第025話 甘いもの
ある日の土曜日。
僕はニャー子と共に話題のふわふわパンケーキが食べられるというお店に並んでいた。
「僕、並ぶの好きじゃないんだけどなー……」
「奢ってやるから我慢するにゃ」
いや、まあ、今日はカナちゃんが友達と遊びに行ってるし、暇だからいいんだけどさ。
「なんでパンケーキ? 昔食べたホットケーキが恋しくなったの?」
男にとっては行きにくい店だが、今なら行けるし。
「違うにゃ。写真を撮ってアップするにゃ」
「例の営業?」
「そうにゃ」
「ニャー子は僕以外に写真を撮る人はいないの?」
社長は社長だし、チヒロっちは未成年だから遠慮するのはわかる。
でも、他に友達がいないのか?
「前にもちょろっと言ったけど、タマはすべての人間関係を断ち切ってるにゃ」
そういやそうだった。
宝くじのせいで親とすら切っているんだった。
「アイドル仲間は? こういうのってさ、同じメンバー内でやらない?」
「仲が悪いというわけではないけど、メンバー内でも人気争いとかあるからギスギスにゃ」
いや、それは仲が悪いだろ。
「頼めないんだ?」
「ぶっちゃけ、タマはこういうキャラ付けだから女子からは嫌われるにゃ」
僕はもう慣れたけど、確かにうざいかもしれない。
あざといし、男に媚び媚びなキャラだ。
「普通にやったら?」
「演じてないと素が出るにゃ。握手会とかで嫌な顔して舌打ちしたら間違いなく、人気が地に落ち、卒業という名のクビにゃ」
なるほど……
そういえば、ニャー子は最初からこの口調だったし、一人称は私だった。
よく考えたら男の時の口調がわからない。
「ニャー子、素でしゃべってみてよ」
「なんで? 嫌だわ」
と言いつつ、男言葉。
「パンケーキ好き?」
「好きも何も食べたことないから知らん」
これが北山タマキ(♂)の本当の口調だろう。
多分、一人称は僕じゃなくて、俺だと思う。
「ニャー子、戻っていいよ」
なんか怖いし……
「そうにゃ?」
北山タマキ(♂)がニャー子に戻る。
「うん。アイドルをクビになりそうだね」
「だからそう言ったにゃ」
「ニャー子はなんでアイドルをしてるの? 前にスカウトされたって言ってたけど、そんなに稼ぎがいい?」
「地下アイドルってマイナーかもしれないけど、やっぱり皆かわいいにゃ」
うん?
まあ、ニャー子だってかわいいだろう。
「それが?」
「それでさ、控室なんかは小さな倉庫みたいな所や狭い部屋だったりするわけ」
「ふんふん」
僕は続きが気になって頷く。
「皆、その狭いところで着替えるにゃ。天国にゃ」
すごい!
僕もアイドルになりたくなってきた!
「いいね!」
「しかもさ、タマたちが遠征とか行く時はワゴンなわけ。そしたらもうくんずほぐれつにゃ」
「ドスケベめ! ドスケベニャー子め!」
「まあ、そんな中で葛藤しているのがタマなんだけどにゃ……」
どうした、急に?
「葛藤って?」
「あんまり興奮しない」
あー、ニャー子の複雑な性癖のせいか……
「うーん……もういっそイケメンにでもナンパされてヤッちゃえば? 新しい扉を開こうよ」
「その扉の向こうにいるのがお前にゃ。嫌にゃ」
嫌かー……
僕達は前後の女の人達に変な目で見られながらも待ち続け、ようやく店に入り、パンケーキを頼む。
そして、しばらく待っていると、2人分のパンケーキがやってきた。
「ようやくだよ……しかし、カロリーすごそう……」
めっちゃ甘そう。
「タマはともかく、お前は別に気にしなくてもよくないかにゃ?」
ニャー子はアイドルだからそういうのが厳しそうだ。
「いやー、男だろうが、女だろうが、そろそろ気になりだすよ。最近は甘いものをよく食べているからねー」
「カナちゃん?」
「そうそう。カナちゃんが作ってくれるんだよ。2人で食べている時に聞いたんだけど、カナちゃんはいくら食べても太らないらしいよ。この巨乳は何を言ってんだって思った」
「まあ…………そこに栄養が行っているんだろうにゃ」
僕的には何も問題ないし、ありがとうだけどね。
男に戻ったら絶対に✕✕✕✕してもらう。
「ニャー子、そんなことより、写真を撮ってよ。早く食べたい」
「それもそうにゃ」
ニャー子がスマホをテーブルと僕に向ける。
「ネットから適当に拾ってくればいいのに」
「そういうのはすぐにバレるにゃ。はい、撮り終わったから食べるにゃ」
「うん、美味しい」
「速いにゃ……」
どんだけ待ったと思っているんだ。
◆◇◆
「皆さー、食べ物の趣向が変わったりしてない?」
ニャー子とパンケーキ屋に行った翌日、いつものファミレスでポテトを食べながら3人に聞く。
「食べ物? うーん、変わってないと思うが、なんでだ?」
社長が聞き返してきた。
「いやさー、昨日、ニャー子とパンケーキ屋に行った時に思ったんだけど、最近、甘いものばっかり食べているなと思って」
「あー、そういうにはあるな。よく物をもらうんだが、明らかにそういうのが増えたし」
やっぱり社長にもそういうのがあるらしい。
「ニャー子も変わった?」
「ある意味変わったにゃ。徹底した食事制限にゃ」
よく続けられるな……
「Aのくせに頑張るね」
「お前もBにゃ。それにこういうのは胸に行かず、腹に行くにゃ。カナちゃんが特殊にゃ」
あの子は神が僕に与えたエンジェ……
キモいからやめよ。
「チヒロっちは?」
「俺は付き合い自体が変わりましたからね。今までは男子とラーメンだったりお好み焼きだったりを食べに行ってましたけど、女子の友達の方が増えたせいで逆にそういう店に行くようになりました」
学生はそうなるか……
「チヒロっちさー、今のうちに女子の友達を増やした方がいいよ」
「俺も同じことを思った。特にかわいい子」
「いいと思うにゃ」
社長とタマは僕の言わんとすることを理解したようだ。
「なんでです?」
「だって、今だったら自然に仲良くできるじゃん。それで男に戻っても仲の良さ自体は引き継がれるわけでしょ? それってすごいアドバンテージだよ」
「女慣れもするしな」
「女心がわかるちょーモテ野郎の誕生にゃ」
社会人で狭いコミュニティしかない僕達はすでに遅い気がするが、日常の半分が女子という学生のチヒロっちには大きいだろう。
「な、なるほど……」
「ヤリ〇ンになってくれ」
「刺されないようにだけは気を付けろよ」
「あと、避妊にゃ」
大事だね。
あれ? そういえば、あの日にコンビニで買ったあれはどこだ?
「が、頑張ります!」
頑張りたまへ。
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