第198話 FG42

私の小説あるあるなのですが、今回もオタ呪文全開です。

次回の投稿くらいから、新しく事態が動き出す予定・・・・・・なので、

もう少しお付き合いいただけますよう、お願いします。


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 そこでドイツ空軍のLC-6兵器調達局は、降下猟兵部隊に持たせる新たな小銃を開発する事に決め、次のような仕様で新たな小銃の開発を各メーカーに要請する。


・モーゼルKar98kが使用する既存の7.92mm×578ミリモーゼル)弾を使用する事

・重量はモーゼルKar98kと同等かそれ以下で、着脱可能な弾倉がつく事

・銃剣を装備し、いざという時にはこん棒としても使用可能なぐらいの強度がある事

・メカニズムを単純化しつつセミオート時はクローズドボルト、フルオート時はオープンボルトから射撃が可能な事

・全長は1m以下で伏せ撃ちプローン用に二脚を装備する事

・狙撃にも使用できるよう二倍望遠照準器を装備できる事

・ライフル擲弾が発射可能な事 etc


 当時の技術水準からすれば、新型小銃一挺にあらゆる理想を詰め込んだ無茶振りとも言える仕様で、開発を打診された陸軍工廠は「開発不可能」と言って断ったという逸話がある程だ。

 そして紆余曲折の結果、ドイツのラインメタル社が要請に応じて開発した銃を採用することになった。

 それがFG42【ファルシルムイェーガー・ゲヴェーア42】だ。



 石動がこの銃に魅力を感じたのは、あくまでフルロードの8ミリモーゼル弾使用にこだわったところと、「狙撃」出来ることを性能として求めたところだ。

 仕様書の中には8ミリモーゼル弾の強い反動を吸収するためのバットストック構造や、発砲時の反動で銃口が跳ねないような安定性が求められており、それが実現できているとすれば理想的な小銃と言っていい。

 しかもセミオートとフルオートでクローズボルトとオープンボルトを使い分けるとは、一体どんなメカニズムなのか・・・・・・石動は興味が尽きなかった。


 石動が亡霊ファントムとの闘いで使用したPPSh41サブマシンガンなどの機関銃は、フルオート射撃によって加熱する銃身を少しでも冷やすため、ボルトを開いた状態から発射し射撃終了時もボルトは開いた状態のままとなる。

 これが「オープンボルト」射撃であり、銃身を冷やす効果がある反面、ボルトが勢いよく前進して弾薬を発火させるので、その振動が射撃に影響するため命中精度は低くなる。

 

 ボルトアクションライフルや現代の自動小銃もそうだが、ボルトを閉じた状態で薬室に弾薬を送り込んだ後に発火させるのが「クローズドボルト」射撃だ。

 当然、ボルトが静止した状態から発砲するので振動などは無く、命中精度は高くなる。


 つまりオープンボルト射撃とクローズドボルト射撃を使い分けることで、フルオート射撃時には銃身過熱を抑えて銃身寿命を延ばし、セミオート射撃時には狙撃できるほどの命中精度を実現しているということだ。


 それをセレクターレバーひとつで切り替えることを可能にし、しかも軍用銃でやってのけていたとは・・・・・・なんとも興味深い。

 

 調べているうちにどんどんFG42が気になってしまった石動は、遂に我慢できず、実物そっくりのメカニズムを再現したと評判のモデルガン「SHOEIショーエイ製FG42」を購入してしまった。


