第006話 一人称


「先輩って自分のことを僕って言いますよね?」


 カナちゃんがご飯を作りながら聞いてくる。


「うん。そうだね」

「いつからですか?」


 いつから?

 物心がついた時からだが、性別が変わっているため、自信がない。


「子供の頃からかな……?」

「なるほどー」

「へ、変かな?」


 あんまり僕が一人称な子っていない気がする。

 子供の頃ならまだしも大人では皆無な気が……


「変ではないですし、かわいいと思いますよ」

「そ、そう?」


 僕はソファーから立ち上がると、キッチンまで行く。

 そして、カナちゃんを抱きしめた。


「もう! ご飯を作っているんですから大人しくしてくださいよ。あっ……」




 ◆◇◆




「ねえねえ、一人称ってどうしてる?」


 僕はドリンクバーでオレンジジュースを入れ、テーブルに戻ってくると、座っている3人に聞く。


「一人称?」


 社長が聞き返してきた。


「そうそう。社長とか俺じゃん。違和感がすごい」

「それは私も思ってたにゃ。キャリアウーマンみたいな見た目で俺はないにゃ」


 ホント、ホント。


「あー、でもまあ、俺で慣れているしな」

「会社ではどうしてるんっすか?」


 チヒロっちが聞く。


「会社は私だな。社会人は私だろう。エロミもだろ?」


 僕?


「外向きはそうだけど、社内では僕だなー……」

「お前、本当に僕っ娘なのか……同僚や上司はどんな反応だ?」

「別に誰も何も言ってこないよ。慣れたんじゃないかな」


 皆、普通だ。


「うーん、その辺の変化がわからんな。当然、男だった時は僕でも違和感がないわけだし」

「わかんないね。チヒロっちは?」


 デリケートな高校生が気になる。


「俺っすか? 正直なことを言うと、家や学校では私でいってます。親と姉貴に怒られたんで」

「まあ、それでいいと思うよ」

「私もそう思うにゃ。イジメとかあるし」


 このギャルをいじめるのはないと思うが、ハブとかはあるかもしれない。


「自分も最近はそう思ってます。女子の友達も増えましたしね」


 学生は難しいだろうな。


「じゃあ、社長もチヒロっちも俺って使うのはここだけ?」

「そうだな。ここだけは男に戻れる気がする」

「そうっすね。わかります」


 違和感がすごいからやめてほしいが、そういうことなら仕方がない。


「ニャー子は私だよね?」

「タマにゃ。私は地下アイドルのキャラ付けのためにプライベートでもこの言葉遣いで通しているにゃ。前は俺だったけど、封印してるにゃ。じゃないと、油断して出てきそうだし」


 アイドルも大変だな。


「そのキャラ付けだけど、一人称が私より自分の名前の方がよくない?」

「タマってことにゃ?」

「そうそう。にゃーでもいいけど、それだとにゃーにゃーうるさいからタマでいいじゃん」


 僕がそう言うと、ニャー子が考え始める。


「それが良いかもしれないにゃ。タマでいくか……」

「ちなみに聞くけど、売れてる」

「微妙。コアなファンは多いにゃ」


 よくやるな……

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