第200話 閑話 200話記念 「ロサの憂鬱」
ついに200話!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
記念にロサのちょっとカッコイイところをお送りします。
お楽しみください。
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「アルベルティナ様、今まで何度も言いましたが、私は侯爵令嬢であるあなた様と一緒に座ってお茶を飲めるような身分ではありませんし、そもそも護衛なんですから椅子など座らないほうが」
「あら、ロサさんは私とお茶するのは、お嫌なんですの?」
「いえ・・・・・・嫌とかそういう訳では・・・・・・」
「では、よろしいではありませんか! それにここは離宮だし、私たちの身内しかおりませんことよ。身分とか細かいことを気にするような者は、ここにはおりませんわ!」
「ハァ・・・・・・」
がっくりと肩を落としたロサが、ニコニコしながら自分とテーブルをはさんで対面した椅子に座るよう示すアルベルティナ嬢を見る。
周りを見回すと、アルベルティナ嬢の傍に控える侍女は微笑んでいたが、目は笑っていないような気がした。
身分を細かく気にしているヤツがここに居るじゃないの!
気に入らないなら、あんたが主人を止めろよ! とロサは心の中で毒づく。
今ロサたちがいる離宮の中の東屋を警備する近衛騎士がふたり、東屋の近くで護衛についているが、こちらはニコニコしながら早く座れば? と目で合図してきた。
ロサはため息をつき、仕方なくアルベルティナ嬢の向かいの椅子に腰かける。
すかさずロサの前に侍女が、紅茶を注いだティーカップとソーサーをさりげなく置いた。
もうこうなると開き直るしかない、と心に決めたロサは、諦めてティーカップをとり、紅茶を口に運ぶ。
「ところでロサさんは最近、なにか悩んでらっしゃるんではなくて?」
ロサは丁度、口に含んだばかりの紅茶を、あやうく吹きだしそうになる。
何とか吹きださずに紅茶を飲みこんだロサがアルベルティナ嬢を見やると、相手は澄ました顔で紅茶を飲んでいた。
絶対、今のはわざと、タイミングを図って爆弾をぶち込んできたに違いない。
その証拠に、侍女がティーポットを持って俯き加減で顔は見えないけど、笑いをこらえているのが分かるわ。
そう感じたロサは、出来るだけ澄まして返答した。
「どうしてそう思われたのですか?」
「あら、見ればわかりますわよ? ロサさんは気付いてらっしゃらないかもしれないけど、最近は浮かない顔をして、ため息をついてることが度々ありましてよ」
「ええっ! そうなんですか?」
「まあ、やっぱり気がついてらっしゃらなかったのね。他人に話すと楽になると申しますわ。私で良ければ、お聞きしますわよ」
「・・・・・・」
ロサは、自分はそんなに分かり易かったのかと恥ずかしく思ったが、同時に優しく微笑むアルベルティナ嬢の顔を見ていると心の壁が溶け出して、つい言葉が零れてしまった。
「最近、私は役割を果たせていないな、と思うことが多くて・・・・・・」
「え? どういうことですの? 護衛としての役割は充分果たしてらっしゃるでしょう?」
「いえ、そうではなくて・・・・・・。クレアシス王国をザミエルと出てからは、彼の背中を守ることが私の使命だと思ってきました。
でも最近、彼はひとりで罠に飛び込んでいくし、私には事前の相談はなにもありませんでしたし・・・・・・。
そして結局、ひとりで大勢の暗部の人たちを返り討ちにして、あげくの果てには
「・・・・・・ザミエル殿が、そうおっしゃったの?」
「いえ、彼はそんなことは言いません。でもなんだか、遠くに行ってしまったようで、怖くなるときがあります・・・・・・」
「なるほど、そうだったのね・・・・・・」
アルベルティナ嬢は、すこし俯いているロサを愛おしげに見やる。
