第199話 理想の小銃

 石動が造ったFG42は、グリップが急角度でついている前期型だ。


 後期型はグリップの角度がレシーバーに対して、普通のピストルグリップのように直角に近い角度になり、握り易いよう改良された。

 また後期型では複雑な製造工程を簡略化するため、レシーバーも安価な炭素鋼を使ったプレス製造を採用している。

 前期型の高価なクロムマンガン鋼を使い複雑な機械加工が必要だったレシーバーを、炭素鋼のプレス加工で同じ強度を持たせるためには分厚く大型化せざるを得なかったので、後期型は前期型の細身で華奢な印象が薄れてしまっていた。


 そのため石動は、鋼材をクレアシス王国のカプリュスが鍛えた最高級ニッケル・バナジウム合金クロムモリブデン鋼を使うことで、前期型の複雑で薄い削り出し加工のレシーバーを再現する。

 合金鋼のおかげで強度は充分すぎるほどあるので、前期型のスリムなままのレシーバーを再現することが出来たのだ。


 木製のハンドガードは、世界樹の枝がまだたくさん残っていたので、それを加工した。薄く加工しても割れずに丈夫だし、耐熱性も充分すぎるほどだ。


 二脚も前期型の銃身中央部につけていた形状のものを、そのまま採用する。

 ただオリジナルの形状のままでは、伏射の際に二脚が長すぎて頭の位置が高くなり使い難いので、二脚の長さを段階的に調節できるように改良しておく。


 折り畳みできる可倒式の前後サイトは、オリジナルのものではなくマリーンM1895にも使用したナイツ・アーマメント社製のフリップアップ・サイトをコピーしたものに変更する。

 こちらの方が精密な射撃には向いているし、自衛隊時代の老兵64式小銃のように発砲の反動でサイトが勝手に倒れたりすることは無いだろう。


 オリジナルのリアサイト近くにあったスコープを装着する際のサイトベースは省略し、石動は将来的にスコープを取り付けやすいよう、レシーバー上に20ミリピカティニーレールを設置しておいた。


 フルオート時の発射速度も前期型の900発/分ではなく、後期型の750発/分になるよう調節しておく。

 8ミリモーゼル弾をフルオートで、しかも900発/分のような速いサイクルで撃つなど、正気の沙汰とは思えない。

 フルオート時の反動を制御できず、弾をばら撒くだけになるのは眼に見えているので、石動は発射速度を抑えたほうが反動を抑えやすいと判断したのだ。


 針金を太くしたような銃剣スパイクを石動はどうしようか、と少しだけ悩む。

 第二次世界大戦時にもソ連軍の分厚い外套すら貫けなかった、と降下猟兵たちから役立たず扱いされていたような代物だ。

 ただ、省略してしまうと二脚を広げた時に銃身だけになって見た目がちょっと寂しい、と石動は物足りなく感じる。

 そこで亜竜の牙を加工して、スパイクの代わりに細身の鋭い銃剣を装備することにした。

 これなら細身なのに強靭で鋭く、プレートメイルだって楽に貫けるに違いない。


 こうして完成したFG42と弾薬箱を抱え、石動はワクワクしながら足取りも軽く、試射レーンへ向かう。


 弁当箱のように大きな箱型弾倉ボックスマガジンに、8ミリモーゼル弾を20発装填する。

 FG42のマガジン挿入口は独特で、レシーバー左側のグリップの上方に装着される。


 FG42は銃の下側に弾倉が飛び出さないので低く構えることが出来る半面、全弾装填したマガジンを装着すると左側が重くなり重量バランスが悪い、と言われている。

 石動はモデルガンの時も感じたが、ほぼグリップを握った真上に近い場所にマガジンが装着されるせいか、文献で言われるほどバランスが悪いとは思わなかった。

 そんなに言われるほど気にならず、充分慣れることで対応できる範囲ではないかというのが石動の感想だ。


 石動は全弾装填したマガジンの前方にある爪をマガジンハウジングに引っ掛けてからマガジン後方を押し込む、AK47シリーズのマガジン装着に似た手順で、FG42に装着する。


