第014話 青春 ~sideチヒロっち~


 俺は最後のテストを終え、燃え尽きた……


「チヒロー、どうだった?」


 テストを終え、真っ白になっていると、前の席に座っている女子が笑顔で聞いてくる。


「赤点は免れた……ギリ」


 多分……だが。


「あはは、良かったねー。打ち上げ行く?」

「いや、今日は帰る。寝てないんだ……」

「あ、一夜漬けだったんだ」


 女子が楽しそうに笑う。

 今日はテストの最終日だから無理をしたのだ。


「そういうこと……眠い」

「お疲れー。また行こうよ」

「そうだね……」


 俺はカバンを取ると、立ち上がり、正面玄関に向かった。

 そして、下駄箱から靴を取り出すと、履き替える。


「南川、ちょっといいか?」

「え?」


 声をかけられたので振り向くと、見たことはあるが、名前は知らない他所のクラスの男子が立っていた。


「何?」

「ここではなんだからちょっと場所を変えてもいいか」


 え? え?


「いいけど……」

「悪い」


 俺達は人気のない校舎裏に向かった。


 え?




 ◆◇◆




「僕、思うんだよね。アイドルって、AVに行くために知名度を上げてるんだって」


 いつものファミレスでロリにしか見えないエロミ姉さんが相変わらずの最低発言をしていた。


「そうかにゃ?」

「この前さ、結構有名なグラビアアイドルの子がAVに行ったっていうのネットの記事で見たんだよ。でも、僕、その子を知らないの。ものすごい後悔した。一年前に戻ってファンになっておけばよかったってさ」


