第019話 進路


 僕は今日も残業をしていた。

 とはいえ、あまり集中できてはいない。


 周囲を見渡しても誰もいないが、隣の席のパソコンの電源はついており、何かのファイルが開いた状態の画面が映っている。

 でも、そこの席にいるはずの後輩の明浦さんこと、カナちゃんはいない。


「先輩は変態さんですね」


 机の下から声が聞こえる。


「ち、違うよ」

「じゃあ、なんで穿いてないんです?」

「それはカナちゃんがそうしろって言うから……」

「えー、そんなこと言ってないですよ」


 言ったじゃん。


「そろそろ仕事しようよ」

「そうですね。早く帰らないとメグちゃんが可哀想ですもんね。もうこんなに……」


 僕らは一体、仕事中に何をしているんだろうね?




 ◆◇◆




「仕事かー……辞めたいなー……」


 僕はいつものファミレスでポテトをつまみながらつぶやく。


「辞めるにゃ」

「ニャー子、5億でいいからくれ」

「今まで何人もたかろうとする奴と縁を切ってきたけど、ここまでの大物は初めてにゃ」

「僕も宝くじ買おうかな……」


 7億当たんないかなー?


「辞めてもやることないにゃ。タマも最初はうえーいって思ったけど、1ヶ月で飽きたにゃ。本当に暇にゃ」

「カナちゃんと1日中ただれるよ」

「まだ調教されたいのか…………でも、本当に人間って適度なストレスがあった方が人生潤うにゃ」


 そんなもんかねー。


「ニャー子も今、ストレスを感じてる?」

「地下アイドルはストレスばっかりにゃ。ちやほやされるのは楽しいし、いいお客さんも多いけど、厄介なのも多いにゃ」


 なんか危ないな……


「ストーカーとか大丈夫?」

「まあ、その辺は注意してるにゃ」


 多分、僕よりストレスが大きそうだ。

 7億も持ってるくせに……


「社長はストレス感じてる?」


 対面に座っている社長に聞いてみる。


「感じてるなー。いまだに頭を下げないといけないし、部下への配慮もある」

「会社を経営って大変そうだもんねー」


 責任が僕らみたいな平社員の比ではないだろう。


「簡単に大金を稼げないもんかねー……」

「お前はすぐに稼げるにゃ」

「どうやってさ?」


 できるもんならとっくにしてるんだが……


「おっさんのモノをしゃぶるか、風呂でヌルヌルしてこい。お前の見た目とテクならすぐに何百万も稼げるにゃ」

「嫌だよ。なんで僕が風俗嬢にならないといけないんだよ」


 5秒でイカせる自信はあるけど、それを披露する予定はないのだ。


「でも、手っ取り早く金を稼ぐのはやっぱりそれにゃ。性を売るのが一番にゃ。まあ、タマもそういう意味では性を売ってるにゃ」


 アイドルだもんな。

 直接的に売っているわけではないが、カテゴリーとしてはそっちに入るか……


「僕もアイドルになろうかなー……」

「良いと思うにゃ。でも、風俗嬢もだけど、タイムリミットがあるからそれ以降のことを考えておくべきにゃ」


 それもそうだなー。

 30、40歳になってまでできる仕事ではない。


「ニャー子はどうするの?」

「タマはバイトに戻るにゃ。もちろんだけど、男に戻ったらできなくなるし」


 それもそうだ。


「アイドルはなしだなー」

「やっぱり風俗嬢にゃ。お前は愛想も良いし、調教済みだからすぐに売れるにゃ」

「嫌だよ。やっぱり今の仕事を続けるかー。やっぱり将来のことを考えると、定収入の方が良さそう」


 カナちゃんと結婚して、子供もできたことを考えると、収入の保証は欲しい。


「まあ、それが普通にゃ…………そういうわけでタマ達はこんな感じにゃ。参考にするにゃ」


 ニャー子がチヒロっちを見ながら言う。

 僕達の話はチヒロっちが進路に悩んでいたので僕達の話を聞かせてあげていたのだ。


「えーっと、結論としては普通に正社員として働け、ですか?」


 チヒロっちが確認してくる。


「一番金を稼げるのは風俗嬢にゃ。でも、嫌だろうし、起業も厳しいにゃ」

「まあ、そうっすね……できそうにないです」

「チヒロっちは大学には行かないんだっけ?」


 前にそういう話を聞いた。


「そうっすね。ウチにお金もないですし、勉強はもういいっす」

「まあ、わからなくもない」


 学生は休みも多いし、楽しいが、勉強はマジで嫌。


「エロミ姉さんはなんで今の会社にしたんですか?」

「適当というか、受かったところがそこだっただけ。あとは条件を見てだね。ぶっちゃけ、入ってみないとわからないところが多い。会社説明会なんかも良いところしか言わないしね」

「な、なるほど」

「まあ、先生とか先輩を頼るといいよ。あと、社長が知っていれば評判を聞くといいかも」


 僕がそう言うと、チヒロっちが社長を見る。


「知っていればな。当たり前だが、知らん会社の方が多い」


 そりゃそうだ。

 付き合いがあったり、業種が同じならば、噂なんかも入ってくるだろうが、そうじゃなったらまったくわからない。


「うーん……」

「まあ、最近はガチャって言葉が流行っているように最終的には運だよ、運。どんなに良くても上司がダメだったり、自分に合う、合わないがあるからね。僕だって、微妙な会社に入ったなーっと思ってたけど、今はそうでもない」

「そうなんです? 愚痴ばっかり言ってますけど……」


 まあね。


「そりゃ忙しいから愚痴も言うよ。でも、仕事にも慣れてきたし、期待されてるらしいからねー。それに隣の席にロリ巨乳の直属の後輩が座っていたからそれ目当てに耐えた。しかも、その子が彼女になったね」

「なるほど」

「まあ、就職して会社に入ってもそこで一生働かないといけないことはないからね。辛けりゃ辞めればいいよ。悩みすぎず、気楽に行こう」

「わかりました。エロミ姉さんはたまにまともなことを言いますね」


 そうかなー?


「エロ話が良かった? じゃあ、僕がカナちゃんに命令されてノーパンで仕事に行った話でも聞く?」


 なお、一昨日。


「いいっす……」

「真面目に仕事しろよ」

「というか、全部言ってるにゃ」


 いや、仕事が終わって、一緒に帰っている時が話の本番なんだけどな……

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