天文同好会をアピールできるなら、そこについては労力が半減してくれる。

 別に制服のままでいいんじゃないか、という気はするが、話題にはなるだろう。

 問題はどういう格好をするかだが。


「まあ……どっちにせよクラスの方でやらないとならないわけだしな……」


 なぜかウキウキしてる気がする明菜を、ややジト目で見つつ。

 とりあえず明日また会う約束が出来ることを嬉しく思っている自分を、夏輝は自覚するのだった。

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