第203話 コルトガバメントM1911A1

三日後、旅の準備が出来た石動は、ロサと共に離宮前の車廻しにいた。


 石動の旅の準備とは、帝国諜報部暗部に奪われたモーゼルⅭ96の代わりになる自動拳銃を仕上げておきたかったというのが一番大きな理由である。

 マクシミリアンが相談を持ち掛けてきた時には、ちょうど製作に取り掛かっていたところだったのだ。

 もちろん、それ以外の完成間近だった武器を、出発までに大急ぎで造り上げておきたいという事情もあったのだが・・・・・・。


 その成果が、今、石動の左腰のクロスドロウ・ホルスターの中に納まっている。


 ホルスターに入っているのは「コルトM1911A1ガバメントモデル」だ。

 オリジナルのままではなく、石動の好みに合わせて少しカスタムを施してある。


「コルトガバメント」の通称で知られるM1911A1は、天才ジョン・ブローニングの設計を基に、アメリカのコルト社が開発した自動拳銃である。


 1911年にアメリカ軍に「M1911」として制式採用され、その後1926年に改良されて「M1911A1」となった。

 それから1985年にベレッタM9に制式拳銃の座を明け渡すまで、なんと74年もの長い間、アメリカ軍の制式拳銃として使用され続けた銘銃だ。

 ベレッタM9が使用する9ミリ弾が主流の時代になっても、海兵隊や特殊部隊などの一部で使用され続けたのは、やはり45口径を信仰する大口径好きのアメリカ人らしいと言える。


 使用する弾薬はもちろん45ACP弾だ。

 初速は遅いが弾頭の質量の大きさで、対象に大きなダメージを与えることが出来る。

 38SPスペシャルで撃たれて倒れない敵でも、45ACPで撃てば一発で倒せるほどの強力なノックダウン・パワーが魅力なのだ。


 石動が使う45ACP弾は、弾頭重量235grと重めのジャケッテッドホローポイントJHPとし、初速は260 m/s (850 ft/s)に抑え、打撃力重視の弾にしてある。

 これはM3A1グリースガンと共用の仕様であり、以前作り置きしておいた45ACP弾をそのまま使えるのはありがたい。

 それに亜音速弾なので、サプレッサーにもそのまま使用可能だ。


 またM1911A1は長く制式拳銃として使用され、第一次・第二次世界大戦や朝鮮戦争、ベトナム戦争などで実戦を潜り抜けてきただけに、その信頼性は折り紙付きだ。


 石動のM1911A1はそんな軍用の官給品ガバメントモデルを、精度を高めたカスタムモデルとして造り上げた。


 実際に前世界でもガバメントモデルのカスタムは非常に人気が高く、カスタムパーツが豊富なだけでなく、加工チューンアップするガンスミスが星の数ほど存在する。

 メーカーの箱出しで、そのまま使用する人は少ないのではないかと言われるほどだ。 

 よほどのコレクターでない限り、自分好みにチューンアップするか、カスタムパーツに取り替えてから射撃している人がほとんどではないだろうか。


 ベースとなった官給品であるミリタリー・ガバメント、略してミリガバの問題点は、軍用としては充分なのだが、シリアスな射撃として使用するには銃身などのガタが大きすぎるので精度が劣ることだ。


 チューンアップするなら、まず銃身を精度の良いものに変える必要がある。

 あとはバレル・ブッシングという銃身受けのガイドを、銃身やスライドとの間にガタが無いパーツに変えて、銃身のセンターがいつも変わらないようにするのが重要だ。


 石動は様々なバージョンがあるガバメント・シリーズの中でも、コルトMk.IV SERIES 70のバレル・ブッシングの形が好きだし、精度も高いのでそれを再現して着けてみた。


