最終章 マザーランド       遠之 えみ作

吹雪は悩んでいた。

あの事件から、もう1年は過ぎているというのに、ビッグデイパーは今だに吹雪を受け入れようとしない。他の兵士たちは事件後、暫くは吹雪と距離を置く者が目立ったが、今では殆どが吹雪の卓越した武術に尊敬の眼差しを向ける様になっていた。

しかし、つくしやサクラがムーン、ジュピターの背に跨り華麗に疾走する姿を見るにつけ、吹雪の心は千々に乱れた。

ある夜、吹雪は気分転換に一人で散歩に出かけた。意図した訳ではないが、足は自然とテイラミスの倉庫へと向かっていた。

一年以上も前に、兄弟姉妹勢揃いで水晶玉と闘った事件の結末は、結局のところ蓋をしたままだ。吹雪をもってしても、事の成り行きをテイラミスに話すのはハードルが高すぎた。一年前の吹雪はまだ13歳程の子供である。悪ガキの称号を欲しいままに撥ね回っていたとしても、やはりテイラミスは怖かった。スフレも恐いところはあったが、テイラミスとは比較にならない。そこで吹雪は一計を案じ、成り行きを魔女に話す事にした。魔女は終始目を閉じたまま聞いていた様だが、吹雪が話し終えて帰る頃には鼾をかいていたから、本当に聞いていたかどうかは怪しいものだが、吹雪はこれで良しとした。

吹雪は物音を立てず倉庫に飛び乗ると、難なく天窓から中に入り込んだ。

倉庫は途轍もなく大きい。その広い倉庫内には、穀物や塩漬けの魚、乾燥させた野菜などがある。ドライフルーツもたっぷり蓄えている。一年前サクラが疑問を持ち、ドクターに聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。「災害に備えて、以上‼」

今でも、この素っ気ない返事は、パンジーが鼻を膨らませてすぐそばに居たからだと吹雪は思っている。パンジーの追求から逃れるため……

天窓は5ヶ所だ。50メートル幅、高さは10メートル、奥行きは100メートル程の巨大な倉庫で、地下は一部シェルターになっている。

入り口は2ヶ所だが、5メートル間隔で大きな換気用の窓がある。四つ仔が出入りしていたのは1メートル四方もあるこの窓である。

吹雪は裏口方向の天窓から入り込んだのだが、微かに聞こえてくる話し声に足を止めた。気配を消して声のする方に近付いてみると、天窓から差し込む月明かりで声の主の姿が浮かび上がった。思わずアッと声が漏れそうになった吹雪。

倉庫内のほぼ中央に据え付けられた作業台で、魔女が水晶玉と向き合っていたからだ。

魔女が肩で息をしている。立っているのもやっとの体で水晶玉に呪文をかけている。

見ていられなくなった吹雪が声を掛けようとした時、人を不安に陥れる暗くサビついた声が言った。「今更、何をやっても遅いんだよ!」「おい!耳まで聞こえなくなったってか?」「オマエはダレだ?名前を言ってみろ!」言えるもんならだが、、、そう言いながらゲラゲラゲラゲラ……

「騎馬軍団?笑わせるな!俺の敵ではない!四つ仔?悪い冗談はやめとけ、まったく馬鹿野郎のマスターも血迷ったか?」「これだけは覚えておけ!俺にはマスターと云えども太刀打ちできない魔王がついているのだ!」

魔女は悪戦苦闘しながらも、やっとのことで水晶玉を魔よけの袋に納めると荒い息づかいのまま作業台に突っ伏し泣き出した。吹雪はどうすればいいのか解らず、魔女が倉庫から出るのを沈黙したまま待つしかなかった。

翌日、吹雪はテイラミスの館にいたマーキュリーを訪ねた。驚くパンジーを尻目に、テイラミスの計らいで二人きりの面会が叶った。

吹雪は単刀直入に昨夜の倉庫内での出来事を話した。

マーキュリーは窓の外を眺めながらため息をついていたが、やがて吹雪に真っ直ぐ向き直り話し出した。

「確かに、力は及ばないかもしれない。ペガサスを呼び寄せる呪文を解かなければね。でも、そこは私とパンジーが必ず!だから、信じて戦って、としか言いようがない。騎馬軍団に命を惜しむ者は一人もいない!」

「勿論、俺達も志は同じです! それでも、もし、それでも万が一にも、、、魔王が……」「魔王は関係ない!」マーキュリーがピシャリと言った。「この戦いはデリヌス星とスネークドラゴンとの戦いよ。」「…しかし、昨夜ドラゴンは魔王がついている、と」「そりゃそうよ、スネークは魔王の手下ですから」つまり、こういう事よ、と言ってマーキュリーは続けた。スネークなぞはただの撥ねっかえりの手下で、それ以上ではない。万が一魔王が出張ってくるとなったら…マーキュリーはここで一息入れる。「天上人」(てんじょうびと)が黙ってはいない!

「天上人?」オウム返しの吹雪にマーキュリーが頷いた。「文献にはそう書いてある。」「つまり…見た事は、、ない?」「ないわよ、誰もね!」

吹雪の胸の中に不安が広がっていった。「それでは、たとえペガサスを呼び寄せても、ペガサスはドラゴンに勝てるんですか?」マーキュリーの目が鋭く光った。

「ペガサスはあくまでも「天上人」の使いよ。戦うのはデリヌス星の我々、勘違いしないで」 「助けてはくれないって事ですか?」「安易に助けを求めない事ね」

吹雪がしょげて部屋から出ようとした時、マーキュリーが付け加えた。「「天上人」は敵も味方もない。極めて公平、且つバランスを重んじる。でも、ペガサスには希望が持てる、だから、一縷の望みかけて呼び寄せる。と。

「どんな希望だ?」吹雪は宿舎に戻る道すがら考えてみた。何故「天上人」は助けてくれないのに「天上人」の使節に過ぎないペガサスは助けてくれるのか?。

誰に聞けば納得できる答えが得られるのか…吹雪は足を止めた。ピンときた。「魔女だ」魔女なら知っているはずだ。だが、この閃きはすぐに消え失せた。自分の名前も思い出せない魔女が答えられる訳がない。他に…吹雪の脳裏に再び閃いたのは、、、「アイツか、、」アイツとはマスターを馬鹿野郎呼ばわりしたドラゴンの事である。どっちが馬鹿野郎なんだか……ドラゴンも元は魔女だったから知っている筈と踏んだが、相手が相手だ。迂闊に近付く事は危険極まりない。

だがしかし、答えが知りたい。マーキュリーの言う通りだとしたら……ペガサスがいなければこの戦いの勝利はないのだとしたら……果たして戦う意味はあるのか…

戦う意味か…と吹雪は考え込んだ。戦うのは勿論、生きる為である。この平和な惑星を破壊者から護る為に。

吹雪は踵を返して走り出した。行き先は勿論テイラミスの倉庫である。

どうしても、危険を冒しても、吹雪は知りたかった。大噓つきのドラゴンの事だから多少の危惧は否めないが。昨夜ドラゴンが魔女を弄っていた場面だけを見ても、ドラゴンの残虐性が垣間見えた。吹雪は改めてスフレから言われた言葉を思い出していた。ドラゴンは心情的に揺さぶりをかけてくる。ドラゴンの話に憐れみの心を持つな。決して自分を見失うな。と、云うものだが、吹雪は正直あまり自信はなかった。


いつも通り、音もなく倉庫内の作業台に降り立った吹雪。

水晶玉は魔よけの袋の中だ。ここに来て思いがけず吹雪に躊躇いが生じた。

迂闊に手を出せる相手ではない。ペガサスがいなければ勝ち目のない相手である。

ここに来たのは間違いだったと、頭半分が言っている。あとの半分は支離滅裂だ。

「ビビったなオマエ!」「もう少し策を詰めて…」「大体こんな事を聞いたからと言って…」「奴隷になりたいか?」しかし何より吹雪にカツを与えたのは「お前は弱虫か?」と云う心の声だった。

「俺は弱虫なんかじゃない!俺は、弱虫じゃない!」倉庫中に吹雪の声が響いた。

同時に別の声が被さる様に吹雪の耳を捉えた。

「魔女以外の客が来るのは久し振りだ。お前は四つ仔のあずきだな?」

「吹雪だ!バカヤロー!」吹雪は咄嗟に応えていた。どうやらもう、後戻りは出来ない。

「ふん!そんな事はどうでもいい、遊びに来たのか?また血塗れになりたいか?」

水晶玉は魔よけの袋の中で妖しく光り出し膨らみ始めた。「ペースに乗るな!」と、吹雪は自分に言い聞かせ身構えた。袋の紐が緩み水晶玉が転がり出てくる。

水晶玉の中には、一年前に見た姿とは別ものを思わせる邪悪な目を持った怪物が揺蕩っていた。声も更に迫力が増している。

「聞きたい事がある」吹雪は見えない圧力を跳ね返す様に言った。返事はなかったが、吹雪は構わず続けた。「「天上人」と魔王の関係は?「天上人」は誰の味方もしないが敵も作らないと聞いたが、魔王が動けば「天上人」も動くと聞いた。ペガサスだけは違うとも。」返事はない。暫く沈黙してドラゴンの返事を待っていた吹雪が「ペガサス…」と、言い終わらぬ間にドラゴンが怒鳴った。

「ウルサイ‼黙れ‼ 「天上人」?ペガサス?そんなものは存在しない!絵空事だ!」この後しばらく「天上人」とペガサス、マスターに対する罵詈雑言が繰り広げられた。これが却って事実である事を吐露していると吹雪は感じた。そして、恐れている事も。

