第002話 4人娘


 僕がふと目が覚めると、外からちゅんちゅんというスズメの鳴き声が聞こえてきた。

 そして、上半身を起こすと、とんでもないものが目に飛び込んでくる。


 そこには白くて小さな体、そして、手足も細く、それなのに明らかにその小さな身体とは不釣り合いな胸を持つ女の子がお人形さんのような顔をしてスヤスヤと眠っていたのだった。

 しかも、服どころか下着すらも身に着けていない全裸だ。


「あ、そうか……」


 僕は昨日、明浦さんと付き合うことになって、家に誘ったんだ。

 それで……


「ん? 先輩……?」


 明浦さんが目をうっすら開けると、こする。

 すると、何がとは言わないが、大きなものが揺れた。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」


 あれ?

 声が変だ。

 風邪引いたかな?


「いえ、もう朝ですか?」


 そう言われたので時計を見ると、朝の8時を過ぎたあたりだった。


「そうだね。8時くらい」

「そうですか…………ふふっ」


 ふいに明浦さんが僕を見ながら笑う。


「どうしたの?」

「いーえ。昨日の先輩がかわいかったなと思って」


 いやいや、君の方がかわい、かった…………

 あれ? おかしい……

 ソファーで押し倒した記憶はあるんだが、その後の記憶がない。


「どうしました?」


 不審に思ったのか明浦さんが上体を起こし、聞いてくる。


「僕、昨日、そんなにかわいかった?」

「ええ。ものすごく。あんなに声を出して…………ふふっ」


 声を出す?

 僕が?

 逆じゃない?

 いや、知らないけどさ。


「そ、そう……」

「あ、恥ずかしいですか? もう! かわいい!」


 明浦さんがそう言って抱きついてくる。

 すると、明浦さんの胸が僕の胸に当たり、興奮して……こない!?

 いや、待て! おかしい!

 明らかに反応しなければならないものを感じない!


 僕は明浦さんから離れると、そーっと、下を向く。

 すると、僕の身体には微妙としか言えないふくらみとあるべきはずのデザートイーグルがなかった。


「…………あれ?」

「んー? どうしました?」


 明浦さんが首を傾げる。


「明浦さん、僕達、昨日から付き合っているよね?」

「はい。忘れたんですか?」

「いや、確認」

「そうですよ。昨日、先輩が告白してきて私がOKしました。そして、家に連れ込まれて、押し倒されました」


 うん、合ってる。


「ちなみに、僕って男? 女?」

「はい? 何を言ってるんですか?」

「いや、確認」

「女の子でしょ。どう見ても。僕っ娘ですけど……」


 そうだっけ?


「あれー?」

「先輩、大丈夫です? 飲みすぎ? それとも激務で病んでます?」

「いや、そんなことないけど……」

「じゃあ、寝ぼけているんですね。今日は休みですし、二度寝しましょう」


 明浦さんはそう言って、横になる。

 そして、俺に向かって両手を広げた。


 俺の目には大きな胸へ誘う女神にしか見えなかった。


「まあ、いっか! わーい」

「もう!」


 僕達は二度寝することにした。




 ◆◇◆




「……って感じ」


 僕は話を終えたので3人を見る。

 すると、3人共、微妙な顔をしていた。


「えーっと、つまり、お前も朝起きたら女になっていたわけだな?」


 茶髪ポニテのお姉さんが確認してくる。


「そうだね」

「彼女さんも普通なリアクションだったわけです?」


 今度は金髪ショートのギャルが確認してくる。


「そうだね」

「そんでもって、お前は巨乳好きのバカってことでいいかにゃ?」


 最後に変な語尾をしている黒髪ツインテが確認してきた。


「バカではないけど、そうだね」


 巨乳最高。


「なるほど……」

「つまり、その彼女さん以外は俺らとほぼ変わらないわけっすね」

「そうなるにゃ。私らは目が覚めたら女になっていたという10秒で終わった説明だったのに最後のこいつだけ長々としゃべったにゃ」


 まあ、ほぼ自慢したかっただけ。


「それでさ、どうすんの?」

「さあ?」

「どうするって言われてもなー」

「わかんないにゃ」


 この集まり、意味あるか?


 僕はあの後、二度寝から起きると、着替えを持ってきていなかった明浦さんが家に帰ってしまったので一人で悩んでいた。

 そして、途方にくれてSNSに【朝起きたら女になっていたw】とつぶやいたのだ。

 すると、すぐにメッセージが届いた。


 どうやら同じような現象が起き、悩んでいる人達がいたらしい。

 それがこの3人だ。

 僕はこの人達と数ヶ月近くやり取りをし、今日、初めてこのファミレスで会うことにしたのである。

 そして、一人一人、性転換した時の状況を改めて説明したのだ。


「僕、いまだにドッキリだと思っているんだけど」

「自分が女になるドッキリって何だ?」


 それもそうだ。

 周りが女の子になっていましたは人を入れ替えられたらできるが、自分は無理だろう。


「うーん、しかし、なんでだろうか?」

「わからん。とりあえず、何かあったら報告しよう。それとやはり定期的に会った方が良いだろう」


 これは今日来るまでに決めていたことだ。


「日曜でいいんっすよね?」


 ギャルが確認する。


「そうだな。俺と西野は社会人だし、お前も学校があるだろ」


 あ、西野は僕ね。

 西野メグミ。


「そうっすね。じゃあ、それいいです。テスト前とかは来れないと思いますけど」

「それで構わん。俺達だって急用があったり、仕事が入るかもしれないしな」

「うっす」


 しかし、女の子達が男言葉を使っているのはシュールだな……


「じゃあ、今日は顔合わせだけだし、解散でいいかにゃ?」


 この人はこの人でキャラを作りすぎだし……


「そうだな。解散しよう。あ、ここは俺が払おう」


 茶髪ポニテさんが伝票を取る。


「あ、僕が出しますよ」


 さすがに学生のギャルには払わせられないが、僕も社会人だ。


「問題ない」


 いい人だ。

 実を言うと、最近、お金の減りが早いのだ。


 …………主にラブホ代で。

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