第3話 商いと竜神の呪い
小さな隙間から差し込む太陽光が目に当たり自然と目が覚める。
昨日まであったかび臭い匂いも鼻が慣れたからだろうか気にも止まらなくなっていた。
(パレードは昼からか......まだまだ時間があるな)
首元から下げている懐中時計で時間を確認すると針は百二十度のあたりをさしていた。
起き上がりシーツを伸ばして下の酒場に顔を出す。
「商人さん、起きたのかい、昨日はすごかったねぇ」
そう笑いながら、バンバンと背中をたたくのはマリーザさんだ。
「いた、いったた」
声を漏らしても一向に止む気配のない打撃に骨を一本折られる覚悟を決めたのだった。
「そうだ、マリーザさんパレードお昼の間にもやるんですよね?何時ぐらいにあるんですか?」
アハハと笑うマリーザさんにそう聞くとそうだねぇと続けた。
彼女の話から二時過ぎぐらいに始まるとの情報を得て外出の準備を始める。
「さぁ、探索に行こう」
外に出るとそよ風に乗って凛とした風が流れてきた。
カルデラに流れ込んでくる風は標高の高い山を越えて流れる、その間に南からの温かい風も程よく冷える。
「過ごしやすいな、空気も透き通っていて」
村の真ん中にそびえる母なる樹。
その大きく広がる葉と高くそびえる幹は見るもの全てを圧倒し魅了してきた。
朝方、母なる樹のその広い葉は村全体を覆う。
「涼しいですね、行商人さん、であってますかね?」
そよ風に靡く髪が太陽に照らされ赤色に光り輝く。
純白のワンピースに身を包みふんわりと金木犀の香りが漂ってくる。
彼女の瞳はその髪と同じく綺麗な紅色に色付いていた。
(きれいだ......)
その姿、私はひどく見惚れてしまったのだ。
開いた口が塞がらなくなってしまうほどに。
「ぁぉ、あの!大丈夫ですか?」
気づくと彼女の体はグッと近づいて顔を覗き込んでいる。
その匂いに心臓がドクっと脈を打つ。
「あぁ、いや大丈夫だ、何か用かな?」
ほぼ目の前にある彼女の顔にハッと息を吹き返す。
「い、いえただ似てるなと思ったんです」
頬を赤らめながらそう答えた。
「誰にかな?あまり人に似てると言われたことはないんだが」
行商人故、これまで多くの場所を旅してきた。
その中で私のことがどこかで話に残っているのかもしれない。
「恥ずかしいんですが、竜神伝記に出てくる竜神様が人の姿になった時の姿に似てるなぁ、と」
胸がグッと縛られる。
「カハッ、カハカ」
咳と一緒に赤黒い血が吐き出される。
行商人レイには三つの呪いがかけられている。
一つは不死の呪い。
二つ目は名封じの呪い。
三つ目は身封じの呪い。
たった今、彼の身は名封じの呪いに身を蝕まれた。
その呪いは竜神レイ・グラディウスにかけられた呪いと同じものだった。
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