 この人は素面でこれを言えるのがすごい。


「それ、脳が破壊されないか?」

「社長は素人だね。僕くらいになると、僕の力でAVに堕としたっていう妄想までできる」


 この人、怖いな。


「お前、普段は彼女に調教されまくっているドMのくせにひどい奴だにゃ」

「調教じゃないし! 愛だし!」

「DVされているのにそれを認めない女みたいになってるにゃ」


 同じことを思った。


「いや、殴られたことはないから」

「でも、風呂場で✕✕✕✕させられて、おしっこ漏らしたんでしょ? 引くにゃ」


 うん、引く。

 ひっどい。


「当人が幸せならいいじゃん」


 あ、幸せなんだ……

 この人、もうダメだな。


「まあ、タマはお前らのヤバい関係はどうでもいいにゃ。あと、AVにも行かないにゃ」

「行けよ。ニャー子はAだけど、なんかイケそうな気がする、友人補正がかかる」

「お前……友人で✕✕✕✕すんにゃよ……しかも、それを報告するにゃよ」


 ホント、最低だ。


「でも、社長もチヒロっちも買うよね?」

「まあ……」

「確かに……」


 買うかも……


「いや、AVには行かないから。そんなクソみたいな話より、チヒロっちはテストどうだった?」

「あ、そういやそうだね。お疲れ様。お疲れ記念にパフェを奢ってあげるよ」


 エロミ姉さんがメニューを渡してくれる。


「どうも。テストはどうにかなりそうなんですけどねー……」

「ん? 何かあったか?」


 社長が聞いてくる。


「ええ……ちょっと大問題が……」

「当ててあげよう。お姉さんかお母さんにエロ本が見つかった」

「今の時代はエロ本じゃなくてスマホにゃ。つまり、スマホを見られたにゃ」

「いや、違います」


 俺がそう言うと、対面に座っているロリ2人ががっくしと項垂れる。

 こうやって見ると、可愛らしいリアクションで非常に微笑ましいが、さっきの会話のせいでまったくそう思えない。


「じゃあ、何?」

「実はテスト終わりに帰ろうとしたら他所のクラスの男子に声をかけられまして……」


 俺がそう言うと、3人が固まった。


「それで?」

「校舎裏に行き、告られました……」


 付き合ってくれと言われた。


「マジか……」

「青春にゃ」

「何て答えたの?」


 エロミ姉さんが聞いてくる。


「いや、俺もびっくりして固まっちゃって……そしたら返事は急がないって言われました」

「ふーん、かっこよかった?」

「チャラそうでしたね」


 モテてそうだった。


「まあ、ギャルを選ぶくらいだし、そんなもんか……どうすんの?」

「いや、さすがに断ります。俺、女子が好きなんで」


 男なんだから当たり前だ。


「まあ、そうだわな」

「タマなら考えるけど、チヒロっちはそうだろうにゃ」


 社長とタマさんが頷いた。


「チヒロっちは何を悩んでいるの?」


 エロミ姉さんが聞いてくる。


「断るのは断るんですけど、どうやって断ろうかなって……」

「直接会うのは嫌なわけだ。期待を裏切るわけだしね」

「そうっす。気まずいっす」


 さすがはエロミ姉さん。

 非処女なだけはある。


「普通にメッセージアプリでいいと思うけど、知ってる?」

「知らないっす。友達に聞こうかなとも思っています」

「それはやめた方がいいよ。連絡先を知らないなら知らないままの方がいい。僕なら脈があると思っちゃう」


 あー……


「確かにそうにゃ。連絡を取って、友達になり、あわよくばと思うかも……」

「俺もそう思うな。諦めきれなくなる」


 なるほど……


「じゃあ、直接言うしかないっすか?」

「下駄箱に手紙でも入れておけば?」


 下駄箱か……


「それは不誠実じゃないかにゃ?」

「なんでさ?」

「向こうは勇気を出したわけだし、ちゃんと答えるべきにゃ」

「そんなもんを押しつけられてもめんどくさいだけでしょ。ニャー子は男の時に自分に引っ張られすぎ。自分だってアイドルやってんだから似たようなことはあるでしょ? それにいちいち対応していたら持たないって」


 さすがはエロミ姉さん。

 大人だ。

 さっきまで風呂場で✕✕✕✕させられて、おしっこ漏らしたことを幸せと言っていた変態とは思えない。


「社長はどう思うにゃ?」


 タマさんがこの中で一番年上の社長に聞く。


「うーん、すまんが、アドバイスできそうにない。学生時代にそういう体験をしてこなかったし、女になった今でも告白されたことはない」

「社長はスタイルもいいし、かっこいいし、美人だけど、あのベン〇がよくないよね。どう見ても、かたぎじゃない怖そうな男の影がチラつく」

「わかるにゃ。あれは女が買う車じゃないにゃ」


 確かに……


「そうか? お前ら、俺の車をものすごく批判するよな? そんなに悪いか? 気に入っているんだが……」


 社長がちょっとショックを受けている。


「社長……いつも車に乗せてもらってますけど、たまに怖い時があります」

「いつ?」

「サングラスをかけて、タバコ吸っている姿の時です。今の社長ならまあ、かっこいい女性かもって思いますけど、これが180センチの男だと思うと、かたぎには見えません」


 どう考えても、ヤバい。


「ヤバいにゃ。そんな男がギャルJKを連れているなんて裏の仕事をさせているようにしか見えないにゃ」

「社長、まさかと思うけど、男の時って髪型がオールバックだったりしない?」

「する……」


 怖っ!

 今思うと、茶髪なのが救いだ。


「…………社長って、お金を浄化する仕事をしてないよね?」

「してないわ! 普通の会社だ! わかった! ベン〇は売って、クラ〇ンにする!」


 あんまり変わらないような……


「いや、そこまでしなくてもいいけど、タバコはやめたら? 身体に悪いよ?」

「それはやめない、というか、俺のことはどうでもいいわ」

「あ、そうだった、そうだった。チヒロっちの断る方法ね。直接でもいいし、手紙でもいいと思うよ。大事なのはちゃんと断ること。チャラ男はしつこいから」

「そうします……」


 断る悩みがどうでもよくなってきたな……

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