「落ち着けよ、名前、スネーク? スネーク、それじゃあ魔王はどうだ?」間髪入れず水晶玉が吹雪を襲ってきたが難なくかわす。かわした途端第二の攻撃、第三の攻撃と鋭く襲いかかってくる。しかし、吹雪が跳躍一番、天窓から飛び出すとそれ以上は追いかけて来なかった。吹雪が天窓から顔だけで覗き込み挑発しても外に出て来る事はなかった。吹雪は油断なく作業台に戻った。隙を見せたらやられるのは解っている。再び魔王の存在について突っ込んでやろうと思っていた吹雪に、ドラゴンの方から思いがけない秘話を話し出した。「お前らのマザーランド地球では、この惑星の住人全て、人間の餌か見世物だ。」「……?」「やはり知らされていない、当然だ。事実を知ったら惑星の秩序が崩壊するからな」得心のいかない顔で無言を貫く吹雪に、ドラゴンは愉快そうに語り続けた。

終わりなき核戦争で疲弊した地球から、後にアウトクラトウルの名を戴いた魔法使いが無作為に選んだアニマルだけをこの惑星にワープさせてアニマル人に仕立てた事。人間の姿に変身できるキャリアもありのままの姿のノンキャリアも相互違和感を持たぬ様プログラムされ今も続いている。この惑星が続く限りマスターの魔法は有効だが、突然変異と侵略は必ず起こる。 侵略と聞いて吹雪は目を剝いた。「侵略?オマエ以外に?」「オレは侵略者じゃない!オレを作ったのは忌々しいマスターだが、オレは数少ない変異だ。侵略者は地球からやって来る」

吹雪は呆気に取られたが、早く続きが聞きたくて黙りこんだ。もしかしたらこの話もドラゴンの作り話かもしれないと思いながら……

人間は知能が高い。その高い知能を駆使して地球の頂点に立ったが、欲望のままに進化するうち自らを滅ぼす皮肉な結果に。

「オマエの目的はなんだ?」吹雪がドラゴンに問うた。この惑星を手中に収めた後の事が早く知りたかった。

「今日は気分がいい、特別に教えてやろう」 ドラゴンはデリヌス星の覇者として地球の侵略を許す。デリヌス星はマスターの魔法のシールドで覆われているが、「実はこの俺様も魔法が使えるんだよ吹雪君」 そんな事は知ってるさ!調子に乗るな!

吹雪は腹の中で毒づいた。「何故 侵略を許す?」「解らないか?人間は知能の最高峰だ。侵略させたと見せかけて取引だ。」「そうか、解ったぞ。地球にはもう殆ど資源がない。デリヌス星は資源の宝庫だ。」「その通りです!吹雪くん!」ドラゴンは資源を餌にわざと人間に侵略させて有能な科学者を取り込み、繫殖させて人材を育成させる。本物の人間はデリヌス星のノンキャリアに違和感しかない。嫌悪感と云っても。それはやがてはアニマル人の粛清に繋がっていくだろう。そして、牛や豚は解体されて人間の食料となるのだ。何の罪悪感もなしに。

吹雪は身震いした。自分の体が切り刻まれて人間の口に入る事を想像しただけで気が遠くなりそうだ。いや、自分や兄弟姉妹は人間の姿に変身できるから逃げ道はあるが、両親は、、、ノンキャリアの両親は、、、吹雪は無性に腹が立ってきた。

何故、メシアはこんな中途半端なプロットを描いたのか、長い時間を生きて、変異を繰り返しながら進化する生命を見てきた筈なのに。

資源はたっぷりあるのに転用は極限られている。パンジーがマーキュリーから聞いた話では、地球では道路を疾走する乗物や空を飛ぶ乗物があって、惑星の裏側にも、惑星を飛び出して、既に月に侵略を果たしている、と云う。

「オマエ達には何もない、丸腰でオレに勝てると思うか?」

吹雪は答えられなかった。ドラゴンの言う通りだ。騎馬軍団とは云え、殆どがノンキャリアである。自由に空を飛び回り地を這いずるドラゴンの敵ではない。

しかも、マーキュリーによるとドラゴンの最大の武器は、顔の半分以上を占める口から吐き出される火炎放射だと云う。一回の放射で、フラワー村なら凡そ10分の1は焼失する。シェルターも役に立つかどうか。

「解ったようだな、吹雪オレと手を組め、オレの手足となって宇宙の覇者に上りつめろ!」 なんだこの展開は…吹雪は驚いたが何食わぬ顔を崩さず考えた。ドラゴンに従うふりをして隙を狙うと云う方法も無きにしも非ず、、、かな? いや、こいつは噓つきで残虐なドラゴンだ。

口車に乗ったら負けだ。俺は負けたくない!たとえ負け戦だとしても騎馬軍団と共に最後まで闘う。それが俺たち4人の使命だ!

「どうした吹雪、考えるまでもない!お前たちに勝ち目はない!ゼロだ!」

「ゼロではない‼」 突然第三者の声が吹雪の背後から聞こえてきた。魔女が立っていた。

「おやおや、ここに至ってポンコツのお出ましか、何か忘れ物でもしたか?」

ドラゴンはゲラゲラ笑い出した。気を苛立たせる陰湿な声だと吹雪は感じた。「オマエなんぞに用はない。黙って眠っているがいい!」

魔女が呪文をかけると水晶玉は見る見る縮小した。魔女は水晶玉を魔よけの袋に戻すと再び呪文をかけた。 笑い声は水晶玉に吸い込まれる様に小さくなり、やがて聞こえなくなった。

「何故ここに来た?」 吹雪は魔女の問いに言葉が詰まった。

「ここに来た目的は何だい?」

吹雪は魔女に背を向けて溜息をついた。知っていて訊いているのは明白だ。

だったら、魔女は答えられるのか? と、吹雪が思った時、魔女が話し出した。

「ドラゴンは大噓つきだが、先程らいお前に語った事は概ね事実だ」

吹雪は魔女の言葉にゲゲゲとなった。又、アノ嫌な映像が蘇ってくる。切り刻まれて、、、人間とは一体何者だ?

「この惑星の住人の殆どが自身のルーツを知らない。知らなくていい事だ。」

だが、と、魔女は続けた。その筈だったが、思惑が外れて一部の者に知られる事となった。その原因は勿論私が一番悪いが、生命を操ろうとした魔法界のミスだった。

天上界と魔界さえ手を出さぬのが生命の神秘なのだ。だから吹雪、天上人と魔王はこの件に関しては傍観者でしかない。と言う。

「チョット待って! じゃ、ペガサスは?ペガサスは「天上人」の使者と聞いたが」

「ペガサスにも色々あってね…」 魔女は暫く考え込んでいたが、これから命懸けで戦いに臨む吹雪には、記憶の欠片を寄せ集めて話しておいた方がいいと判断した。

「いいかい吹雪、この一度きりだよ」 魔女はそう言うと話し出した。「天上人」に仕えるペガサスは7人。そのうちの一人がマスターを生み出した。つまり…天上界の掟に背いて生命体に関与した。自分で蒔いた種は自分で刈り取ってバランスを保たなければならない。ペガサスが関わっているいるのは当然のことなんだ。宇宙はバランスで成り立っているのだよ。

なんだか解った様な気もするが、やはり俺には難し過ぎやしないか?天上界と魔界、魔法界と、バランスがどうとか知らないが、現にデリヌス星は存在してるしアニマル人は慎ましく生活している。その平和な生活を壊そうとしているのがドラゴンだ。

俺は、俺たち4人はドラゴンと闘う為に送り出された救世主だ。

命をかけて闘う! この決心は何があっても揺るがない。

吹雪は残りのわだかまりを吐露した。  「地球じゃ、人間たちは俺たちを食料にしてるんだよな?」 暫く沈黙したままだった魔女は、初めて吹雪から視線をずらし天窓を見つめながら答えた。 「地球では生命体のトップに君臨するのは確かに人間だ」  しかし、地球が誕生してからと云うもの、食物連鎖という自然の成り行きは人間さえも食料になっていた時代があった。食うか食われるかの時代は長く続いたが最終的には高度な知能を持った人間が支配者となった。アニマルと人間の決定的な違いは、アニマルは足るを知る生きもの。翻って人間の欲望は果てしない。異常と云ってもいい。だからマスターは足るを知るアニマルの王国を作りたかった。この惑星は資源の塊だが、マスターは敢えて封印した。しかし、今回ばかりはこの封印が仇となったが…

「資源…その資源で何ができる?」 「…高度な武器…ばかりじゃないが、でもこの惑星にとっては先進的な道具そのものさ」「この惑星もいつか、地球の様になるだろうか…」「分からない。ならない事を祈る」「今日は調子が良さそうだね」吹雪は話題を転じた。魔女も逆らわず言った。「…皆のお陰さ。もう数える程の寿命だが、まだ仕事が残っている」その仕事は、スフレたち5人が持ち帰る魔法界の古文書を指している事は吹雪も知っている。

別れ際、魔女が吹雪に言った。 「食物連鎖はこのデリヌス星でも、フラワー村でも毎日起きている。」え?と云う吹雪に魔女が答えた。「虫や魚が好きだろう?」


スフレたち5人が、北の山から持ち帰った古文書を目の当たりにしたパンジーは

大興奮で、マーキュリーや魔女と共に、寝食を忘れる程呪文を解き明かす事に熱中した。先ず、魔女が虫食い状態で記憶している魔法界の言語をアルファベット順に並べる。古文書に書かれている魔法界の用語に、確立できたアルファベットをはめ込んでいく。 連なった文字が呪文だ。魔女は大喜びで、次々解明されていく呪文を片っ端から試しては、窓を割ったり壁に穴を開けたりと騒々しい。

