第007話 周りの変化


「西野、ちょっといいか?」


 僕が仕事をしていると、部長が呼んできた。


「はい。何でしょう?」

「ちょっと来い」


 部長が立ち上がってフロアを出ていったのでついていく。

 すると、階段近くの自動販売機のコーナーまでやってきた。


「何か飲むか?」

「あ、じゃあ、コーヒーを」


 僕がそう答えると、部長は自販機で缶コーヒーを買う。


「ほら」

「ありがとうございます」


 部長が渡してきたので素直に受け取ると、お礼を言った。


「西野、明浦はどうだ?」


 カナちゃん?


「覚えもいいですし、良い子だとは思います」

「そうか……最近、お前も明浦も遅くまで残業をしているようだが、人は足りているか?」

「足りてませんけど、新入社員でも入ってくるんですか?」

「いや、その予定はない。人事に言っているんだが、来年はウチの部署はゼロ」


 ダメじゃん。


「そうですか……」

「やれるか?」

「これ以上、仕事が増えなければ大丈夫です」

「わかった。何とかしよう」


 部長はそう言うと、僕の肩に手を置く。


 どうでもいいけど、距離近いな、おい。


「お願いします」

「頼んだぞ」


 部長がそう言って、フロアに戻っていったので缶コーヒーを一気に飲み干すと、トイレに行く。

 そして、用を足し終えると、手を洗った。

 ふと、鏡を見ると、自分の後ろにカナちゃんがいることに気が付く。


「ん? 明浦さん、どうしたの?」


 さすがに会社ではカナちゃんとは呼ばない。


「先輩、大丈夫です?」


 カナちゃんがそう聞きながら近づいてくる。


「何が?」

「いや、さっき部長にセクハラされてました」


 セクハラ?


「どこが?」

「いや、肩を触られてました」


 見てたの?

 というか、それくらいでセクハラ?


「そうかな?」

「そうですよ。可哀想に……」


 カナちゃんはそう言いながら抱きついてきた。


「うーん……」


 でもまあ、男だった時に部長に肩を触られたことはなかったなー。

 しかも、よく考えたらカナちゃんの肩に触る男がいたらぶっ飛ばしてやりたくなる。


「先輩はちょっとガードが緩い気がします」


 そうかな……?

 でも、どうでもいいけど、今、君もお尻触っているよね?

 仕事中なんだけど……


「カナちゃん、仕事に戻るよ」

「はい。今日、泊まっていってもいいですか?」


 いつもじゃん。




 ◆◇◆




「ねえねえ、皆、周りに変化ってある?」


 日曜日になり、ファミレスにやってくると、皆が揃ったので聞いてみる。


「変化って何にゃ?」


 ニャー子が聞いてくる。


「男の距離が近くない? 僕、カナちゃんに言われるまで気付かなったんだけど、男だった時と比べて、上司も同僚もなんか近いんだよね? あと、たまに触ってくる」


 あれから周りを注視していると、確かに距離感が近いというか、話しかけないと話してもない同僚も声をかけてきていた。


「エロミは微妙に鈍いからにゃー」


 それはカナちゃんにも言われた。


「確かに純粋で簡単にお持ち帰れそうな雰囲気があるな」


 持ち帰んな、処女厨!


「エロミさんはぽわぽわしてますもんね。中身はドエロですけど」


 なんでこいつら、純情を装っているんだろう?

 男なんて一皮むいたらおっぱい、×××、セッ○スだろ。


「それでさー、そういうことがあって、カナちゃんに注意されたんだけど、皆はどうなのかなって」

「うーん、それはものすごくあるな」


 社長が嫌な顔をする。


「そうなの? やっぱり男からのセクハラ?」

「いや、セクハラはない。社長だぞ」


 それもそうだ。

 どこの世界に社長にセクハラをする部下がいるんだって話だ。


「じゃあ、何?」

「視線だな」

「あー、わかるっす」


 チヒロっちも同意した。


「視線って?」

「男と話していると、明らかに視線が下に行く」

「そうっすね。男だった時との差がすごいです」


 マジか……


 僕はニャー子を見る。


「当然にゃ。というか、タマはそういうのが仕事だから逆に見てもらわないと困るにゃ」

「なるほど……でも、ニャー子、ないじゃん」


 凹凸が見当たりませんが?


「Aをバカにするなにゃ。それにお前とたいして変わらないにゃ」

「僕、B」

「死ねにゃ」


 ニャー子がおしぼりを投げてくる。


「ケンカするなっての。エロミはそういう視線を感じたことないのか?」

「あんまりないかな……街でも会社でもカナちゃんといるしね」

「あー、ロリ巨乳の彼女……確かにそっちに目が行くか」


 どうでもいいけど、ロリ巨乳って言うな。

 ロリ巨乳だけど。


「エロミ、彼女の写真は持ってるにゃ?」

「あるよ」


 スマホを出すと、2人で撮った写真を表示させ、テーブルに置いた。

 すると、3人が写真を見る。


「想像以上にロリ巨乳だな……」

「そういえばだけど、エロミも小さいし、童顔だからロリに見えるにゃ。どう見ても清楚なロリ2人にゃ」

「この2人がヤリまくりって思うと背徳感がありますね」


 おい!


「君らの感想おかしくない? かわいい彼女だねって言って、僕の自尊心を満たしてくれる場面だよ」


 こんなにかわいいのに。


「お前、そういうところがあるよな……」


 うっさい!


「確かにかわいい彼女さんだと思うけど、お前も似たような感じだから友達同士にしか見えないにゃ」


 恋人だよ!


「女同士ですもんねー。エロミさんのことだからどうせ、昨日もヤってたんでしょうけど」


 ここに来る1時間前までヤッてたわ!

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