第3話 台湾ヤクザの問題解決能力

 さてこのオッサン、英語を話します。後で聞いたところでは、中古オートバイの売買や輸出入をやっていて、その関係でインドネシアに行き、奥さんともその時に知り合ったのだそうです。


  センターの中へ入ると、10人くらいのオペレーターがずらりと並んだパソコンに向かい作業をしている。その前にある受付デスクをはさんで、こちら側には数十の椅子があり、沢山の人が順番を待っている。受付で書類を渡し、オペレーターが入力し、出力印刷された免許証を、再び受付で受け取る、というシステムです。

  条件反射的に、私は「受付順番票マシン」を探していると、彼はスタスタと受付の机の脇をすり抜け、いきなり、一人のパソコンオペレーターの所へ行き、私の関係書類を渡している。オペレーターの女性が「順番が・・・」なんて言い、また、こちらで順番待ちをしている数十人も注目しているのですが、オッサンは知らん顔で「早くこれをやれ」なんて言っている。


  私は「オレは関係ないよ」という顔で隅に隠れていたのですが、いきなりオッサンが「おーい日本人、こっちへ来い」なんて手招きをする。その場の全員が「あれが日本人か」なんて囁きながら私を見る。「穴があったら入りたい」とはまさにこのことでした。

  大学日本拳法時代、東京上野は西郷さんの銅像の前で大きな声で歌を歌った時には感じなかった「恥ずかしさ」ですが、「順番を守らない日本人」という視線には参りました。  まあ、当時の台湾人は、みな日本人に寛容でしたので、何の騒ぎにもなりませんでしたが。


  私が近くへ行くと、彼は「お前はどんなバイクに乗りたいんだ」と聞いてくる。私は根が楽天的というかバカなので「台湾では希望する車種のバイクに乗れるのか」と思い、「ハーレー・ダビットソンのような(1200ccくらいの)大きなバイクで走ってみたい」なんて気楽に言うと、オッサンはオペレーターの前のパソコンの画面を指さして「大型バイクだ」なんて指示している。オペレーターの女性はそのように入力しようとして、私の日本の免許証のコピーと見比べ、驚いたように「彼の免許は中型バイクよ」と抗議する。

  すると、オッサンはなんと「かまわないから大型にしろ」なんて、無茶苦茶なことを言う。

  困ったオペレーターは、書類を持って上司の所へ走り寄る。上司は書類を見て考え込むと、どこかへ電話をしている。私は「いくら何でもこりゃ無理だよな」なんて思いながらも、どうなることやら、と見ていました。

  結局、私の日本の免許通りになりました(当たり前ですね)。


〇 台湾ヤクザの(陽気な)視力検査

  さて、もう一つ問題が発生。

  台湾の語学学校へ入る時に、私は台湾の病院で身体検査を受けてその診断書を提出していました。今回、運転免許証の必要書類として「健康診断書」とあったので、私はその健康診断書のコピーを運転免許センターへ提出したのです。

  ところが、「言われてみれば当たり前」のことなのですが「運転免許の取得にレントゲン写真で問題ないとか、エイズ検査で陰性だった」なんて検査結果が要るわけがない。運転免許証に必要なのは「視力(&聴力)検査」なのです。


 これに関してもオッサンの問題解決方法は直線的です。

 オッサンは数メートル離れたところにいる私に向かって「おい、おれが見えるか」と大きな声で聞くので「イエス」と答えると、「ほら、ちゃんと見えてるじゃないか。OKにしろ」なんてオペレーターに迫る。彼女は再び上司のところへ走る。上司はまたどこかへ電話して、頭を振る。


 すると、オッサンは表へ私を連れだすと、すぐにバイクに乗り、私にもヘルメットを手渡す。 10分位で大きな病院へ着くと、今度は病院の受付を無視していきなり視力検査場へ直行し、数台ある検査機のオペレーターに直談判、結果、大勢の順番待ちをすっ飛ばして、いきなり私の番となる。

 日本の視力検査と同じシステムなのですが、オッサンが検査技師の横に立って、いちいち私に答えを教える。円の上下左右、どこが欠けているか、なんていう検査の時には、上だ右だ下だ、その都度私にサインを送る。

 検査技師の女性は、そのたびに「ちょっとやめてよ」みたいに上を見上げる。まあ、実際に見えているので「カンニング」の必要はないのですが、オッサン陽気なんですね。

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