第020話 趣味
部屋に甘い匂いが漂っている。
僕が一人暮らしをして数年経つが、部屋で嗅いだことのない匂いだ。
「せんぱーい、できましたよー」
可愛いエプロンを着たカナちゃんが皿を持って、リビングにやってくる。
そして、その皿をローテーブルに置く。
その皿の上にはカナちゃんが焼いてくれたアップルパイが乗っていた。
「すごい! お店のみたい!」
「えへへ。そうですか?」
「食べてもいい?」
「どうぞ」
僕はアップルパイを一切れ取ると、食べてみる。
すると、サクッという触感とリンゴの甘みが口に広がっていった。
「美味しい! カナちゃん、すごい!」
「えへへ……お菓子づくりが趣味なんですよ」
「へー。すごい上手だね」
「ありがとうございます。先輩は趣味とかないんですか?」
趣味?
AV見て、✕✕✕✕だけど、今はカナちゃんがいるしなー……
「うーん、なんだろ……動画見てるか、ソシャゲだしなー」
「じゃあ、一緒にお菓子を作りましょうよ」
まあ、料理は嫌いではない。
最近はずっとカナちゃんが作ってくれるからやってないが、一人暮らしだから自炊はしていた。
「やってみようかなー」
「じゃあ、今度、エプロンを持ってきますね」
なんでエプロン?
別にいらないんだが……
「このままで大丈夫だよ?」
「ダメでーす。ちゃんとエプロンを着てもらいます」
このこだわりは何だろ……?
◆◇◆
「……ってことがあったんだけどさー」
僕達はいつものファミレスで3人と顔を合わせながらいつもの男に戻る会議という名の雑談をしている。
「うん。それでにゃ?」
「剥かれて裸エプロンにされたよ」
「タマは途中で気付いたにゃ」
「やっぱり? 僕もうすうす気づいてたけど、まさか自分がやるとは思わなかった。また男に戻ったらカナちゃんにやらせることが増えたよ」
ちょっと多すぎな気がする。
「カナちゃんも大概、変態にゃ。でも、カナちゃんってお菓子作りが趣味なんだにゃ」
「そうなんだよね。この前、ちょろっとそういう話をしたら作るって言いだして、昨日作った。上手だったね」
「ふーん、すごいにゃ。お菓子なんて子供の頃にホットケーキを作ったことくらいしかないにゃ」
僕もそんなもん。
「ニャー子は趣味ってある? そういう話になったんだけど、僕は✕✕✕✕くらいしかない」
「タマもそんなもんにゃ。男の時は猿みたいに✕✕✕✕してたし、趣味みたいなものにゃ。まあ、あとはアニメ見てるか、漫画を読むくらいにゃ」
「そんなもんだよねー。社長は何かある?」
社長に話を振る。
「俺か? 付き合いでゴルフとか色々やっているが、趣味って言うほどじゃないな。一人ではやらないし」
なんか上流階級っぽい。
「まあ、一人でもやるくらいが趣味っぽいね」
もちろん、草野球とかフットサルみたいな団体競技は別だけど。
「しいて言うなら料理かな? 自分が好きなもんを作って、好きな酒を飲んでる」
「独身貴族だねー」
「まあ、そんな感じだな」
「チヒロっちはー? というか、部活とかやってる?」
ちなみに、僕は卓球部だった。
弱かった。
「部活はやってないっすねー。中学はサッカー部でしたけど」
サッカー部……リア充の匂いがする。(卓球部の僻み)
「趣味とかないの?」
「うーん、特には……」
社長以外、誰も趣味らしい趣味がないのか。
「僕達も趣味を作ろうか」
「趣味って作るものかにゃ?」
「別に何でもいいじゃん。誇れるものじゃなくてもいいから何かない?」
カナちゃんがいない時、暇なんだよ。
「一緒に同人誌でも書くかにゃ?」
「同人誌? 僕、最近、アニメ見てないよ?」
「別にそういうのじゃなくてもオリジナルでもいいにゃ。上手くいけば、電子とかでウハウハにゃ」
ほうほう!
「でも、根本的な話なんだけど、絵を描けない」
もちろん、漫画も描けない。
「タマが描くからお前が話を考えるにゃ。お前、ド変態で話が上手いからできるにゃ」
「カナちゃんとの情事を描くの?」
「いや、それはさすがにマズいにゃ。参考にするのはいいけど、そのまんまはやめるにゃ」
まあ、カナちゃんに悪いか……
「じゃあ、TSしたら調教されっちゃったというタイトルにしよう」
「まんまだけど、まあいいにゃ。お前はどっちも自分って考えながら話を作るにゃ」
「どういうこと?」
「お前、ドMのくせに鬼畜だから攻める男の方を男の自分と考えて、攻められる方を女の自分と考えるにゃ」
なるほど……
「よし、考えてみる!」
「頑張るにゃ。タマも別にそこまで絵が上手いわけじゃないから話で勝負するにゃ」
「わかった!」
よし、考えてみよう!
「こいつの変態性を世に出すのか……」
「とんでもないものができそうですね……」
1年後、僕とニャー子は数百万円の臨時収入を手に入れた……
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