第024話 痴漢、あかん


 朝早く起きて、東京駅に向かった僕達は大阪行きの新幹線に乗りこんだ。

 そして、新大阪駅に着くと、電車に乗り換え、講習会会場に向かった。


 講習会場に着くと、席に着き、講習を受ける。


「………………」

「………………」


 暇だ。

 非常に暇だ。

 隣に座っているカナちゃんはメモを取りながら真面目に聞いているし、社長達にはああ言ったが、さすがに真面目に講習を受けているやる気のある後輩の前で寝るわけにはいかない。


 僕はつまんないなーと思いながらも真面目に講習を受けながら終わるのをひたすら待つ。

 そして、夕方になり、ようやく終わると、カナちゃんと共にホテルに向かった。


「あー、疲れた」

「お疲れ様です」


 ホテルに着くと、ベッドに腰かけ、一息つく。


「カナちゃん、真面目に受けてたねー」

「私が行きたいって言ったやつですからね。それにしても先輩が真面目に受けるとは思いませんでした」

「いや、先輩だから。模範にならないといけないんだよ」

「先輩は十分に模範的な良い先輩ですよ」


 カナちゃんがそう言いながら抱きついてきた。


「悪い後輩だなー」

「お尻を触ってくるエッチな先輩よりましです」


 だって、柔らかいんだもん。


「カナちゃん、ご飯に行こうか。部長が5千円くれたし」

「おー、さすがは部長」


 僕達はホテルを出ると、近くの居酒屋に向かい、ご飯を食べることにした。

 そして、ご飯を食べ終えると、ホテルに戻り、ゆっくりする。


 翌日、この日も朝からつまらない講習を受け、ようやく長い勉強の時間が終わった。


「あー、疲れた。新幹線の時間まであまりないし、行こうか」

「そうですね」


 僕達は講習会を終えると、足早に駅に向かい、新大阪駅までの電車に乗る。

 すると、平日の夕方だったため、電車はかなり混んでいた。


「カナちゃん、座っていいよ」


 僕は一人分の座れるスペースを見つけたのでカナちゃんに勧める。


「先輩が座ってくださいよ」

「いいからいいから」


 カナちゃんを半ば強引に座らせると、カナちゃんの前に立った。


「ありがとうございます。おみやげを買わないとですね」

「新大阪の駅でいいでしょ」

「それもそうですね」


 ん?


 僕とカナちゃんが会話をしていると、お尻に違和感がした。


「先輩?」


 カナちゃんが不審に思ったらしく、聞いてくる。


「いや、なんでもない。家に着くのは何時かな?」


 僕がそう聞いた瞬間、電車が少し揺れた。

 それと同時にお尻に何かが当たる。


「んー?」


 僕は後ろを振り向いたが、相変わらず、混んでいるだけで誰も僕を見ていない。


「どうしました?」

「いや、なんでもない」


 気のせいかな?


「…………そうですか」

「疲れているなら明日休んでもいいよ?」

「大丈夫ですよ。それに明日出たら休みです。頑張れます」


 偉い子だなー。


 僕が感心していると、またもや電車が揺れる。

 すると、今度はお尻のなぞるように触られる感触がした。


「ん?」


 後ろを見たが、さっきと変わらない。


 当たっただけか……?


「先輩、座ってください」


 カナちゃんは目を吊り上がらせて、そう言うと、立ち上がり、僕の腕を引っ張った。

 そして、僕を座らせると、僕がさっきまで立っていた場所に立つ。


「いや、カナちゃんが座ってていいのに」

「大丈夫です。今の私は誰でもぶち殺せそうなんで」


 いや、何が!?

 やめてよ!


 僕が怖いなーと思いながら怒っているカナちゃんと話しながら到着を待つことにした。


 新大阪駅に着くと、おみやげ屋で会社用のおみやげを買い、新幹線に乗り込む。

 すると、席についてすぐにカナちゃんが僕の手を握ってきた。


「どうしたの?」


 甘えたいのかな?

 それは家に帰ってからにしてよ。

 さすがに新幹線のトイレの中は無理だよ?


「先輩……可哀想に」


 何が!?

 僕の頭!?


「え? 何?」

「先輩、さっき痴漢されてましたよね?」


 はい?

 あー……さっきのって痴漢か……

 確かに最初は偶然かもって思ったけど、最後のなぞり方は痴漢かもしれない。


「そうかも……」

「可哀想に……怖くて声も出せなかったんですね」


 いや、別に……

 お尻を触られたくらいで怖いとは思わない。

 むしろ、気持ちはわかる……いや、犯罪者の気持ちをわかったらダメだけど。


「いや、そういうわけではないよ。単純に電車が揺れた拍子に当たったのかなって思っただけ」

「……え? そんなわけないじゃないですか」

「そうなの?」


 偶然かもしれないじゃん。


「先輩、痴漢されたことないんですか?」


 あるわけない。


「ない……家から会社も近いし、あまり混んでいる電車に乗らないし」

「せ、先輩、もしかして、今までも気付いていないってことありません? 先輩、にぶ……とろ……ぽわぽわしてるし」


 にぶ?

 とろ?


「ないと思うけど……」


 男だったし……


「先輩は電車とかバスに乗る時は絶対に席に座るようにしてください。いいですね?」

「あ、うん」


 だから満員の電車やバスに乗ることはないんだけどな……


 この日は家に帰るまでも家に帰ってからもカナちゃんがやたらとくっついてきた。




 ◆◇◆




「皆さー、痴漢されたことある?」


 大阪から戻った翌週の日曜日にいつも通り、3人と集まったので聞いてみる。


「痴漢? ないな。基本、移動は車だからな」


 そういえば、社長はいつもベン○だったな。


「タマもないにゃ。電車には乗るけど、昼間だし」

「朝とか夕方に乗ることはないの?」

「荷物が多いし、込みそうな時間はタクシーにゃ」


 なるほど。

 アイドルはちゃんとしてるな。


「チヒロっちはー?」

「あー……そういえば、前、通学バスに乗っている時にお尻を触られたことがありますね」


 な~に~?

 JKのお尻を触った?

 そりゃ、やっちまってますわ。


「どうしたの?」

「なんとなくイラッとして、手で払って睨んだら慌てて逃げていきましたね」


 ギャル強い。


「捕まえなかったの?」

「当時は女の子になりたてだったので当たっただけかなと思って気付きませんでした。でも、今考えると、あれって痴漢のような気がします」


 僕と同じで気付かなったパターンか……


「どうしてそんなことを聞くにゃ? 痴漢されたか? それともカナちゃんに痴漢プレイをされたのかにゃ?」


 ニャー子が聞いてくる。


「いや、先週、大阪で電車に乗ったんだけど、お尻を触られた。揺れてから当たったのかなと思ったけど、カナちゃんいわく、あれは痴漢だってさ」

「あー、なんとなくだけど、エロミは痴漢されそうな雰囲気がするな」

「わかるにゃ。痴漢しても声を出さなそう」

「気が弱そうに見えますよね。実際は鈍いだけの鬼畜ロリですけど」


 そうかなー?


「あのさ、僕、そんなに鈍そうに見える? とろそうに見える?」

「見えるな……」

「実際、鈍いし、とろいにゃ」

「まあ……」


 僕も金髪に染めようかな……

 そうしたら俊敏に見えるかもしえない。

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