第6話 司と明日香

 ライフガードのバイト帰り、司は吉本明日香さんに会いに堺市内の市立図書館に立ち寄った。まだ夕飯まで時間がある。明日香さんはまだ館内にいるだろうか。


 司は図書館に入った。二階の受付に明日香さんはいた。


 「こんにちは。来ちゃいました!」


 司はおどけるように言った。


 「こんにちは。待ってました。ちょうど今日の業務が終わるところやってん。これから帰るところ」

 

 「今から話せますか?」


 「いいよ。公園のベンチで話さない?」


 「オッケーです。時間をとっていただきありがとうございます」


 「別にいいよ。わたし人と話すの好きやし」


 「じゃあベンチで待ってますね」


 「10分後に行く!」


 「コーラ、二つ買っておきます!」


 「ありがとう。そんなに気を使わなくていいんやで」


 「お時間とってもらってるんで」


 司は館内の自販機でコーラを二本買って公園のベンチに向かった。


 ベンチに座って待っていると、うだるような暑さで汗が吹き出てきた。蝉の声がやかましい。


 「おまたせ」


 白いワンピース姿の明日香さんがそこにいた。かわいくて頭がくらくらしそうだ。


 明日香さんが隣に座った。シャンプーの香りがほのかにする。


 司はコーラを一つ、明日香に渡した。


 「今日、僕、バイトだったんですよ」


 「へぇ〜、バイトしてるんや。何のバイト?」


 「プールの監視員です。めっちゃ日焼けしますよ」


 司は真っ赤に焼けた腕を見せた。


 「ほんまや。めっちゃ焼けてる。人間ってそんなに簡単に日焼けするねんな」


 明日香さんはそう言うと喉の奥でクツクツと笑った。小悪魔的な、魔製の女感がある感じの笑いだった。


 「で、プールってどこのプール?」


 「堺プールにです。あの流れるプールの」


 「あぁ、あそこな。子どもの頃よく行ったわ。懐かしいな、いろいろ」


 「子どもの頃って、友達と行かれたんですか?」


 「ううん、妹とよく行ってた。二人で」


 「妹さんですか。今でも仲いいですか?」


 「いや、なんていうか…、わからない…」


 明日香さんにとって、妹さんとの関係は複雑なのだろう。司は明日香の妹について、深堀りしないことにした。


 「僕、学校で上手く行ってないですよ。上手く周囲に馴染めなくて…」


 「周りの子がバカに見えるからじゃない?」


 「友達は幼稚だなと思います。話が合わないというか。女の子の話や、自分がいかに強いかといったような、マウントの取り合いが嫌いなんです。周りの友達は自己顕示欲の塊というか」


 「司くんってさ、初めて会ったとき、苦労してるって言ってたやろ?」


 「はい」


 「周りの友達がバカに見えるっていうのは、自分は特別やと思ってるからちゃう」


 明日香の言葉は、氷の刃のようにするどかった。

 

 「僕、どうすればいいでしょうか。学校でどのように過ごせばいいでしょうか?」


 「軽い雑談とか増やせば」


 「雑談?」


 「そう。司くんはコミュニケーションが足りないと思う。コミュニケーション不足は誤解に繋がりやすいで」


 「たしかにコミュニケーションが不足してるかもしれませんね」


 明日香はコーラをそっと飲んだ。


 司はベンチの後ろの公園の入口をふと見た。


 公園の入口には、チカコが止まった自転車に乗って、こちらを悲しそうに見ていた。

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