第3話 チカコ

 司が堺プールに到着したのは、10時少し前だった。


 プールの控室に行くと、アルバイトの学生たちがたむろしていた。男子学生が多かった。女子も数人ちらほらいた。


 「こんにちは〜!」

 

 一人の女子が話しかけてきた。


 「こんにちは」


 「バイトですか?」


 「はい。アルバイトです」


 「お名前聞いても?」


 「嶺井司といいます」


 「は〜ん!」


 「は〜んってなに?」


 「いや〜、東京弁やなって思って」


 「そのは〜んかよ。ところで君の名は」


 「吉本チカコ」


 「チカコちゃんね」


 「えっ、名前呼び?」


 「あっ、吉本さんのほうが良かった?」


 「いや全然、チカコでいいで。じゃや、あたしもあんたのこと司って呼ぶな!」


 「おん。なんか一気に距離が近くなったね。大阪の子って距離が近いね、なんかいろいろ」


 司の脳裏に涼子おばさんの顔が思い浮かんだ。今頃近所のオッチャンが家に来ているのだろう。


 「司って高校何年生?」


 「二年。オレ実は、東京の高校なんだ。夏休みの間だけ、大阪の叔母の家に来てるんだ」


 「なんで夏休みの間だけこっち(大阪)来てるの?」


 「まあ、オレ…、いろいろあるんだよ」


 「へぇ〜そうなんですか。いろいろあんねんなぁ。あっちなみにあたしは高一です」


 「じゃあ年下じゃん」


 「そういうことになりますね」


 「急に敬語にならなくていいよ」


 「オッケー!」


 「なんか君って、チカコって気まぐれだね。よく気分屋とか言われない?」


 「それめっちゃ言われる!なんか感情の落差激しいとか」


 「感受性が豊かなんだね、チカコは」


 「司はどんな性格なん?」


 「えっ?オレ?」


 「うん、司の性格聞かせて」


 「オレか〜。なんでもよく逃げるね、オレはいろいろなことから」


 「臆病ってこと?」


 「まっ、そんな感じ?」


 「まぁいろいろあるわな。人間やねんもん」


 「う〜ん、難しいよね、生きるってのは」


 「あっ、せや!司、お茶いらん?お茶!お茶買ってくるよ!」


 「別にいいよ、自分で買うから」


 「買う買う!あたし買うから!あっ、アイスも買おか!アイスアイス!」


 「アイスはいいって!まじでお茶とか自分で買うから!金ぐらい持ってるし、そんなに気を使わなくていいから!」


 「買ってくるっ!」


 チカコは控室から出ていった。


 そんな会話をチカコとしていると、プールの監視責任者の代表が控室に入ってきた。

 

 「ほい、じゃあ説明会はじめま〜す。えぇ〜、ライフガードの仕事について説明を始めます。私の名前は二階堂達也と言います。よろしくお願いします」


 ライフガードのバイトの説明会が始まったがチカコは控室に帰って来なかった。

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