第197話 自動小銃

 50BMG弾の優秀なところはその凄まじい威力と長大な有効射程で、647gr(42g)の弾頭を3,044ft/s (928m/s)のスピードで撃ち出し、そのエネルギーは13,310ft-lbf(18,050J)にも達する。


 50-110WCF強装弾と比べてみると、真鍮製フラットノーズ弾頭の重さは530gr(約34グラム)あり、それを初速2500ft/sで撃ち出す。

 その結果、エネルギーは6200ft-lbs(約8400J)に達しているが、50BMG弾はその倍以上にもなる凄まじい威力を発揮しているということだ。

 そのうえ50BMG弾の最大有効射程は、2000メートル以上にも達するのだ。


 さらに命中精度も高く、1967年のベトナム戦争で米海兵隊の狙撃手カルロス・ハスコックによって、約2300mの長距離狙撃に使用されたという記録がある。

 また1982年の英国とアルゼンチンが戦ったフォークランド紛争で、アルゼンチン軍がM2重機関銃を狙撃に使用してイギリス軍を苦しめたという逸話がある。

 M2重機関銃を巧みに使うアルゼンチン軍に苦しめられたイギリス軍は、やむなく高価なミラン対戦車ミサイルをアルゼンチン軍陣地にぶち込むことで、やっと沈黙させたといわれているほどだ。


 現在ではアンチマテリアルライフルの主要弾薬としても使用されていて、映画などでよく目にするバレットM82セミオートマチックライフルなどが有名だ。  

 

 本当は石動にとって有効射程が2300メートル以上ある408チェイタック弾や、命中精度が良いうえに弾道が素直で扱い易い338ラプアマグナム弾などが、狙撃銃の弾薬として望ましい。

 しかし石動の今の状態では装薬だけでなく銃身など銃本体の素材や精度の問題で、仮に338ラプアマグナム弾を造ったとしても、銃弾本来の能力を発揮させることはできないだろう。

 石動が、手持ちのコルダイト装薬で最大の威力を引き出せるのが、50BMG弾という訳だ。


 もっとも、第二次世界大戦時に使用された50BMG弾はあくまで重機関銃の弾薬として使用されている。

 対物ライフルとしては「対戦車ライフル」として大戦初期から各国で開発されたものが存在していた。

 その口径は様々で、7.62ミリ弾から始まって20ミリ弾というもはや「砲弾」のような弾薬までもが使用されていたのだ。

 しかし戦車の装甲が分厚くなるにつれて次第に時代遅れの兵器となり、わずかに対物ライフルとして使用されるか、消えていったものが多い。


 その中には50BMG弾を使用するように造れば、対物アンチマテリアルライフルとして面白いかも、と石動が考えているモデルもあるが・・・・・・。


「(50BMG弾があれば対物ライフル用にも長距離狙撃用としても使えるしね。いずれ将来的にはM2重機関銃も視野に入ってくるのかな・・・・・・? いや、さすがにそれは過大戦力オーバーキルだろう)」


 石動は苦笑いしながら、頭を振ってその想いを打ち消した。


 いずれにせよ1000メートル級の長距離射撃となると、高性能なライフル用の光学式照準器スコープが必須となる。

 石動はレンズなどの研究をドワーフ達に宿題としてお願いしてきたが、そう簡単には開発できないだろう。

 ドワーフ達のレンズ開発進捗にあわせても問題ないし、50BMG弾の製作優先順位はもう少し後回しにしても大丈夫か、と石動は独り言ちる。


 まずは自動小銃オートマチックライフル造りからだな、と石動は心に決めて、頷いた。



 石動にはもし第二次世界大戦当時の自動小銃オートマチックライフルの中で、一番好きな銃を挙げろと言われたら、即座にこの銃!と断言するほど昔から惚れ込んでいる銃がある。


 その自動小銃オートマチックライフルに石動が興味を持つようになったのは、ある一冊の小説を読んでからだった。


 その小説とはスティーブン・ハンター著の「スナイパーの誇り」という小説だ。


 スティーブン・ハンターの小説は、元海兵隊スナイパー「ボブ・リー・スワガ-」が活躍する連作シリーズが特に有名で、「極大射程」などいくつもの作品が映画化やドラマ化されているほど人気がある。

 スナイパーという響きに誘われて何気なく書店で手に取り、読み始めたらやめられなくなった石動は、スティーブン・ハンター全ての作品を読み漁るほどのファンになった。


 その中でも「スナイパーの誇り」を読んだとき、小説の中の一節が妙に石動の心に引っ掛かったのだ。


 「スナイパーの誇り」という小説の中では、現代と第二次世界大戦中の1944年の出来事が絡み合い、重要なエピソードとして描かれる。

 石動にとって、とくに1944年のエピソードに登場するナチスドイツ軍降下猟兵部隊「緑の悪魔」たちのキャラクターが素晴らしく魅力的だった。

 同じドイツ軍でありながらSS武装親衛隊員たちの厭らしい描写とは反対に、非常に紳士的でかつカッコいい。

 石動が以前読んでハマった、ジャック・ヒギンズ著の「鷲は舞い降りた」の独軍キャラを思い起こされた。

 

 そんな彼ら降下猟兵部隊員たちが装備しているライフルがFG-42とStg-44だ。

 戦闘シーンの描写も圧巻だが、作中でFG-42とStg-44を比較している文章が石動には興味深かった。


 FG-42に対する描写は、作中で驚くほど褒めちぎられている。

曰く「特徴的な尾筒に対して60度の角度という奇妙なまでに深い角度を持つグリップ・・・・・・素晴らしくクール」「その設計は悪魔的なまでに巧妙」「”緑の悪魔”の隊員たちはこの銃を・・・・・・心底愛するようになっていた」などなど。


それまで石動はドイツ軍の銃器の中でStg-44という銃こそ、世界に先駆けて8ミリモーゼル弾を短くした7.92×33クルツ弾を採用した世界初の突撃銃として有名であり、最も先進的でかつ画期的な銃だと思っていた。

 終戦後にドイツ進駐したソ連軍が、Stg-44を造っていた工場や技術者を接収し、カラシニコフAK-47と7,62×39弾を開発するための原型としたのは有名な話だ。 


 そんなStg-44が作中では、「Stgを与えられた不運な兵士たちは、必ずFGと交換しようとするが、FGの持主たちは決してそれを手放そうとせず」「巨大な弾倉がついているせいで伏射が困難」「美と醜が入り交じった、不可解な構造」などと、評価はボロボロである。


 それで一気に、FG-42に対する石動の興味が湧いたのだ。


 もともとFG-42という銃の存在は知っていたが、どことなくMG42に似た変わった小銃というイメージだった。

 小説にも描かれているようにグリップのアングルも変わっていて、握りにくそうだ、という印象しかない。

 ところが調べてみると、これこそ空挺団のために開発された画期的な銃だったことが分かる。


 第二次世界大戦において、空挺部隊を実戦導入したのはドイツ空軍が最初だった。

 そして実戦を繰り返し経験するうちに、空挺部隊の運用について、いろいろと分かってくることがある。

 例えば空挺隊員に主要装備としてモーゼルKar98kを持たせて降下させると、長すぎて狭い飛行機内では扱いにくいうえ、降下した際に衝撃で銃床が割れるなどの事態が発生した。

 そこで銃身を短くしたり銃床を折り畳めるようにしたりするも、戦場では使い物にならならず、兵士たちの評判が悪かったのだ。

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