第003話 呼び名


「ハァ…ハァ……」

「クスッ……先輩かわいい」


 僕が息を切らしていると、明浦さんが抱きついてくる。

 お互いに裸だから明浦さんの大きくて柔らかい胸をダイレクトに感じることができるが、やはり何か物足りない。


「明浦さんさ、僕に不満はない?」


 デザートイーグルが欲しくない?


「うーん、不満ですか? そうですねー……しいて言うなら関係性が進んでいないことですかね?」


 こんなに身体を合わせているのに?


「どういうこと?」

「ほら、私達って付き合って3ヶ月は経ったじゃないですか?」

「そうだね」


 まさか記念日的な?

 付き合って3ヶ月だから何かを寄こせと?


「それなのに苗字呼びって変じゃないです?」


 あ、そっちか。


「それもそうだね。うーん、じゃあ、カナちゃんって呼ぶ」


 明浦カナだからね。


「はい! じゃあ、先輩もメグちゃんって呼んであげます」


 うーん、まあ、そういうあだ名があった時期もあるから別にいいけどさ。

 小学校の時だけど。


「カナちゃんさー、お風呂に入ろうよ」


 僕はそう言いながらカナちゃんの大きな胸に顔を埋める。


「すぐ甘えてきますね。はいはい」




 ◆◇◆




「僕達さ、改めて自己紹介しない?」


 本日は2回目のファミレス会合となり、全員が揃ったので提案してみる。


「自己紹介?」


 茶髪ポニテのお姉さんが首を傾げる。


「いや、僕達が知っているのってハンドルネームじゃん」


 茶髪ポニテ、ギャル、にゃー。

 本名わかんねー。


「まあ、俺はいいぞ」

「俺も」

「私もいいにゃ」


 よしよし。


「じゃあ、言い出しっぺの僕から。僕は西野メグミ。25歳で社会人」

「お前…………ハンドルネームっぽくないなって思ってたが、本名だったのか」


 本名でいいじゃん。


「そうだよ。あとは…………彼女がいる!」

「はいはい……わかった、わかった。じゃあ、次は俺がいこう。俺は伊東カオル。28歳で社会人だ。というよりも会社を経営している」


 社長じゃん。


「すごい!」

「初めて会った時からかたぎじゃない雰囲気を感じてましたけど、社長だったんですね……」

「ここはお前のおごりにゃ」

「まあ、それは構わんが……」


 社長、良い人すぎ。

 ってか、年上か……

 めっちゃタメ口だったわ。


「次はどっちにする?」


 僕は残っている2人を見る。


「じゃあ、私が言うにゃ。私は北山タマキ。長年ニートをやっていたけど、今は地下アイドルをやってるにゃ」


 地下アイドル!?

 いや、待て。

 この人はツッコミどころが多すぎる。


「ニートだったの?」

「そうそう」

「引きこもり? 歳は?」

「歳はアイドルだから言えないにゃ。でも、お前らよりかは年下。あと引きこもりではないにゃ。ちゃんと今も昔も一人暮らしにゃ」


 どうでもいいけど、にゃーにゃー、うるさいな……


「ニートなのに一人暮らし?」

「そうにゃ。宝くじで7億当たったから一生ニートにゃ」


 すげー!

 ガチの勝者がここにいた!


「マジか……」

「それはすごいっすね」


 2人も驚いている。


「まあ、そういうわけでほとんど働いてないにゃ」

「ふーん、まあいいや。じゃあ、最後にギャル」

「ギャル言うなし」


 いや、ギャルじゃん。


「ハンドルネームだろ」


 社長がツッコむ。


「まあ、そうっすね。思いつかないから適当に書いただけなんっすけど。えーっと、俺は南川チヒロっす。歳は17で高2ですね」


 高校生ギャルか。


「ふむ……一つ分かった」


 僕は気付いてしまった。


「何がだ?」


 社長が聞いてくる。


「僕達の共通点です」

「東西南北が入っているな。あと、名前が男女のどっちでも通じる」


 社長ー!?

 僕のターンですよー!?


「ひどい……」

「さめざめ泣くな! お前は見た目的に罪悪感が強いわ!」

「こんな男らしいのに?」

「どこかだ! 男を知らない女子大生みたいな見た目しやがって」


 なんだそのたとえ?

 社長、もしかして処女厨?

 残念、僕は処女じゃない。


 カナちゃんがね……


「でも、共通点は確かにありますね」


 ギャルの南川君がつぶやく。


「まあ、だから何だって感じだけどにゃ」


 まあね。


「よし! 次にそれぞれの呼び名を決めよう」


 僕は自己紹介が終わったので本題に入った。


「呼び名? なんでだ?」


 社長が聞いてくる。


「今朝、そういう話をカナちゃんとしてたから。僕、付き合って3ヶ月なのに苗字で呼んでいた」

「それはマズいな…………いや、それが俺達の呼び名とどういう関係がある?」

「特にないけど、しいて言うなら僕だけ本名なのが気になる」


 皆、西野と呼んでいた。


「それが本音か……まあいいぞ。適当に決めろ」


 よしよし。


「じゃあ、決めやすいとことから決めよう。伊東さんは社長でいい?」

「それでいいっす。正直、さっきの自己紹介を聞いてから脳内ではずっと社長だったし」


 僕もだね。


「私もそれでいいにゃ」


 よし、茶髪ポニテの伊東さんが社長。


「お前らにも社長と呼ばれるのか?」


 微妙に嫌そうだ。


「いいじゃん。あだ名、あだ名」

「まあいいが……」


 よし、納得した。


「次はー……」


 ギャルと地下アイドルのニートを見比べる。


「あ、私でいいかにゃ? 実を言うと、芸名がタマだからタマにしてほしいにゃ」


 そういうことならそうしよう。


「猫みたいな名前だからそのキャラ付け?」

「そうにゃ」


 売れないな。


「じゃあ、次は南川君ね。えーっと、南川チヒロか……何かある?」

「うーん、ちーちゃんか?」


 それはダメ!

 絶対にダメ!


「チヒロっちでいいと思うにゃ」

「何でもいいっすよ」


 チヒロっちはどうでもよさそうに頷いた。


「じゃあ、それで。最後は僕だけど何かある?」


 メグちゃんは嫌だな……

 それはカナちゃんだけが呼んでいいあだ名だ。


「エロミでいいにゃ」

「異議なし」

「しっくりきますね……」


 おい!

 なんでだよ!

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