ところが、順調に解明が進む中、パンジーとマーキュリーは古文書の最後の1ページで氷つく羽目に。

魔女以外の者が呪文を唱えるにはキーワードがいると書かれていたからだ。

キーワードとは魔女の名前。古文書に載っているものではない。

魔法人一人一人に与えられたものだ。

名前は……ドラゴンに吸い取られている。今更取り戻す事は不可能である。

パンジーは落胆のあまり、酷く塞ぎ込んでしまい、深夜、度々夢遊病者の様に彷徨い歩く姿が目撃されるまでに。スフレ、テイラミスをはじめ、両親、兄弟姉妹、「四天王」に励まされ徐々に立ち直ってはいくが、顔色は冴えず口数も極端に少なくなっていた。

常に優等生だったパンジーにとって、初めての挫折はあまりにもタイミングが悪すぎたのである。


ある夜、解析に励むマーキュリーを除く騎馬軍団の大将たちが作戦会議を終えて雑談に興じていた。

ジュピターとムーンの他愛無い会話に耳を傾けていたビッグデイパーだったが、いつしか自分の頭の中を占める危惧に引きずり込まれ、二人の声は届かなくなっていた。

ビッグの危惧は「この戦争に勝てるか?」と云うシンプルなものだ。

武器と云える物はないに等しい。砕いた硝子片を不燃網に入れてドラゴンに投げつけるクラッシュア。鋼鉄で編み込んだワイヤーロープのリブネット。リブネットに燃える岩石を詰め込んで発射するタイガー。  後は…ビッグは思わず溜息をつきそうになって留まった。後は、命をかけて闘う戦士達に頼るしかないのが現状だ。

ひきかえ、先の戦争の様に魔法は操れないにしても、ドラゴンの火焔砲は絶大だ。

恐らく一発の発射で、まともに喰らえば兵士の半分はやられてしまうだろう…頼みの綱は救世主として送り込まれたアノ兄弟たちだが、果たしてどこまで戦えるものか。

もし、もしも負けてしまったらこの惑星はどうなるのか。私はいい。与えられた使命を全うするまでだ。種の誇りをかけて闘う覚悟は出来ている。

深く考え込んでいたビッグだったが、ジュピターの呼びかけで現実に引き戻された。

「どうかな、、、?吹雪だが…」ジュピターの声はよく通る。性格は豪放磊落だが、時に繊細な気配りも見せたりする。独りよがりでオッチョコチョイが玉に瑕だが。ビッグは辺りに聞こえない程度に溜息をついた。

ビッグにとってはあまり触れてほしくない事だったので、視線を逸らしたまま黙り込んでいる。

重い雰囲気を纏うビッグに今度はムーンが声を掛けた。「貴方の気持ちも分かるけど、この頃の吹雪一段と成長したと思わない?」

ビッグの返事はないがムーンは構わず続けた。「向こう見ずでヤンチャは吹雪のほんの一面に過ぎない、それは貴方も解っている筈」

ムーンは吹雪の幼少期のエピソードをパンやつくしからたっぷり聞いている。

その中でも、ムーンを最も笑わせ、感心させたたエピソードといえば…

 

四つ仔は皆泥んこ遊びが大好きだった。泥んこ遊びに興じている最中は気難しいパンジーさえご機嫌で、夢中になって泥の中をコロコロ転げまわっていた。

特に吹雪は熱心で、毎日サクラを引き連れ川原に出掛けていたが、ある日、吹雪一人で川原に出掛ける日があった。

川原はその日も釣り人で賑わっていた。吹雪がいつもの様に釣り人の邪魔にならない場所で泥んこになって遊んでいると、顔なじみになっていた狸のオジサンが声をかけてきた。 「お前、今日はひとりかあ?珍しいじゃねえかなあ?どうだ、たまには釣りでもやらんかなあ?おもしれえぞう!」 狸のオジサンはそう言うと「そら!」と、釣り竿とビクを貸してくれた。魚釣りは初めての吹雪だったが狸オジサンの見よう見まねでやっているうちどうした事か次々釣れた。吹雪は楽しくて嬉しくて殆ど有頂天だったので、あっという間に日は暮れ、沢山いた釣り人も2~3人になっていた。

狸オジサンは親切で、ビクは又今度会う時まで貸しておくよと言ってくれた。

吹雪は時折肩に食い込む重いビクを覗いてはニヤけていた。心の中は、お母さんがどんなに喜ぶだろうと思うだけでウキウキだ。

だが、歩いているうちにふと、別の考えが浮かぶ。庭の隅っこに池を造る。

雨の日など川原に行けない時でも、池があれば魚釣りで遊べるし、釣った魚はお母さんに料理してもらえばいい。

しかし、今日はもう池は掘れないし、このままだと魚が死んでしまう。今日は諦めて帰ろうかと思った時、吹雪の脳裏に新たなアイデアが浮かんだ。

フラワー村の住人は5ヶ所に散らばっている共同の井戸を使用しているが、唯一、テイラミスの庭にはプライベート井戸がある。何故、ここだけなのか知っている者はいない。

テイラミスの家は吹雪の家の途中にあった。吹雪は、広大なテイラミスの庭に、一応「コンチワ‼」と元気な声を掛けて入り込み、井戸のある裏庭に廻った。

井戸の釣瓶にビクを引掛けそろそろと沈める。そして、すっかり暮れてしまった夜道を吹雪はスキップしながら家路を辿った。


翌朝、テイラミスが水を汲みにきて大騒ぎになった。

テイラミスは、こんなマネをするのは吹雪をおいていないと決めつけ、まだ明け方の4時だというのに吹雪の家に怒鳴り込み お尻を立てて幸せそうに眠っている仔豚を追いかけ回すと云う事に。しかし、吹雪のジャンプと走力はこの頃から秀でていたので、年老い往年の力がないテイラミスにとって、森の中に逃げ込み、大木に逃れた吹雪を捕まえるのは至難の業である。

騒ぎで駆け付けた村の重鎮たちの必死の仲裁でテイラミスも揚々矛を収めたが、当然吹雪には厳しい罰が与えられた。  一人で井戸攫いをする事。吹雪はその日から朝5時に井戸攫いを始め、一旦スクールに行ってから授業を学び、終わったら再び井戸に向かう。スフレの監視の下で井戸攫いは7日間続いたが、吹雪は一切の泣き言も愚痴も助けも頼らずやりぬいた。テイラミスも内心これには感心したが、終始素っ気ない表情を崩さなかった。しかし、これ以来吹雪は頑固で気難しいテイラミスのお気に入りである。

「それでね…」 とムーンは言葉を紡いだ。

「つくしは吹雪に憧れて、サクラの様に付いて回りたかったけど、いつもパンジーに邪魔されて…」 ムーンはここでクククと笑った。

「ああ!サクラも言っていたよ、勇敢で面白くて皆 吹雪が大好きだって」

ジュピターが付け加えた。 その後もムーンとジュピターの吹雪による武勇伝は続いた。  ビッグは二人の会話には参加せず沈黙したままである。

吹雪の武勇伝も出し尽くされてからビッグが静かに言った。

「吹雪は…はっきりとは言い切れないが、4人の中でも、与えられたパワーが…」

「特別だ」ジュピターが後を引き継いだ。

「だから、試したんですね?」 ムーンがハッとした顔でビッグを見つめた。

「吹雪の能力は想像を超えていた。あの状態で10メートル以上も垂直に飛び上がるなど有り得ない、だが、吹雪は飛んだ。」

ムーンの脳裏にアノ時の修羅場が甦った。 アレは吹雪の力を試すものだったのか。我々が必ず止めに入る事も計算済みで。

ビッグは溜息をついて言った。 「私が意固地なんだ、解っている」 ムーンとジュピターはビッグの生い立ちに想いを巡らせた。

ビッグは名門中の名門出身である。ビッグの家系は、祖先がこの惑星にワープされる前、地球上で核戦争が頻発する前の時代に遡ると、よく解る。

ビッグの祖父母、両親、兄弟たちは「グレートホース」として、地球ではその名を歴史に刻む程の名馬揃いだった。

デリヌス星のアニマル人となって数百年後、魔女の戦争に巻き込まれ殆どが亡くなってしまった。ビッグは正直身内の死を名誉とは思っていない。言葉にはできないが、アウトクラトウルの 言わば独りよがりの編集によってアニマル人にされ、惑星のボディーガードに任命された。勿論、デリヌス星で生まれ育ったビッグにとって惑星の為に命をかけて闘う事に異論はない。ビッグの疑問は、マザーランドと云っても差し支えない地球から、アウトクラトウルの眼鏡にかなったアニマルだけを選別してワープさせた事が本当に正しかったのかと云う事だ。ありのままで良かったのではないか。