 世界樹製のハンドガードの中ほどから右側に飛び出したコッキングハンドルを引いて、勢いよく離すとボルトがマガジン先端の弾薬を銜え込んで閉じ、薬室に初弾が装填された。

 グリップの左側にあるセレクターをつまんで持ち上げると、まずはセミオートに合わせておく。


 二脚を広げて机の上で銃を安定させると、石動は椅子に座ったままゆっくりとトリガーに指を掛け、標的紙の真ん中を狙って引き金を落とした。


 ダーンッという銃声が聞こえ、心地よい反動と共に、空薬きょうが排莢されて宙に舞う。

 明らかにモーゼルKar98kよりも、肩に感じる反動が軽い。

 複雑な形状のプレス加工された銃床バックストックの内部には、強力な8ミリモーゼル弾の反動を緩和するためにスプリングが内蔵されたバッファーがあり、バックストックが前後に伸縮して強烈な反動を吸収するようになっている。

 そのうえ曲銃床であるモーゼルKar98kなどと違い、銃身からバックストックまで一直線を描く直銃床なので、反動がストレートに肩に伝わり銃口の跳ね上がりを抑えるのが容易で撃ちやすいのだ。


 三発撃って、着弾が左に寄っているのを見た石動は、ダイヤル式のリアサイトをカチカチと廻して調節すると、再び撃つ。

 10発も撃つと標的の中心に弾痕が集まるようになった。グルーピングも良好だ。

 あとは試射レーンの25メートルほどの距離ではなく、100メートル射場に行ってきちんとサイト調整する必要があるだろう。


 石動は弾倉に残った10発程の弾薬を、セレクターをフルオートに回して撃ってみる。


 “ズドドドッ!” という迫力のある発射音が試射レーンに響きわたり、その衝撃波によるものか、天井から埃が舞い降りてきた。

 サブマシンガンとは比べ物にならないほどの強い反動があったが、思ったよりも銃口の跳ね上がりが少なく、コントロールし易い。


 これは直銃床だけでなく、銃口部分に取り付けられた蛇腹提灯のような、大きめのマズルブレーキ兼フラッシュハイダーのおかげもあるのだろう。

 フラッシュハイダーをよく見ると小さな穴が無数に開いており、発砲時には前方にガスが噴き出すような仕組みになっている。

 これにより銃口の跳ね上がりを抑え、射手が感じる銃声も小さくなる効果があるのだ。


 モーゼルKar98kより短い銃身長で、フルロードの8ミリモーゼル弾を撃つのだから、どうしても火の玉のようなマズルフラッシュが銃口から迸るのは仕方がない。

 それでもこの程度のマズルフラッシュで済んでいるのは、この独特な形をした大きなフラッシュハイダーが優秀であるからに違いない。

 フラッシュハイダーの形状によりライフル榴弾グレネードの装着は出来なくなったが、諦めただけの効果はあったということだろう。


 石動はフルオート射撃が思ったより弾痕も散らずにまとまっていたので、満足の溜息をついた。


 モデルガンを弄っていた時から想像していた通り、撃ちやすくて良く当たる、なんとも優秀な自動小銃だ。

 石動は嬉しくなってしまい、試射だから仕方ないと言い訳しながら、気がついたらかなりの時間撃ち込んでしまっていた。

 外出禁止令が解かれたら、絶対100メートルや300メートルの射場を借りて撃ち込んでみよう、と石動は心に決める。



 離宮の作業室に引き籠って銃器製造に励む石動を、マクシミリアンが尋ねてきたのは、それから三日ほど経った日のことだ。


 それまでも皇城での攻防に進展があれば、一緒に打ち合わせをしたりはしていたのだが、マクシミリアンが石動の作業中にやってくるのは珍しかった。

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