 あとは、グリップセイフティの後端を幅広くして長さを延長したビーバーテイルという形にしたものを取り付ける。

 こうすることで、銃把を高い位置で握ってハイグリップも、ハンマーとグリップセイフティの間に親指と人差し指の付け根部分が挟まれないハンマーバイトようにするのだ。


 親指で操作する安全装置サムセイフティも右手だけではなく、左手で撃つ場合にも対応できるよう、両側で使えるアンビ・セイフティにしておく。


 サイトもノーマルのままでは小さすぎて狙い難く、使いづらい。

 そのためイライアスンの精密な可動サイトのコピーをとも思ったが、より実戦的なNOVAKノバックサイトを取り付けた。


 あとはトリガーパーツなどの擦り合わせを十分に行い、砥石で滑らかに磨いて、引き金のキレを良くしておく。


 ガバメントモデルのチューンアップは、し始めるとキリがない底なし沼なので、石動はこの程度で止めておこうと自重する。

 射撃競技に出る訳ではないし、拳銃は狙ったところに弾がキチンと当たってくれて、確実に作動してくれればそれで充分だと考えているからだ。


 あとガバメントモデルの安全装置は、ハンマーを起こした状態で安全装置サムセイフティを掛けることでハンマーが動かないようにするものがメインだ。


 薬室に弾薬を装填した状態でハンマーを起こしたまま、その状態をキープする「コック・アンド・ロック」が可能なので、銃の扱いに長けたプロ級の者には実戦的で好評だった。

 銃を抜き、サムセイフティを親指で下げ、引き金を引けば直ぐに発砲できるからだ。


 ただ、慣れていない者が扱う場合、何かに引っ掛かったりしてサムセイフティが外れてハンマーが倒れれば、撃針を叩いてしまって銃が暴発する危険性が高くなる。

 一応、グリップセイフティという、銃把と共に握らなければハンマーが落ちない安全機能もついている。

 それでも実際に落下や不注意などが原因で暴発が起きた事例は山ほどあるので、すぐに撃たずに安全に携帯したいなら、薬室に弾薬を装填せずハンマーも下げたままなのが一番だ。


 銃器の扱いに長けた石動でも、ガバメント・カスタムの薬室に常時45ACP弾を装填したまま、サムセイフティを掛けた状態で持ち歩くのは落ち着かない。

 敵のアジトに突入する直前のような、戦闘の準備段階にでもなれば話は別だが。


 でもそれではいざという時に、いちいちスライドを引いて装填していては間に合わない場合も多いはずだ。

 そこで、ガバメントモデル特有の装填テクニックとして「プッシュ・ローディング」というものがある。


 スライド先端にあるバレル・ブッシング下部を、ホルスター前部に押し当てることでスライドを後退させ、マガジンから薬室へ弾を装填するテクニックだ。

 達人が行うと目にも止まらない速さで装填・発砲が可能となる。


 石動の場合、ガバメントモデルのホルスターは左腰にあるクロスドロウ・タイプなので、右腰にホルスターがある場合よりプッシュ・ローディングをするのは難しい。

 それでもクロスドロウ・ホルスターの前部に金属板のライナーを入れて補強して、プッシュ・ローディングしても大丈夫なように工夫した。


 出発までの間、自室で石動がプッシュ・ローディングの練習をガシャコンガシャコンと繰り返していたのは言うまでもない。



 今まで通り、右腰にはコルトSAAが収まっている。

 腰のベルトにはSAA用の六発入りアモポーチだけでなく、ガバメントモデル用のマガジンポーチも新たに取り付けられ、それには二本の装填済マガジンが差し込まれていた。


 そして、肩にはスリングでFG42を負っている。

 FG42のマガジンが6本入る海兵隊仕様風のチェストリグを造り、マガジンが腹の前辺りに来るよう皮鎧の上に装着して、マントの下に隠せるようにしてあった。

 

 冷静に見れば、何処の戦場に行くのか、と疑うほどの重武装だ。


 武装装備の総重量は15kgを軽く超えており、めちゃくちゃ重いが、テンションが上がっている石動は気にしていない。

 邪魔になったりして負担になるようなら、まとめてマジックバッグに入れておけばいいか、と考えている。

 こういうものは雰囲気が大事なのだ、と石動は開き直り、ひとりで悦に入っていた。

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