だが、この疑問は淵までくると必ず「宿命」と「クソ真面目」でオチがつく。もう何百年も繰り返している不毛に近いビッグの偽りなき迷子の様な心理である。

救世主が送り込まれたと聞いた時は、大いに気持ちがざわついた。惑星を守るのが騎馬軍団ではなかったのか。しかし、救世主がどれ程のものかと思っていたビッグにとって、吹雪は別格だった。初めて会った時から自分の背に乗せられるのは吹雪をおいていないと直感した。何より、吹雪とならドラゴンに勝てる気さえする。吹雪にはそう思わせる不思議な力があった。それでもなお、吹雪を目の前にすると態度が硬くなってしまう。厳格な環境で育ち、成長してから騎馬軍団を指揮する立場になるまで、筆舌では言い尽くせない鍛錬を重ねやっと手にした武術さえ、吹雪は易々と越えてくる。

あいつは一体何者だ?と云うのがビッグの偽らざる本音である。

あれこれ考えを巡らせていたビッグだが、ムーンの厳しい声に遮られた。

「サクラが何?」 ジュピターに向けて言っている。黙り込んでいるジュピターにムーンは口調を強くして問うた。どうも何度か問うているらしい雰囲気である。

普段はストレートな物言いをするジュピターが、モゴモゴと口ごもっているのを見てビッグはムーンと顔を見合わせた。

「…その…何て言うか…」ジュピターはそう言うなり再び黙り込んでしまった。

ムーンもビッグも、こんな煮え切らない態度のジュピターは初めてだった。

ムーンは落ち着かない様子のジュピターを見て考えた。サクラに何か問題が起こったとしても、それなら、いち早くつくしから情報が入る。つくしは、何があっても私にだけは隠し事をしない、と、ムーンは思っている。

その通り、つくしはムーンに一切隠し事をしない。隠すつもりなど毛頭ない。…ないが、、

ムーンはここで気付いた。しかし、意図せずと云う事もあり得ると。

ムーンがジュピターに顔を向けて言葉を発しようと歩み寄った時、目の端にビッグの顔が険しく豹変しているのが映りこんだ。


ビッグはいち早く、強大で邪悪な妖気を嗅ぎ取っていた。 それは直ぐにジュピターとムーンに伝わる。いよいよドラゴンの出現を確信した3人の大将たちは、直ちに戦闘態勢の準備に走った。 やがて、やはり不穏な妖気を嗅ぎ取っていたマーキュリーも一旦宿舎に戻り白毛軍団を率いて、予てより準備してきたシェルターに村人全員を避難させるべく奔走する。シェルターとて、ドラゴンの前では決して安全とは言えないが、魔女が命を削って魔除けの呪文をかけた分時間稼ぎはできる。

マーキュリーと兵士たちが住人をシェルターに誘導しているさなか、タルトがビッグの下に駆け寄って来た。

「大将、今すぐテイラミスの庭においで下さい!」  「いよいよか…」ジュピターの呟きにビッグが頷いた。

テイラミスの広大な庭の中央には、ここ数年で更に小さく萎んだ魔女とテイラミスが車椅子に座っていた。傍らにスフレの姿もあった。パンとシフォンは勿論タンゴ、タップ、苦楽を共にした村の住人たちがシェルターから抜け出して来て最後の別れを惜しんでいる。

スフレの鋭い目元は、今ではすっかり暗く落ち窪んでいる。やがて、そこへ古文書を抱えたパンジーも庭に出て来た。ペガサスを呼び寄せる呪文は解明されたが、肝心要のキーワードが未だ解らず苦悶の表情だ。

名残惜しさは尽きないが時間がない。ムーンが村人たちにシェルターに戻る様促すと村人たち殆どが泣きぬれて戻って行った。その僅かな間に、スフレがパンに何事か囁き小さな包みをパンの手に握らせた。パンは何度も頷きスフレの手を強く握り返すと、タルトと共にシェルターに戻って行った。

タルトの手が離れたテイラミスはまるで眠っている様だった。


「いよいよ……」 居並ぶ騎馬軍団の前で魔女はか細い声で語り出した。

「いよいよ…来たるべき…その時が来た…ようだ…済まなかった!私の未熟さ故に…全宇宙の平和のシンボルとして立ち上げた筈の惑星を…カオスに導いてしまった。許しを乞える立場ではない、ただ……私は信じたい!マスターは!ペガサスは!天は決して…見捨てはしない!」   徐々に魔女の姿が霞み出す。

四天王は身構えた。パンジーはマーキュリーの指示で井戸の中に身を潜めた。

――古文書によると――魔女以外の者が呪文を唱える時は天空に向かって、と記されていたので、空気孔以外密閉されているシェルターでは具合が悪かったのだ。

パンジーが井戸の底に落ちない工夫は、大工のシフォンが請け負ってくれた。

それどころか、吹雪が幼い頃やらかした罰で、たった一人で井戸攫いをした時も、深い底に落ちないよう足場を組んでくれたのもシフォンだったのである。

暫し、霞んだ姿で天を仰いでいた魔女だったが、突如鮮明に!魔女は鮮明になった両手を天にかざして叫んだ。

「ハレルヤ!ハレルヤ‼…私は!……ああ!私は……」 次の瞬間、魔女の姿は忽然と消えていた。

そして、後を追うようにスフレとテイラミスが。テイラミスは眠ったまま。

スフレは騎馬軍団に向かい、別れの会釈をしながら消えていった。


数刻後、激烈な地響きと共に地面がうねり出した。

テイラミスの倉庫を粉々に砕き現れたのは、天にも届くかと思う程の禍々しいドラゴンの姿。四天王率いる大軍勢が油断なく陣形を整える間、遂に解き放たれたドラゴンは、数百年ぶりの自由を確かめる様に縦横無尽に飛び回っていたが、やがて、見た者を嫌悪させずにはおかぬ グネグネした長い胴体を真っ直ぐに立てると、濁った目をギラつかせた顔だけ四天王の鼻先に持ってきた。

顔の半分以上占領している口は醜く裂け、居並ぶ四天王をひと呑みに出来る程だ。

「これはこれは!」と、ドラゴンが愉快そうに言った。

「騎馬軍団様のお出ましか、ご苦労な事だ。 おやおや、…そこにいらっしゃるのはビッグデイパー、お会い出来て光栄です、王子様!」

そしてドラゴンは、ほんのわずか目を動かし 「お前はマーキュリーだな?子分の、アノ小うるさいメスブタは何処に隠れている?」と言ったが、すぐに、「まあ、いい」と言ってビッグに視線を戻した。

「ところでビッグデイパー、オマエの家系には少々問題があるぞ」

「あの時は魔法使いどもが居たせいで不覚を取ったが、ビッグデイパー!我らに歯向かった罪は軽くはないぞ!マスターの手足となって我らの仲間を葬った!その罪を今、贖ってもらおう‼」

そう言うドラゴンの腹が少しずつ赤く膨れ上がっていく。その僅かな時間の間に騎馬軍団は素早く四方八方に散り攻撃態勢についた。

ジュピター率いる黒鹿毛軍団と共に、サクラはドラゴンの右手に廻った。

ムーン率いる栗毛軍団とつくしは左手に。マーキュリー率いる白毛軍団は後方に立ち、青鹿毛の大将ビッグデイパーと選りすぐりの猛者連は堂々ドラゴンの正面に立った。ドラゴンが腹に焔を蓄える僅かな時間が一斉攻撃のチャンスである。

軍団の態勢が整ったのを機にビッグの号令がかかる。ドラゴンをぐるり囲んだ軍団から一斉にリブネットが繰り出された。先ずはドラゴンの動きを封じ込める作戦だ。

放たれたリブネットは意思を持った生きものの如くシュルシュルと自在にドラゴンの全身を這い回る。 さすがのドラゴンも焔を蓄える間だけはなす術がない。唯一の弱点である。

ドラゴンが動きを封じ込められている隙につくしとサクラは予てより二人だけで計画していた作戦を実行した。

あっ‼‼と云う大将の声や軍団のどよめきを背に、二人はドラゴンの全身を覆ったリブネットを伝いながら つくしはドラゴンの心臓部へ、サクラはドラゴンの首を狙い定めた。しかし、ドラゴンが2~3度体を揺すっただけで、二人共振り落とされない様リブネットにしがみつくのが精一杯だった。つくしとサクラが足止めされている間に、ドラゴンの腹は満タンになりつつある。

ビッグは、作戦を無視して単独行動を決行したつくしとサクラに憤ったが、それよりも、この事態になっても姿を現さない吹雪に怒り心頭だった。吹雪、何処で何をしているのだ! 考えたくはないが、、、逃げたのか? 「出て来い―――‼吹雪―――‼」 ビッグの怒りの怒号はしかし、他の大将たちには不安の裏返しと映った。


ドラゴンが蘇る数刻前。

吹雪は倉庫にいた。何とかドラゴンから魔女の名前らしきものを引き出せれば、と思いついたのだった。パンジーのやつれた顔も気持ちを落ち込ませた。

パンジーは確かに傲慢で鼻持ちならない所はあるが、兄妹であり、同時に送られた救世主だ。パンジーが越えられない壁は魔女の名前、キーワードだ。そのキーワードはドラゴンの記憶に吸収されている。だから来た。そのために来た。

