第022話 誕生日


 金曜日。

 僕はこの日、残業もせずに会社を出る。

 すると、すぐにカナちゃんも会社から出てきた。


「先輩、一緒に帰りましょうよ」

「そうだね」


 僕達は一緒に帰ることにし、並んで家に向かって歩いていく。

 すると、カナちゃんが僕の腕に自分の腕を絡めてきた。


「えへへ」


 はにかむように笑うカナちゃんはとてもかわいい。

 そして、僕の腕に当たる大きくて柔らかい感触がとても素晴らしい。


「カナちゃんはかわいいね」

「そんなことないですよー。先輩の方がかわいいです」


 うん……

 かっこいいって言って欲しかったな。

 まあ、仕方がないか。


「寒いねー」

「もう11月の終盤ですからね。先輩、今日が何の日か知ってますか?」

「そりゃね」


 僕の誕生日。

 26歳の……


「えへへ。おめでとうございます」


 カナちゃんがそう言うと、ぎゅっと腕を掴む力が強くなった。


「ありがと」

「今日は先輩は何もしなくていいですから王様気分でいてください」


 いや、こう言ったらあれだけど、カナちゃんと付き合ってからほぼ家のことをしていないんだけどな。


 僕はまあいっかと思いながらカナちゃんのおっぱいを堪能しつつ、家に帰った。


 家に帰えると、カナちゃんがいつもより豪華な食事を作ってくれたので一緒に食べる。


「美味しいね。カナちゃんは料理も上手だわ」

「ありがとうございます。でも、先輩だって料理するんでしょ? 結構、道具とか揃ってますよね?」

「一人暮らしも長いしねー。でも、たいした料理じゃないよ。炒めるだけ」


 大抵のものはフライパンにぶち込んで火を通せばいい。

 それで味付けを変えれば、一週間持つ。


「一人暮らしだったらそれで十分ですからね。私も1人だとそんなもんです」

「いつもご飯を作ってくれてありがとうだけど、無理しなくてもいいよ」


 仕事もあるのに大変だろう。

 しかも、皿洗いも掃除も洗濯もしている。

 …………あれ? 僕は何してるんだ?


「無理はしてませんよ。それに喜んでくれるのが嬉しいですから」


 やっぱり結婚するならこの子だわ。

 神様が与えてくれた僕だけのエンジェル。


 僕、キモ……


「ありがとうねー。愛してるよー」

「えへへ。私もです。先輩、微妙にお腹がいっぱいじゃないですよね?」


 まあ、正直に言えば、今日のご飯の量はいつもより少なかった。


「何かあるの?」

「もちろん、ケーキを用意しています」

「おー! 買ってきてくれたんだ」

「いいえ。作りました」


 マジ?


「いつのまに?」

「昨日の夜、先輩がすやすや寝ている時です。サプライズです!」


 そういえば、昨日はやたらお酒を勧めてきて、早く寝させられたな……


「なんか申し訳ないな……」


 主にカナちゃんの誕生日に……

 僕、そこまでやる自信はない。


「いえいえ。先輩の喜ぶ顔が見たかったんです」


 あかん。

 涙出そう。

 僕、『カナちゃんと別れるが、男に戻る』と『女のままだけど、カナちゃんとずっと一緒にいられる』という選択だったら間違いなくカナちゃんを取るよ。


「カナちゃん、ちゅーしよ」

「それは後です! ちょっと待ってくださいね」


 カナちゃんはそう言うと、立ち上がり、キッチンに向かう。

 そして、ホールケーキを持ってくる。


「すご……」


 お菓子作りが趣味らしいがこれを作ったの?

 お店のじゃん。


「ロウソクを刺しまーす」


 カナちゃんはそう言いながら1本のロウソクをケーキに刺すと、ライターで火を着けた。


「1本なの?」


 26本も刺されても困るけど。


「これはね、来年には2本になるんです」

「うん」

「再来年は3本です」

「うん」

「そして、いつかはケーキを覆いつくすんです」

「うん。ずっと一緒にいようね」


 僕、明日死ぬんじゃね?


