第7話 たこ焼き
司は明日香さんと話を終え、帰路についた。
あまりの友達がバカに見えるっていうのは、自分が特別やと思っているからじゃない
明日香の正論に司は傷ついた。たしかにその通りだ。
自分はどこかで自分のことを特別だと思っている。それはまぎれもない事実だ。親や親戚に愛され何不自由なく育ってきた。しかし高校生になってから、周りの友達とうまく馴染めなく、生きづらくなった。
司はどこかで自分を変えなければいけないと思った。しかしその方法がわからない。
明日香さんに抱いた淡い恋の炎も、小さな蝋燭の火のように勢いをなくした。
明日香さんには自分のような人間はふさわしくない。
司は家までの帰路を自転車に乗りながら、そんなことを考えたりしていた。
阪堺電車が通る大きな道路を渡り、たこ焼き屋の前を通ると、おいしそうなたこ焼きの匂いがした。よだれがたれた。そしてお腹がなった。たこ焼き屋には列ができていた。空腹に堪えれずたこ焼き屋の列に並んだ。司は前から5人目だった。
たこ焼き屋は老夫婦が営んでいた。コテコテの大阪弁でケンカするように会話しながら、たこ焼きして焼いていた。10個で260円。安いなと司は思った。
「ここのたこ焼き安いやろ?」
チカコが真後ろに立っていた。ニッコリと微笑んでいた。ただ少しぎこちない笑顔だった。
「びっくりした。チカコじゃん」
「図書館帰り?」
さっき図書館の前の公園のベンチに明日香と話していたときに、チカコはこちらを公園の入口から見ていた。
「そうだよ、さっき図書館にいたんだ」
「それで、図書館の前の公園のベンチでア・タ・シのお姉ちゃんと話してた。あたし、見たんやけどっ」
「えっ?お姉ちゃん?」
「そう、あの人があたしのお姉ちゃん。吉本明日香はあたしのお姉ちゃん」
「えっ、まじか。苗字はいっしょだと思っていたけど、まさか明日香さんがチカコのお姉ちゃんだとはね。世間って狭いね」
「あたしのお姉ちゃん、かわいいやろ?」
「そうだね。綺麗な人だね」
「あたしのお姉ちゃん若く見えるやろ?」
「うん?実際若いんじゃない?」
「実は34歳やで」
「えっ本当?」
「ホンマやで」
「大学生だと思っていた」
「チカコは何歳?」
「16歳」
「じゃあめっちゃ歳離れてるね」
「せやな、あたし歳取らんから」
「年取らないってどういうこと?」
「それは答えられへん」
チカコはなぜか悲しそうな顔をした。
そして急にこんなことを言い出した。
「あたしとお姉ちゃんどっちがかわいいやろ?」
チカコは自分の方をかわいいと言ってほしいのだろう。
でも司は黙っていた。なぜなら明日香の方が魅力的だからだ。かと言ってチカコにそのまま伝えることはできない。
司は笑顔でごまかした。
いつまでも答えない司にチカコは引きっった表情を浮かべた。
その時、司は、チカコは自分に恋しているなと思った。そしてチカコは間違いなく明日香に嫉妬している。
「あたしの方がかわいいって言ってくれへんのや」
「………」
「冗談でも言ってほしかったな…」
司の心は、チカコより明日香の存在のほうが大きかった。
いつの間にか列の前の客はいなくなっていた。司はたこ焼きを10個頼んだ。おばさんと分けて食べようと思った。
司はたこ焼きを受け取った。
その時、チカコの嗚咽が聴こえたような気がした。
後ろを見るとチカコはいつの間にかいなくなっていた。なんだ空耳か。チカコは急にいなくなったり、突然現れたりするところがある。
気まぐれな子だと思った。
「あたし、もっと生きたかった」
こんどははっきりと聴こえた。
生きたかったって、どういうことだ?
チカコは何か病気を抱えているのか?単なる空耳にしてははっきりと聴こえ過ぎだ。何かおかしいと司は感じていた。
司は辺りを必死になって見回したがチカコの姿はどこにもなかった。
チカコ一体君はどういう存在なんだ?
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