ロサは薄っすら涙ぐんでいるように見え、肩を落とし、耳までしおれたようになっていた。
ナニコレ、まるで恋する乙女のようじゃないの。
アルベルティナ嬢は驚いていた。
いざとなると飛竜も倒す女と聞いていたけど、この子、何ともカワイイ面があるわね・・・・・・。
「ロサさん・・・・・・」
「シッ!」
アルベルティナ嬢が続けて口を開こうとした時、ロサがピクッとして顔を上げ、右手を挙げて言葉を制した。
先程までしおれていたロサの長い耳がピンと立ち、眼は何かを探すように視線を彷徨わせていたが、遂に何かを捉える。
「皆さん、耳をしっかり塞いで伏せていて!」
そう言いながらロサは膝の上のマリーンM1895を取り上げて構えると、素早くレバーを操作して初弾を薬室に送り込む。
バンッ! という発砲音が響くと、しばらくすると100メートルほど先にある植木から、弓を抱えた男が落ちてきた。
ロサはレバーを操作し、素早く排夾・装弾すると、アルベルティナ嬢の後ろの植え込みに銃口を向ける。
近衛騎士らが剣を抜いたと同時に、侵入者が3人、植え込みから短剣を構えて飛び出してきた。
ロサは冷静に侵入者へ3連射して倒し、足止めしたあとは近衛騎士に任せておく。
それから油断なく周りを警戒しながら、残弾が2発になったので、ベルトに差した45-70弾をマリーンに補弾しようとした。
その時、ロサの後方から新たな侵入者が現れ、片手剣を振りかざしながら飛び掛かるようにして、東屋へ突進してくる。
ロサは補弾しようとしたマリーンをテーブルの上に放り出すと、腰のランダル銃を抜き、賊に向けて発砲する。
45-70弾が右肩に命中したにも関わらず、侵入者は倒れないまま、それでも近づこうとしてきた。
ロサは慌てず、手にしたランダル銃をクルッと回転させてスピンコックし、排夾・装填すると、もう一発今度は賊の鳩尾あたりに撃ち込んだ。
たまらず、倒れ伏せる侵入者。
騒然となった周囲を気にせず、ロサは更にスピンコックして排夾・装填した銃を倒れた賊に向けたまま辺りを警戒していると、離宮の中から近衛騎士たちが一団となって駆け寄ってくるのが見えた。
その集団の先頭にいたのは石動だ。
石動はロサに駆け寄ると、両肩を掴んで叫ぶ。
「ロサッ! 大丈夫か?! 怪我はないか?!」
「私は大丈夫よ、それよりもアルベルティナ様は・・・・・・」
「ああっ、失礼しました! アルベルティナ様、お怪我はありませんか?」
アルベルティナ嬢の周りは既に近衛騎士で囲まれていたが、嬢は笑顔で返す。
「もちろん怪我などしていないわ。ロサさんが守ってくれたもの」
「それは良かった・・・・・・。ところで、もう賊は居ないのかな? なんならこのFG42を試してみたかったんだけど・・・・・・」
「ああっ! また新しい銃を造ってるし! まったく仕方ないんだからもう!」
「いや、ロサ、この銃は凄いんだよ。なんせ」
アルベルティナ嬢は、ロサとザミエルがわいわいとやりあっている様子を、微笑みながら見つめる。
ロサは近衛騎士たちがなにも出来ないでいるうちに、あっという間に5人の侵入者を倒してしまった。
今は近衛騎士たちが、死体の検分や侵入経路の捜査などの後始末に右往左往している。
そんな中、この二人は何事もなかったかのように言い合っているなんて・・・・・・。
アルベルティナ嬢は心の中でロサに話しかける。
『ねえロサさん、気付いてる? ザミエル殿は真っ先に駆け付けてきて、まずあなたの安否を尋ねたわ。ザミエル殿の相棒はあなたしかいない。心配する事なんて何も無いのよ』
フフフッと笑ってアルベルティナ嬢は付け加える。
『でも、ちょっと、なんだかふたりが羨ましいから、今は教えてあげないことにするわ。いつかまた、一緒にお茶を飲む機会があれば、その時にお教えすることにしましょうか・・・・・・』
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