倉庫は今、頑丈な鍵がかけられている。ドラゴンの開放を少しでも遅らせる為、極限まで細く且つ強靭なリブネットを編み出し倉庫全体を覆っている。

剣や槍、弓に並ぶリブネットの様な武器は、直接ドラゴンと対峙しない東国や、北の国、南国のアニマル人に依って供給された。惑星一丸となって闘っているのだ。

吹雪は音もなくリブネットをかいくぐり天窓から飛び降りた。

微かに何かが聞こえてくる、、、そしてそれは段々はっきりと聞こえてきた。


吹雪は完全に気配を消した。

「…さて…そろそろ、タイムアップ…ショータイムの始まりだ」  吹雪は勿論タイムアップの意味する重大さを知っている。

息もせず、瞬きもせずひたすらドラゴンの次のアクションを待った。

暫し沈黙があったのち、その声は意外な事を語り出した。

「哀れな吹雪よ、お前だけはビッグに冷遇されている、何故か?ビッグは騎馬民族の貴族の中の貴族だ。本気でお前の様な種を相手にはしない!お前は豚だ!その豚が、事もあろうに救世主ときた!、しかも、惑星随一の使い手だ。…いや、二番目だな。一番はこのスネークドラゴン様だ!」

ドラゴンは笑い出した。ゲラゲラゲラゲラ……声の振動で倉庫が揺れるほどである。

      「吹雪――‼」突然、地鳴りの様な声で名前を呼ばれた吹雪は顔を歪めた。 「そこに居るのは分かっている!聞け吹雪!教えてやろう!」

「知っての通り、我々は自然界から産まれた。山、海、川、樹々、花……自然界に生息していたあらゆる生命体、或いは生命を育むものからだ」 ドラゴンの話は続く。

人間は実に高度な生きものだった。今、この惑星で意味もなくヌクヌクと生きているだけの雑多な種には考えもつかぬ進化を遂げていったのだ。億年と云う時間を経てな。そこへ、ある時、突如魔法のメソッドを備えたモノが出現した。オッチョコチョイのペガサスのせいでな! そやつは成長するにつれ地球に魔法界のテリトリーを築き頂点に君臨した。何億年もだ! ドラゴンは歯ぎしりしているのかギシギシ嫌な音を立てて続けた。 「自然界の法則を捻じ曲げて お前たちアニマルを人間の姿にコピーするなど愚かしいにも程がある。しかも!キャリアとノンキャリアなど‼」

ドラゴンは吐き捨てる様に言うと暫く沈黙した。 吹雪は、不覚ながらドラゴンの言っている事も一理あるぞ、と思った。 キャリアとノンキャリアだ。何のために?

アウトクラトウルの真の目的はなんだ?そもそも目的があったのか?

俺たち兄弟を救世主に仕立てたり…何がしたかったんだオッサン‼


吹雪の頭の中が濃い霧に覆われ始めた。この世界は天界と魔界が仕組んだゲームじゃないのか?  だとしたら……俺たちは使い捨ての駒って……

その時、吹雪の妄想の中に突如割り込んできた声に吹雪は現実に引き戻された。 その声は、耳元で囁く様に「ハレルヤ…ハレルヤ…」と繰り返す。そして、声は吹雪に訴えかける様に次第に大きくはっきりとなってゆき繰り返される。吹雪は、「ハレルヤ」の意味は解らなかったが声の主は魔女だと解ったので、魔女に答える様に、ハレルヤ?と声に出して言った。

水晶玉が反応した。吹雪は素早く反応したドラゴンの異様な空気を嗅ぎ取った。

もう一度「ハレルヤ」と繰り返してみる。今度はソワソワし出した様子が窺える。

―――これは…?――― 

吹雪はハッとなった。ドラゴンの微妙な変化が意味するところ。確信を得た吹雪は一刻も早く…と、天窓に飛び上がった刹那、水晶玉から放たれた閃光に依って目を塞がれ、倉庫もろ共激しく吹き飛ばされ瓦礫の下敷きになってしまった。


遂にドラゴンの炎が放たれた。爆発的な炎はグネグネ揺らぎ、自在に形を変えて軍団に襲いかかってきた。

完全にドラゴンの全身を覆った筈のリブネットは引き千切れ、ドラゴンを取り囲んだ軍団から繰り出されるクラッシュアも傷ひとつ付ける事が出来ない。それどころか、ドラゴンの放った一発の火焔砲でバタバタと兵士が倒れていった。

それでも、つくしとサクラは必死にドラゴンの体に食らいついていた。二人共、渾身の力を込めてドラゴンの分厚く堅い鱗と鱗の隙間に剣を突き刺し、振り落とされない様足場を確保しながら千載一遇のチャンスを待つ。

一方的と云える優勢のドラゴンが二発目の焔を腹に蓄え始めた。

その間に騎馬軍団は態勢を立て直し、ワイヤーロープをドラゴンの鱗に引っ掛け軍団の馬力で抑えようとする作戦だが、はたして、、、リブネットでさえ木端微塵なのだ。

だが――やらねばならない。


サクラは一歩づつドラゴンの背を伝い上体へと移動を始めた。

つくしもやはり、一歩づつドラゴンの心臓めがけ隙間に剣を突き刺しながら移動する。 当然、二人の行為を酷く嫌ったドラゴンが見逃す筈はなく、先ずサクラを、自在に操る尾鰭でしたたかに打ち据えた挙句、蠅の如く撥ね飛ばした。

一方で、心臓を狙うつくしはドラゴンの醜く裂けた口に吸い込まれそうになったが、危機一髪体を交わし背中に乗り移った。つくしはサクラが狙っていたドラゴンの頭部へとシフトしたが、またしても強靭な尾鰭の攻撃で手も足も出ない状況に。

騎馬軍団は一応、ドラゴンの体を固定する事は出来たが、果たしてどれ程有効か…

デリヌス星の隅々まで名声を轟かせる騎馬軍団だが、近代的な武器もなく魔法使いも居ない今、ドラゴンの前では無力に等しかった。

二発目の火焔砲が放たれた。

激しい熱風が容赦なく軍団を襲う。想像以上の破壊力に四天王さえ無力感に苛まれる。粉微塵にされた村の一部と兵士の焼け焦げる臭いの中、ドラゴンから4、50メートル程離れた瓦礫の下敷きで吹雪は気が付いた。

吹き飛ばされた衝撃であちこち痛いが大きな怪我はなさそうだった。

しかし、水中の中で聞こえる様な物音だ。呼吸する度肋骨が悲鳴をあげる。

吹雪は細かな瓦礫を払いながらゆるゆると立ち上がった。

ぼんやりした吹雪の目に飛び込んできたのは、変わり果てた村と、圧倒的優位に立つドラゴンに蹴散らされ命を落としていく仲間の姿だった。

吹雪は体中の力が抜けてペタリと座り込んだ。ぼんやりした頭に、初めて見た時の水晶玉が浮かんだ。水晶玉の目。その目がドラゴンの目になって、それからテイラミスの倉庫で起きた事件。初めて騎馬軍団を見た時の畏れの感情。そして魔女。魔女、

魔女……

魔女がどうした……遠くから聞こえる声に吹雪は大きくかぶりを振った。何か、何か大事な事を忘れている気がして吹雪は再び立ち上がった。すると、また、聞こえてきた。倉庫の中で繰り返し囁き訴えかけてきた「ハレルヤ」

吹雪がオウム返しに「ハレルヤ」と呟いた時のドラゴンの微妙な空気感。焦りに似た感情の動き… あれは…あれは……‼  そうだ! そうだ思い出したぞ!

それまで深い霧に覆われていた吹雪の頭が一瞬のうちに覚醒した。

吹雪は肋骨の痛みも忘れ、鍛え上げた大声で叫んだ。

「パンジー‼パンジー‼ 誰かパンジーに伝えて‼ 「ハレルヤ」だ‼「ハレルヤ」だ‼」 

吹雪は憑かれた様に「ハレルヤ」と叫びながら混乱の死闘の渦へと疾走した。

パンジーが潜んでいる井戸は倉庫の反対側、ここからだと300メートルはある。

たとえパンジーの耳に届かずとも、誰かがキャッチしてくれればと思った吹雪だが、皮肉にも、いち早く反応したのはドラゴンだった。騎馬軍団は阿鼻叫喚の坩堝で誰一人吹雪の声を声として捉える事が出来なかったのである。

ドラゴンは我が身を固定するワイヤーロープを兵士ごと焼き散らし、三発目の焔を蓄える態勢に入っていたが、吹雪の声で中断を余儀なくされた。

ドラゴンが舵を切りグネグネと地を這いだした途端、瓦礫の中から吹雪が飛び出し 「ハレルヤ!」「ハレルヤ!」と叫んだ。アッカンベーの芸当も交えながら。

ドラゴンは怒り狂いのた打ち回った。

「小僧‼この!…豚め‼ 俺に歯向かっても無駄だと教えてやったのに‼ 底なしの愚か者め‼二度とそんな口が叩けない様にしてやる‼」

吹雪は真っ直ぐドラゴンの目を見据え、静かに、しかし力強く応えた。

「 ああ‼来いよ‼」 吹雪は身を翻し、再び「ハレルヤ」と叫びドラゴンを挑発しながら森の中へと誘導して行った。

突然の吹雪の登場で騎馬軍団とつくし、サクラは勇気百倍!サクラはドラゴンに撥ね飛ばされた衝撃で態勢を崩したまま地面に激しく叩き付けられ失神状態だった。

この時の情景が兵士を驚かせる。 ジュピター自ら陣形を離れ、サクラを救護テントに運んだばかりでなく、すぐに回復したサクラが戦闘に戻る、戻らないで激しい口論に発展。事態は著しく兵士の数が減っている深刻な局面だった事もあり結局サクラが押し通した。 兵士の目にはこのジュピターの行動が不可解に映ったのである。

つくしはドラゴンの背にぴったり張り付いてはいたが、振り落とされない様にしがみついているのがやっとで、限界を感じ始めていた。これまで培ってきた技能がコテンパンに打ち砕かれたショックで、昔の気弱なつくしが遠慮がちに顔を出す始末だ。