「はい! ささ、ふーっと消してください」


 僕はそう言われたので息を吹き、ロウソクの火を消した。

 すると、すぐにカナちゃんがパチパチパチと手を叩く。


 あー、やべ……マジで幸せで死にそう。




 ◆◇◆




「君らさー、僕を見て、何か言うことない?」


 日曜日。

 僕はファミレスに集まった3人を見ながら尋ねる。


「誕生日、おめでとう」

「おめでとうにゃ」

「おめでとうございます」


 3人はテーブルの真ん中に置かれたポテトを摘まんで僕の口元に持ってくる。


「もぐもぐ…………いや、違くて。君らに祝われなくてもいいから」

「まあ、ニャー子も祝う気はないにゃ。男同士だし」


 普通はそうだよね。


「そうだな。まあ、奢ってやるから好きな物を頼め」


 ありがたいが、いつも社長がお金を出してくれているから微妙。

 いや、いつもありがとうなんだけど。


「そのマフラーはどうしたんです?」


 真面目なギャルが正解を当てる。


「チヒロっちは目の付け所が違うなー。いいでしょ? めちゃくちゃ温かい。何故か、普通のマフラーよりも温かい」


 何故なら、そこに愛があるから。


「良かったにゃ。似合ってると思うにゃ」

「エロミは白が似合うな」

「そっすね。カナさんからですか?」

「そうそう。僕、マフラーキャラになるよ。夏も巻く」


 暗殺者か忍びキャラ。


「安易なキャラ付けにゃ。あと、お前は素でひどいから無理だと思うにゃ。多分、暑いって言ってすぐ取るにゃ」

「うーん……」

「否定できない……」


 おい!

 僕もさすがに本気では言ってないけど、おい!


「まあいいや。マフラー持ってなかったからちょうど良かったよ」

「良かったにゃ。熱い夜だったかにゃ?」

「そりゃね。優しいカナちゃんに戻ってくれたよ」

「すぐにドSに戻るにゃ」


 だろうね。

 僕もそこは否定しない。


「でも、男に戻った時も使えるやつで良かったよ。これが消えたら泣きそう」


 このマフラーは白くて男でも女でも巻いていて違和感はない。


「あー、そういえば、女になった時に男の服が消えたもんな。もし、女性用のものだったら男に戻った時に消える可能性があったか……」


 社長が思い出したように言う。


「そうそう。さすがに僕も誕生日だし、プレゼントはくれるだろうなと思っていたけど、内心、ひやひやしてた」


 もし、下着とか化粧品みたいな物だったら消える可能性がある。

 どんな物でもせっかくカナちゃんがくれる物なのだからそれだけは避けたかった。


「まあ、もうすぐでもう一回あるにゃ」


 ニャー子の言いたいことはわかっている。

 僕は11月22日生まれ。

 翌月の終盤には恋人達の聖夜が待っている。


「ユニセックス物をくれますように!」


 僕は両手を合わせて祈る。


「要求したらどうにゃ?」

「付き合って最初のクリスマスに? そういうカップルもいると思うけど、カナちゃんはサプライズを好んでいるよ? 何しろ、僕に内緒でケーキを自作しているくらいだから」


 美味しかったし、嬉しかったけど、カナちゃんの誕生日がある5月が怖い。

 もう指輪を贈るしかないと思っている。

 男に戻ったらだけど。


「うーん、それは…………タマも祈ってやるにゃ」


 ニャー子も両手を合わせて祈り始めた。


「ロリ二人が祈ってるな……」

「微笑ましいですね」

「俺達も祈ってやるか……」

「そうっすね」


 社長とチヒロっちも祈りだした。


 僕は温かい友情に感謝すると共に誰も『クリスマスまでに男に戻りますように』とは祈らないんだなと思った。

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