第033話 コンドー〇


 皆と温泉旅行に行ってから1週間が経った。

 今週の5日間の仕事は楽しい温泉旅行とのギャップで本当にきつかったが、なんとか終えると、土曜日になり、家でまったりと過ごしている。


 僕がテレビを見ながらぼーっとしていると、カナちゃんが掃除を始めた。


「あ、手伝うよ」


 正直、手伝うという表現はおかしい。

 だって、ここ、僕の家だもん。


「大丈夫ですよー。私がやります」

「えー、でもー」

「先輩はそこに座っていればいいんです」

「そう?」

「はい」


 じゃあ……


 僕は今日も何もせずにゴロゴロとしている。

 オスライオンの気分だ。

 メスだけど……


「先輩、ちょっといいですか?」


 僕がゴロゴロしながらテレビを見ていると、寝室から顔を出したカナちゃんが手招きしてきた。


「なーに?」


 僕はソファーから起き上がると、寝室に向かう。

 寝室ではカナちゃんが掃除機を片手にベッドを見ていた。


「どうしたのー?」


 僕は声をかけながら後ろから抱きつく。


「もう! 先輩はすぐにくっついてきますね。違いますよー。ベッドの下を掃除しようと思うんです」


 なんだ……

 寝室に呼ぶからお誘いかと思った。


「掃除するの?」

「はい。全然してませんから。そういうわけでそっちを持ってください」


 カナちゃんがベッドの頭の部分に向かいながらベッドの足の部分を指差してきた。


「わかったー」


 僕はベッドの足の部分に手をかける。


「じゃあ、行きますよー。いっせーので!」


 僕とカナちゃんは同時にベッドを持ち上げると、ベッドをずらした。


「あー、重かった」

「ですねー」


 前の僕だったらもうちょっと楽に持てたのだろうが、今は貧弱なロリなため、かなり厳しかった。


「また戻す時に呼んでよ」

「はい。ありがとうございます…………ん?」


 ふと、カナちゃんがベッドがあった床を見て、首を傾げる。


「どうしたの?」

「何か落ちてます……これは、えっと……」


 カナちゃんが床に落ちている小さな箱を拾う。


「あ、それはね……」


 カナちゃんが手に持っているのはカナちゃんと付き合った日にコンビニで買ったコンドー〇だった。


 そんなところに落ちてたのか……


「えーっと、これは……え? あれ?」


 ん?

 カナちゃんの様子が変だ。


「カナちゃん?」

「えっと、確か、あの日、先輩がコンビニで買って……それを見て私は……あれ?」


 カナちゃん、僕がこっそり買っていたのを見ていたのか……


「カ、カナちゃん、ちょっと落ち着こうか」


 僕はコンドー〇の箱を見ながら固まっているカナちゃんの肩を抱くと、ベッドに座らせる。


「ゴム……泊まり……でも、先輩は……」


 これ、マズくないか?

 常識改変の矛盾がカナちゃんをえらく混乱させている。


「ちょっと貸してね」


 僕はカナちゃんの手からコンドー〇を奪うと、クローゼットの中にあるスーツのポケットに入れる。

 そして、ベッドに戻ると、カナちゃんの隣に腰かけ、肩を抱いた。


「せ、先輩……何か気持ち悪いです」


 カナちゃんが手を口元に持っていく。


 これ、明らかにヤバいだろ。


「カナちゃん、横になろうか」


 僕はカナちゃんをベッドに寝かせた。


「先輩…………先輩は先輩ですよね?」

「うん、そうだよ。ほら」


 僕はカナちゃんの手を握る。


「先輩……お願い、抱きしめてください。私、なんか変です」

「うん……」


 僕は横になると、カナちゃんをギューッと抱きしめ、背中をさすった。

 すると、カナちゃんがキスをしてきた。




 ◆◇◆




 僕は身体を揺すられて、目が覚めた。


「先輩、先輩」

「ん? カナちゃん?」

「はい」


 カナちゃんが素っ裸で上半身を起こし、僕を見下ろしていた。


「どうしたの?」

「どうやら寝ちゃったらしいですけど、もう夕方です」


 そう言われて、時計を見ると、午後4時を回ったところだった。


「そっかー……あれ? カナちゃん、体調は大丈夫?」

「はい? 何がですか?」

「え? 気分が悪いって言って、ベッドに横になったんじゃないの?」

「ん? 何を言っているんですか? お掃除をしていたら先輩が急に甘えてきたんじゃないですか」


 は?

 どういうこと?


「そうだっけ?」

「そうですよ。後ろから抱きしめてきて、ベッドに誘ったんじゃないですか。お掃除中だったのにー……」


 おい……

 何が起きた?

 僕の記憶が間違っているのか?

 寝ぼけていたのか?


 それとも……


「そっかー……ごめんね。カナちゃんの後ろ姿を見ていたらつい……」

「仕方がないですねー。先輩は甘えん坊さんですもんね」


 カナちゃんがそう言って僕の頭を抱く。

 大きくて柔らかいものが僕の顔を包んだ。


「カナちゃん、柔らかーい」

「ホント、好きですねー。でも、ここまでです。夕ご飯を作らないといけません」

「それもそうだね」


 僕達は服を着終えると、ベッドを元に戻す。

 すると、カナちゃんがリビングに戻っていった。


 僕は一人になると、クローゼットを開け、スーツのポケットに手を入れる。


「…………やっぱり僕の記憶が間違っているわけでもないし、寝ぼけていたわけでもない」


 スーツのポケットに入っている小さな箱を取り出す。

 その小さな箱は僕が前にコンビニで買ったコンドー〇だった。


「常識改変……か」


 これ、思っていたよりかなりマズいわ。

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