そこへ吹雪が現れた。一体今迄何処に行っていたのだ? と云う怒りと疑問はさておき、 つくしは奮い立った。


再び勢いづいた軍団も陣形を立て直し、遂にドラゴンの最後尾だが、足を捉える事に成功した。軍団全員が持てる力を結集してドラゴンの動きを抑えようとするが、ドラゴンの方も必死である。森の中に逃げ込まれたら厄介だ。火焔砲とて湿気の多い森の中では威力が落ちるし、腹に焔を蓄えるのは集中力がいるのだ。しかも今度は三発目。

一発目、二発目、三発目と回を重ねるごとに蓄えるのに時間がかかる。しかも!軍団が放ったワイヤーロープが末節の足に食い込み目障りこの上ない。

ドラゴンは翼を広げて空高く舞い上がり、末節の足もろとも必死に食い下がる軍勢を蹴散らし吹雪の後を追った。

一気に加速して追いつこうとしたドラゴンだったが、間一髪吹雪の姿は森の中へ吸い込まれていた。ドラゴンは何度も森の上を旋回して吹雪の姿を追ったが、生い茂る樹木が立ちはだかる。仕方なく地上に降り立ったドラゴンを、樹木に溶け込み、所々に仕掛けてある罠に誘導すべく、吹雪はわざと足を鳴らしたり口笛を吹いたり、ドラゴンを森の奥の奥へと誘い込んで行った。

吹雪は、火焔砲を持たないドラゴンを、勿論、強敵には違いないが、漠然と勝てる様な気がしていた。

一つ目の罠に近付いた辺りで吹雪は立ち止まりドラゴンの眼の前に姿を現した。


「コソコソしやがって豚め‼ あれ程情けをかけてやったのに‼」

吹雪は苦笑交じりに応えた。 「吹雪だ、バカヤロー!」

そして一歩づつ後退する。 罠は吹雪の六歩後ろだ。先程まで潜んでいた助っ人の義勇団が安全圏まで下がっている事を確認して、ジリジリと罠に近付く。

「いくら人間の姿に擬態しようと豚は豚だ!豚に変わりはない!」

「マスターが心血を注いだバーチャル歴史もこれまでだ! 吹雪!お前の本当の役目はなんだ⁇ は――はっはっは‼ 知らなくていい‼ 知らぬまま塵になるさ‼」 ドラゴンが一歩前に出る。吹雪は二歩後退する。生い茂る樹木に括られた罠のストッパーには手が届く位置まで来た。 吹雪の耳には其処かしこに身を潜めている兵士の息遣いが聞こえていた。 軍団が吹雪とドラゴンの後を追って近付いて来る振動も心強い。 ドラゴンが聞こえてくる振動を面倒そうに、吹雪からチラと視線を外した一瞬の隙に、20メートル程跳躍した吹雪がメインストッパーを切り離すと、潜んでいた数十人の兵士たちも一斉にストッパーを切り離した。

ザザザザザザ―――夥しい大木の束がドラゴンに降り注いだ。

流石のドラゴンも前のめりになり、そのまま地下深く掘られた穴の中へ落ちていくと、すかさずリブネットで何重にも覆った。

ドラゴンと云えども窮屈な穴の中では翼を広げる事は出来ない。

よじ登って来る前に第二の攻撃を仕掛けなければならない。ここでタイガーを使う。

火を噴くドラゴンに火をもって挑むのだ。吹雪と兵士がタイガーを投入するため、一旦リブネットを外す。一枚一枚。――だが、この時間がドラゴンを有利に導いた。

最後のリブネットを外した途端、穴の中から火が噴き出してきたのだ。ほぼ同時にドラゴンが姿を現し、其処ここに陣取っていた兵士に襲いかかり食いちぎっていった。

吹雪はドラゴンの急襲を間一髪逃れ、第二の罠のストッパーを外した。

空中からタイガーが激しく降り注いでくる。吹雪は敵味方なく降り注ぐタイガーを除けながら跳躍し、ドラゴンめがけ特大のリブネットを放った。

目測通り、リブネットはドラゴンをすっぽり包み込んだ。ドラゴンがリブネットの中でもがいている間に、三分の一以下に減ってしまった軍団が到着した。

森に突入する間際にドラゴンから離れたつくしと、全身埃まみれだが元気な姿のサクラを見て吹雪は安心した。しかし、そんな感傷も束の間。やはり、ドラゴンはドラゴンであって並大抵ではなかった。一騎当千の軍馬をも纏めて確保できる程の特大リブネットをズタズタに引き千切り再び軍団と睨み合った。

吹雪は最後の罠を仕掛けてある滝壺へドラゴンを誘うべく走り出した。

ドラゴンが吹雪を吞み込もうと首を伸ばして巨大な口を開けた刹那、ドラゴンに当身をくらわし、吹雪をドラゴンの腹の下に押し込んでから高速で足元を掬い、宙高く跳ね上げたのは青鹿毛の大将ビッグデイパーである。

ドラゴンの背後で、吹雪が着地したのはビッグの背だった。着地と同時に、吹雪は待ちに待った感激も忘れてビッグにキーワードを伝える。吹雪を背にビッグはドラゴンの攻撃を巧みに交わしながら 後方に続くマーキュリーに伝えた。「キーワードはハレルヤだ!急げ‼」

ドラゴンを挑発しながら滝壺の罠へと誘っていた軍団だったが、しかし、マーキュリーだけが徐々に軍団から離れ、村の方向へ舵を切ったのをドラゴンは見逃さなかった。吹雪の挑発に乗って森の方向へ進む前に 井戸があったのを覚えている。

戦闘中 多くの兵士が、取り分けマーキュリーがその井戸を護る様に闘っていた。妙だと思ってはいたが、今、合点がいったドラゴンはくるり向きを変えマーキュリーを追った。

ドラゴンは翼を広げ空に舞い上がると、穴に落ちた時に蓄えた中途半端な焔を再び充電し始めた。飛翔しながらの充電は簡単ではないが他に選択肢はない。

一方、ドラゴンの突然の方向変換に吹雪と騎馬軍団は慌てた。

ドラゴンの腹が満タンになる前に抑え込まなければならない。


パンジーは井戸の中で、悲鳴と怒号が飛び交う最中(さなか)遠くから聞こえてきた吹雪の声をキャッチしていた。そして、吹雪が繰り返し叫んでいた「ハレルヤ」の意味を一生懸命考えた。考察に考察を重ね、遂に導き出された最有力候補が 「ハレルヤ」がキーワードではないか?と云う事だったが、、、しかし、アノ吹雪が…どうやって⁇

この私にも解明出来なかったキーワードをどうして探り当てた?アヤシイ…

99パーセント怪しいが、それはさておき時間がない。 パンジーは苦慮しながらも、こうなったら一か八かやってみるしかないと心を決めた。

パンジーは10段井戸の上に進み、両手を目一杯伸ばした姿勢で天に古文書をかざし、長い長い呪文を唱え出した。


スピードでは軍団に勝るドラゴンだが、幸いだったのは充電しながらの飛行だったので、極端な減速になった事だ。

マーキュリーがいち早く井戸に駆け付け「ハレルヤ」を伝える。

そして、騎馬軍団とドラゴンが井戸に着いたのはほぼ同時だった。

パンジーを守るべく、兄弟たちと四天王、軍団の兵士たちが二重三重に井戸を囲む。

井戸からちょこっと顔を出したパンジーの目に地獄絵図が飛び込んできた。

夥しい兵士の死骸だ。血塗れの首だけがあちこちに散らばっている。焼け爛れて炭化寸前の胴体。ベロりと剥けた皮から覗く骨。

パンジーは、それらを目の端に捉えながら一層厳しい表情で休みなく呪文を唱え続けた。

そして、いよいよキーワードへ。

「 天(あめ)、土、風、水、火、これら精霊の名において汝を呼び寄せる者なり

ハレルヤ!ハレルヤ!」

「メスブタ――――‼‼」 半狂乱のドラゴンが放った火焔砲とパンジーの呪文が重なった。

マーキュリーがすかさずパンジーに覆い被さり共に井戸の中へと落下。

つくしは素早くクラッシュアの原形である不燃網アイアンシートを広げると ムーンに覆い被さった。同時にジュピターも地に伏せサクラをアイアンシートで包み込んだ。他の兵士たちも訓練通り互いを庇い合う様にアイアンシートで身を守るが、逃げ遅れた者もあり、またしても多くの兵士が犠牲になり肉の焼ける臭いが充満した。

ビッグの華麗な足さばきで火焔砲から逃れる事ができた吹雪は、ビッグの背から飛び降りるや、ここで仰天の行動に打って出る。

吹雪は、アイアンシートを頭からすっぽり被ると火焔砲の中を地を滑る様にドラゴンの盲点となっている足元へ滑り込んだ。

そして一気に、炎の中をドラゴンの鼻先まで跳躍した。

不意を突かれたドラゴンの火焔砲が一瞬止まったと同時に吹雪の怒号が炸裂。 

「パンジーだ――‼バカヤロ――――‼」

吹雪は渾身の力を込めてドラゴンの眉間に剣を突き刺した。体重をかけて深く深く…脳天に届くまで。

狂乱のドラゴンが腹に溜め込んでいた火焔砲を一気に放出した。爆風は、闘い敗れて最早原形をとどめていない死骸を瓦礫共々吹き飛ばした。

目を眩ます閃光と爆風と熱波で辺りはけむり、10センチ先も見えない状態の中、奇妙な静けさだけが漂っている。四天王はじめ一人二人とアイアンシートを外し手探りで仲間を確認していった。はっきりとは見えないが、息遣いが伝わってくる。