 SHOEIショーエイ製FG42はモデルガンでありながら、あまりの再現度の高さにベルギー国ブリュッセル王立軍事歴史博物館が購入して展示したというシロモノだ。

 なにしろ現物のFG42は7,000挺ほどしか製造されておらず、現存数は170挺程だと言われている貴重品である。

 そのため海外オークションでは、程度の良い完品だと一挺3,000万円という高値で取引されているほどなのだ。


 石動が手に入れたモデルガンはFG42の前期型モデルで、ピストルグリップが60度の角度でついているタイプのものだった。

 既にメーカーでも生産中止していたので中古品を購入したが、それでも20万円近い金額を払うことになり、自衛隊時代の月給のほとんどが吹き飛ぶ破目になってしまった。


 そんな思いまでして手に入れたFG42のモデルガンを、石動は舐めるように弄り倒した。


 実際に手に取ると、石動が想像していたよりも華奢で小振りに感じる。

 モーゼルKar98kよりも16センチも短く、重量も箱型マガジンを外せばほぼ同じだ。

 見た目は握りにくそうなグリップだが、ライフルストックのグリップ角度に似ているので、本を読んで想像していた程握り難くはないなと石動は思う。


 何故こんな角度のグリップにしたのかには諸説あるが、落下傘降下する空挺隊員を狙って発砲する眼下の敵に対し、降下しながら応射するのにはこの角度がちょうど良いから、という説を石動は読んだことがある。

 空挺隊員である石動からすれば、敵に向かって応射しながら降下するのは危険な行為としか言いようがない。

 風にあおられるパラシュートをコントロールしながら、4.2キロもある銃を撃ちつつ降下できるのは、映画の中のシュワルツェネッガーかスタローンくらいのものだろうと思う。

 それに進化した現代の落下傘とは違い、当時の落下傘では地面に着地してからの受け身を取る際に銃を手に持っていると邪魔になるので、下手したら着地の衝撃で銃を失くすか腕を骨折するのが関の山ではないだろうか・・・・・・あくまで石動の個人的感想だが。


 恐らくだが、降下隊員は60キロもの装備を抱えて降下するので、その際にピストルグリップの角度を深くすることで少しでも突起物を無くし、紐や他の荷物に引っ掛からないように工夫したのではないかと石動は想像した。


 FG42のモデルガンを分解してみると、その部品数の少なさにも驚いてしまう。


 石動は、分解したガスピストンにシアーが掛かる開口部がフルオート用は左寄りに、セミオート用は右寄りに設けられていることに気がついた。

 セレクターをセミオートに廻すとピンがシアーを押して右寄りに、セレクターをフルオートに回すとシアーがピンに押されて左寄りになるよう設計されている。

 つまりごく単純化して言うと、セミオート時にはシアー突起が右寄りの開口部へ、フルオート時には左寄りの開口部へ掛かるよう独自の工夫が施されているのだ。

 そうすることで、セミオート時にはクローズドボルト、フルオート時にはオープンボルトでの射撃が可能となっていた。


 この構造を見た時、石動はラインメタル社の設計技師ルイス・スタンゲは天才だ、と心底感心した。

 こんなにシンプルな構造と少ない部品数で、ドイツ空軍の無茶振りと言っても良いほどの難しい要望をクリアするとは・・・・・・。

 Stg-44の分解するのが躊躇われるほど複雑なトリガー周りの構造と比べると、洗練の極みだ、とさえ思う。


 そして石動は今、前世界でモデルガンを初めて弄った時の興奮と記憶を懐かしく思い出しながら、異世界の工房でFG42のバレルやレシーバーなどを鋼材から削り出している。


「絶対にFG42を造り上げてみせる!」

 石動はひとり作業室で高揚し、気分は最高潮に盛り上がっていた。

 FG42の出来上がりが本当に楽しみで仕方がない、そんな石動だった。



 ほとんど寝食を忘れるほど集中した作業によって、石動のFG42は三日で完成した。


 あまりにも食事もとらず風呂にも入らず、充分な睡眠もとっていない石動の身体を心配したロサによって、力技で強制的かつ物理的に作業を終了させられそうになったので、スピードアップして完成させたというのが本当のところだ。


 出来上がったFG42を手に持って眺めると、石動はじわじわと感動の波が押し寄せてくるのを感じる。

 かつて持っていたモデルガンなどではなく、これは実際に撃つことが出来るFG42なのだ。感慨深いのは仕方ないことだろう。

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