次第に埃と土煙が薄くなるにつれ異様な光景が見えてきた。

ドラゴンが巨大な風船の中で叫びもがいているのだ。

ドラゴンの額は吹雪が突き刺した傷から激しく血が噴き出している。

やがて軍勢の見守る中、風船は見る見る縮んでいき遂に見慣れたサイズの水晶玉になってしまった。

この場に居る全員が煤で黒ずんだ顔を見合わせていると、上空から一陣の風が吹き降りてきた。全員 申し合わせた様に上空を見上げると、光を放ちながらある物体がゆっくりと降りてくるのが見えた。

やがて、地上に降り立ち姿を現したのは 純白の見事な馬体 優雅な翼を羽ばたかせる伝説のペガサスである。

ペガサスは地上に降り立つと同時に人間の姿に変身した。端正な顔立ちの壮年である。四天王はじめ4人の兄弟たち、軍団の兵士は一斉に片膝をついた。

ペガサスは全員を気遣う眼差しで語り出した。

「災いは去った。勇気ある我が子孫と4人の救世主、死を恐れず果敢に挑んだ兵士たち。たくさんの仲間を失った事実は殊更に重いが、しかし、無駄ではない!」

ペガサスは一旦ここで言葉を切り、四天王と兵士たちに腰を折った。

「今日の出来事は、これから更なる試練が訪れても、皆が心をひとつに戦えば この惑星を守って行けると云う証明になった。これからも―――」と、言いかけたペガサスに、せっかちで無遠慮なパンジーは、一応「失礼ですが!」と断ってペガサスの前に進み出た。四天王は氷ついたが、パンジーは気に留める風もなく無遠慮そのものだ。但し、ペガサスの前で膝を折ったのは、さすがに…と云うところか。

ペガサスは氷ついている子孫たちに軽く頷きパンジーを優しい眼差しで包み込んだ。

パンジーは焼かれてチリチリになった髪の毛を気にしながらも早口でまくし立てた。 「大使、恐れながらハッキリ言います。呪文が長すぎます! で、なければ呪文の途中で攻撃されてしまうわ!」  この意見には難解な呪文の解明に一役買ったマーキュリーも内心、畏れながら、一理あると頷いていた。

ペガサスは少し困った様子で言いずらそうにしていたが、やがて、少し顔を上向きに、つまり、誰とも視線を合わさず話し始めた。

「…呪文、呪文は……呪文そのものは魔法界の理なのだよ」「私を必要とする時は、心の底から念じる。心の底からだよ。一切の邪念、雑念を振り払って、先程の様に」ペガサスは視線をパンジーに戻したが、その眼差しはとても気遣わし気だった。 ここに至って真実を悟ったったパンジーは呆然と立ち尽くしていたが、やがてグニャりと座り込んでしまった。マーキュリーが慌てて駆け寄りパンジーを抱き抱え、数える程に減ってしまった兵士の後ろに下がると、今度は吹雪が立ち上がり 「大使!その水晶玉ですが…」と、言いかけたところで慌てたビッグに頭を押さえつけられ渋々膝をついた。ペガサスは吹雪に微笑んで言った。 「そう…この水晶玉はこうしよう!」そう言うなりペガサスは水晶玉を吞み込もうとした為 今度は吹雪が慌てて止めた。 「大使!ドラゴンに確かめたい事が…」 ペガサスは思案顔だったが、「吞み込まれるな」と一言言い残し吹雪の手に水晶玉を渡すと死闘が繰り広げられた方に離れて行った。

吹雪はつくしとサクラを手招きし、昔 倉庫の中でそうした様にドラゴンを囲んだ。吹雪は水晶玉の中でもがいているドラゴンに話しかけた。ドラゴンの額からは血や体液に混じってドロドロしたモノが流れている。吹雪は気分が悪くなった。倒されて当然の相手だが、脳ミソを直視するのはやはり嫌な気分だ。吹雪は深呼吸をして言った。

「スネーク、お前、俺の役目がドウタラと言っていたな、どういう意味だ?それともただの戯言か?」 再び水晶玉に囚われたスネークドラゴンは、暫く憎々し気に3人を睨んでいたが、一周二周と回る毎に表情を和らげ、やがて3人が初めて出会った時の様に目をキョトキョトさせ訴えかけてきた。

「吹雪!つくし!サクラ!助けて!助けて!天の牢獄には行きたくない‼」

ドラゴンは目をウルウルさせながら胸の辺りで手を合わせた。

「天の牢獄? 天に牢獄があるのか?」 サクラが訊いた。 「そうだよ!水晶玉に閉じ込められたドラゴンは天の牢獄行きなんだ!」「しかしお前は魔界の使いじゃなかったのか?」今度はつくしが疑問を投げかけた。

「……魔界は、天の裁きに従う。天も魔界の掟には口出ししない。吹雪!吹雪は解ってくれるよな?」 こいつがさっきまで残虐非道に暴れまわっていたドラゴンなのか? と、吹雪は思った。

「で、?どんな所なんだ?その天の牢獄ってさ」 これは単なる吹雪の興味本位である。が、額の傷に憐れみを感じた分、心の扉が紙一枚分解れたとも云える。

ドラゴンは一層愛らしくシナをつけながら吹雪に哀願した。

「唯唯歩くんだ、果てしなく歩くんだ、一歩も休まず歩き続けるんだ!」

「歩けなくなったら?」 「知らない……」泣きむせぶドラゴンに一瞬気を許しそうになった吹雪は寸前の所で押し止まった。吹雪は見逃さなかった。哀願を装うドラゴンの目の奥で妖気が見え隠れしていた事を。

我に返った吹雪が呼吸を整え再びドラゴンに 「俺の役目とは何だ?」


途端にドラゴンが豹変した。 「くっっっそ――――‼‼もうチョイだったのに‼ふざけろ‼ そんなの知った事か―――‼ 醜い豚め―――‼知りたきゃそこにいる白いバケモノに聞くがいい‼ どいつもこいつも人間に擬態するのがそんなに嬉しいか⁈ 所詮、馬は馬!オマエらブタは薄汚い……」 ドラゴンが言い終わらぬ前に3人が同時に叫んだ。 「吹雪だ――!」「つくし‼」「サクラだよ―――‼」名のりの部分はバラバラだったが 「バカヤロ――――‼‼」は息がぴったりだった。

ドラゴンが何か言おうとした時、ペガサスが吹雪の手から水晶玉を取り上げスルリと吞み込んでしまった。啞然と立ち尽くす3人にペガサスは言った。

「私が先程言った事を覚えているか?」 不意を突かれ黙り込む3人に、ペガサスはこの成り行きを、固唾を飲んで見守っている全ての者に向けて話し出した。

「先程、私はこれから更なる試練が、、、と言った。これは比喩ではない。手短に話そう。」


ペガサスの話は衝撃だった。近い将来デリヌス星のマザーランドと云える地球から人類が侵入して来る。平和的な侵入ではない、むしろその逆だ。地球から派遣を請け負って飛んで来るのはならず者の集団だ。廃虚と化している地球では今だに権力争いが続いているのだと云う。有能な科学者の奪い合いで権力争いは激化の一途を辿っていたが、遂に、ある国の科学者チームがデリヌス星を探し当てた。

極めて地球に近い、いや、廃虚となる前の資源が豊富な地球そのもの、夢の惑星だ。

「ここで思い出してもらいたい。」と、ペガサスは言った。「スネークと一部の魔女が人間と契りを結んだ事を。」彼等は人間と愛し合いスネークは子供まで設けていたが、結果は知っての通り。彼等の家族は地球に捨て置かれた。殆どは成長過程で紛争による死を遂げている。  だが、一人だけ生き残った者がある。その子は母親を通して、スネークに纏わる物語を伝説に昇華させ、代々語り継がせる事に成功した。」

「…つ、まり、その子の子孫が、スネークの子孫が科学者になって……」 

「遂に寝物語で引き継がれた伝説のデリヌス星を探し当てた」  ざわざわと 誰となく囁き合う声が聞こえる中、吹雪は、大使、と、声をかけた。  「大使、事情は解りました。我々ドリームチームに任せて下さい!」と、胸を張った後、「実は、大使にお願いがあります! これは絶対に叶えて欲しい。」と付け加えた。 今度はビッグも止めなかった。吹雪なら、と云う絶対的な信頼である。ペガサスは「ほう…?」と云う表情で吹雪を見つめた。「私は使者に過ぎないが、今回の騒動は原則を無視してアウトクラトウルを生み出した私の責任でもある。私に出来る事なら……」

「その原則破りをもう一回やってもらえませんか?」 素知らぬふりをして耳をそばだてていた者たちからどよめきが起きた。

「………?何をする?」

「俺は豚だ!豚だが恥じた事は一度もない!豚である事に誇りもある。だけどさ!キャリアとノンキャリアの区別が解らない。地球じゃ俺たちは人間の餌…いや、食料だ!もし、防衛しきれず、そうはさせないが、万が一、万が一人間がデリヌス星に侵入したら、変身できないノンキャリアは食われてしまう!」 どよめきが波打ち津波の様になったが、すぐに静かになった。嵐の前の静けさの様に。

「それで?」とペガサス。

「…そこで…キャリアとノンキャリアの壁を取っ払って欲しい‼ 俺は、正直長い寿命など興味ない!寿命よりも皆を公平に扱って欲しい!大使!お願いします!」

ペガサスは暫く腕組みをして考え込んでいたが、やがて諦めた様に言った。

「やれやれ、想定外の出来事だ。だが、勇敢な戦士達には何か贈り物をしなければなるまい、自分で蒔いた種でもあるし」 そう言いながらペガサスはスルスルと上空に舞い上がって言った。「勇敢な我が子孫よ!勇気ある兄弟たちよ!この惑星と共に大いなる加護があらん事を!」 そして最後に、吹雪に語りかけた。 「吹雪、天は平等だ、ま、たまに例外はあるが」 そう言うと片目をつむってみせた。 一陣の風に乗って、ペガサスは白馬の姿になり空高く舞い上がるとやがて見えなくなった。 

その場にいた全員が空を見上げていたが、体勢を戻したノンキャリアの兵士たちの間で、嵐の前の静けさが爆発した。皆、二本足で立っていたのである。人間の姿で。


シェルターから次々村人たちが出て来た。皆、人間の姿で。釣り好きの狸のオジサンは突然の事にあたふたするばかりで、釣り仲間から冷やかされている。キョロキョロした目と太鼓腹はそのままだが、紛れもない人間の姿をしたオジサンである。


それから一年程は惑星を上げて村の修復に取り掛かった。

各国から大勢の加勢があったお陰で修復は順調に進んだ。騎馬軍団は村の再興を確認すると西の草原へと引き上げて行った。その際、ムーンとの出会いを運命と受け止めていたつくしは、迷う事なく草原の住人になる決心を固めて軍団と共に出発した。 パンジーもマーキュリーの誘いに応え資源の開拓と技術の開発を急ぐ事に。

近い将来必ずやって来る侵略を許さない為に。


西の草原に歩を進めながらムーンがジュピターに問いかけた。

「ジュピター、サクラは類稀なうた姫ね?」

5~6歩先を歩いていたジュピターは、ハッとした表情で振り返ったがムーンの背に乗っているつくしの目を見て諦めたのか、無言で小さく頷いた。


サクラは女の子として3番目に産まれた。

サクラは生まれて間もなくの頃から吹雪について回り、ドロドロに転げまわって遊ぶ事が自然で楽しかった。成長してからも変わらず吹雪とつるんで悪戯三昧。村人たちさえ、サクラが女の子だったと云う事を忘れるくらいだった。

サクラはサクラが望むまま男子として存在していたのである。

騎馬軍団がフラワー村にやって来て、ジュピターに実力を認められたサクラはその背に乗れる名誉をも勝ち取った。

日々、厳しい訓練に明け暮れていたサクラだが、ドラゴンとの決戦が迫ったある夜、父親に請われ 子供の頃吹雪と飽く事を知らず泥んこ遊びに夢中になった川原へ出掛けた。

この日は月が冴え冴えと輝き二つのシルエットを照らしていた。

父がサクラに話しかけた。 「折角の休息日なのに、付き合ってくれてありがとう。それにしても見事な月じゃないか? ここなら宿舎からも遠いし、草木も眠る時間帯だ、見張りも遠く離れている。久し振りに聴かせてくれるかい?」

父はそう言うとバイオリンを弾き始めた。

     ―――丁度、時同じ頃―――

ジュピターが森の地形や仕掛けてある罠を再確認する為一人で森の中を歩いていた。 村人全員を収容できるシェルターは大方完成している。

食料の備蓄も、テイラミスのお陰で当分は間に合うはずだ。問題は、近代的な武器を何一つ持てぬまま臨まなければならないドラゴンとの戦い方だな……と、あれこれ考えながら歩いていると、多分、川原の方向からだろう、心地よい風に乗って美しいソプラノとバイオリンの調べがジュピターの耳を捉えた。

ジュピターは 「ああ!タンゴさん!」と思った。タンゴのファンであるジュピターは小躍りしながら川原へと走り出した。だが、川原が近付くにつれ ソプラノの音色がジュピターの知っている声とは違うことに気付いた。

気配を消し、足音を忍ばせグッと近寄るジュピターの眼前にふたつのシルエットが現れた。タンゴじゃないとしたら……誰だ?しかも真夜中に。

やがて歌い終わると、丸みを帯びた大きなシルエットの方が話し出した。

「まったく!お前の声はまさに神からのギフトだ!」 そう言うと小さい方のシルエットを抱き寄せた。 ジュピターは「おやおや……?」と思ったが展開が読めない。 再び大きなシルエットが話し出した。 「ああ!まったく有難い事だ!神よ!感謝します!……さて、そろそろ帰らなければ明日に障る。ああ……いやいや、最後にもう一曲だけ、お前の歌声が聴けるのもこれが最後になるかもしれない。勿論、そうならない事を祈っているよ。もう一曲だけでいい、歌ってくれるかい?…

まったくお前は自慢の娘だよ、サクラ」

生い茂る樹木に体を預けていたジュピターは絶叫寸前で何とか堪えた。

サクラの奏でるソプラノで、月は更なる輝きをもって深い森を照らす。

この、あまりの予想外の出来事はジュピターを苦悩の沼に突き落とす威力があった。

猛々しい猛者に混じって繰り返される激しい訓練。時には血反吐を吐く事もあったのに、弱音ひとつ吐かないサクラを、ジュピターは完全に性根の座った男子として、荒々しく訓練をつけていたのである。勿論、兵士の中には牝馬も多数いるが、持って生まれたパワーには絶対的な差がある。身軽さ、剣の使い方はサクラの方が勝っているが、スピードや馬力は、たとえ牝馬であっても、あのサクラが敵わなかった理由が今日まで解らなかった。

だが、今更真実を知ったからといって、サクラを追放する訳にはいかない。

ドラゴンとの死闘で命を落とすかも知れないが、それはそれで仕方のないことだ。

その為の救世主とも云えるのだから……ジュピターの脳裏で交錯する感情の嵐。

疾走する兵士たちの後を血塗れになりながら追いかけていたサクラ。

罠に使う大木を体に巻き付け更なる大木をよじ登っていたサクラ……

俺の背に乗り、茨の中を疾走した時も、川から滝壺へ飛び降りた時も、サクラは一度たりとも臆した事がなかった。

激しく揺れ動き縺れ合う感情の中でジュピターが出した結論は、サクラの父が言った様にサクラに与えられた神からのギフトを護る事。それがジュピターの精一杯だった。


「いいじゃないか。男だから、女だからは関係ない。サクラは救世主として送られた戦士だ。サクラはサクラである事が重要なんだ。それにしても……気付いてなかったとは……」

ビッグの言葉にジュピターは己の間抜けさに呆れつつ何度も頷いた。自分だけが気付いていなかった事が可笑しくて堪らない。かなり我慢していたが堪え切れず、遂に腹の底から湧き上がる愉悦に満ちた声で笑い出し、周りを笑いの渦に巻き込んでいった。


吹雪は北の国の山奥、魔法使いの洞窟目指して旅立った。

マザーランド地球、人間について知っておきたい事が山ほどある。この惑星の文化は全て人間の成した文化、偉大な文化の継承であると魔女が言っていた。

魔女は、人間の姿に擬態する事で人間を、人類をリスペクトしているのだと言っていたが、では何故、覇権争いを繰り返し 僅かな資源を奪い合うのか。助け合う思想が乏しく殺し合うのか。近代的な武器とはどんな物か。それはパンジーが紐解くだろうが、吹雪は、いよいよ自分も苦手な蔵書と向き合わなくてはならない時期が来た事を予感していた。


陽は高く上り、乾ききった山道を歩く吹雪を照り付けた。今では屈強な体格を誇る吹雪だが、山道を焼く日差しは流石に厳しかった。洞窟まではまだ相当距離がある。北の国に旅立つ前、タルトとタップ、タンゴ、から大方の道筋は聞いている。

だが、いわゆる、タルトは狼、タップは灰色鼠、タンゴは銀狐。多少の荒地や難所は難なく飛び越えて行くだろうが…こちとら豚は人間のフォルムで行動した方が速い。

額に手をかざしながら乾いた斜面を歩いていた吹雪は、ふと、ある事を思い出した。スフレのサングラス。ドラゴンとの決戦直前スフレが露と消える前にパンに託したサングラスである。吹雪はバックパックからサングラスを取り出し装着した。

今日が初めてと云う事で、スフレの真似で少し気取った仕草でサングラスを着けた吹雪は 「ああああああ――――‼‼」と叫ぶ程驚いた。

「…あ、あ、ありえねーだろ…」 吹雪は呟くなりサングラスを外し一歩後退った。

注意深く辺りを見回したが、乾いた山道で蟻が蠢いている以外変わった事はない。

吹雪は思った。「幻か…?そうだよな、有り得ないんだよ」 しかし、心のどこかではアリエナイコトモナイと云う声もある。

「ないない!」吹雪は強引に異論を張り倒すと再びサングラスをかけた。

ところが、やはり、レンズを通して見えたのは、たった今幻と決めつけた懐かしい顔がふたつ並んでいた。

若い頃のスフレの姿。スフレのツリーハウスの中に、所狭しと飾られていた自慢の肖像画の姿だ。隣に立つ若い女は身に付けている服装からすると、おそらく魔女のハレルヤだろう。

二人共にこやかに ゆっくり大きく頷き吹雪を手招きしている。

暫くあっけに取られていた吹雪だったが、やがて二人の顔を交互に眺めやり、

はればれと笑った。

















































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