第195話 弔鐘遥かなり
石動は
そして代わりに前世界の狩猟時に使用していた
石動は鐘楼を登ってくる前にMk2破片手榴弾を使って、ドアを開けると安全ピンが抜かれ、安全レバーが弾け飛ぶようなブービートラップを仕掛けておいた。
追い立てられた
最後の狙撃で致命傷ではないが、被弾させて傷を負わせることが出来たので、尚更激高していることだろう。
この世界の人間は、まだ手榴弾というものの存在を知らない。
だから手榴弾が目の前に投げられてきても、何か礫のようなものが飛んできたくらいの認識で、恐れないし警戒すらしない。
それが爆発して人を殺傷する兵器であるなどという知識がないので、危険なものだと想像すらできないのだろう。
おそらく
石動がそんなことを考えていた時、階下で手榴弾が爆発する音と振動が響き、衝撃波と爆風が吹き抜けの穴を通じて鐘楼を登ってきた。
幾つか手榴弾の破片も混じっていたようで、鐘に当たってカンッとかチンッという音を立てる。
石動はPPSh41サブマシンガンのスリングを調節して銃を背中に回すと、グローブをはめた手で、鐘からぶら下がっている太いロープを掴む。
そしてヘリコプターなどから降下する
ファストロープとは、特別な器具などは使わず、両手と両足の力だけで身体を支えてバランスを取りながら降下する手法だ。
つまりグローブを填めた手の握力とロープを挟んだ足の力だけで、降下のスピードやバランスをコントロールする。
命綱など装着しないので、両手両足の「挟む力」がなくなると真っ逆さまに落下してしまう危険性もあり、手が擦りむけないよう丈夫なグローブと握力が必須となる。
ファストロープ降下により石動の全体重がロープにかかることで、鐘を鳴らす仕掛けが引っ張られたため、盛大にガランゴロンと鐘が鳴り響き始めた。
鐘の音が鳴り響く中で一階の床に降り立った石動は、素早くロープを放すと背中に回していたPPSh41サブマシンガンを構え、
それでも石動の姿を認めると、死力を振り絞って立ち上がり、右手に持ったSAAのハンマーを起こして持ち上げようとする。
石動はPPSh41サブマシンガンの引き金を引き、フルオート連射を
7.63x25mmマウザー弾が身体を貫くたびに、
そして、ゆっくりと座り込むように崩れ落ちた。
まだ銃口から硝煙が漂うPPSh41サブマシンガンの、空になったドラムマガジンを外し、マジックバッグから新たにフル装填したマガジンを取り出すと再装填する。
銃口をまだ
足で押された勢いのまま、後ろに倒れた
鳴り響いていた鐘の音が、ようやく鳴り終わろうとしていた。
石動は
「お前、死に際に鎮魂の鐘を鳴らしてもらえるなんて、贅沢なヤツだな・・・・・・」
兵士である石動が戦死する時、果たして鎮魂の鐘どころか、冥福を祈ってくれる者がいるかどうかも分からない。
好敵手だった此奴には、せめて私が冥福を祈ってやるか・・・・・・。
少しセンチメンタルな気分になった石動は、無言で心の中で手を合わせ、
ふと人の気配を感じて広場の先を見ると、ロサを先頭にマクシミリアンたちが騎馬のまま駆け寄ってくる姿があった。
石動はやっと狩人スキルや暗殺者スキルを解除し、ホッと息を吐く。
長い夜も、ようやく終わりが近そうだ。
後で聞いたロサの話では、まず最初にロサとヤコープス騎士が火事となったアジトに到着したらしい。
到着したころには既に三階建て建物全体に火が回っていて、建物の中には入れなかったため周辺を警戒していたところ、遅れてマクシミリアン率いる部隊が到着したとのことだ。
もうその頃には消火活動をするために近くの市民たちが駆けつけていて、現場も混乱していた。
そのため、マクシミリアンが連れてきた近衛騎士らが、その騒動を収拾する羽目になったようだ。
そんな中でもロサは周辺の探索を続け、あちこち走り回るうちに、しばらくして鐘楼からの発砲と曳光弾の光に気づく。
ヤコープス騎士をマクシミリアンへの連絡に残し、ロサが鐘楼に向かう途中で鐘が鳴り始め、それを聞いたマクシミリアンたちも駆けつけたそうだ。
帝国諜報部からの万が一の奪還に備えて、50人の近衛騎士が周りを固める。
その前に石動は
モーゼルⅭ96や予備弾薬はホルスターとベルトごと諜報部に奪われてしまったが、これだけでもとり戻せて良かった、と石動はホッとする。
帝国諜報部による石動誘拐と、第二皇子のための銃器開発という企ては失敗に終わった。
今までは諜報部が関与していたという具体的な証拠がなかったので、表立っての追及が難しかったが、
そんな暗部の人間が、マクシミリアン側の側近である石動を拉致監禁だけでなく殺人未遂までしようとした事実は大きい。
果たして第二皇子たちはこれからどのような動きを見せるのか。
それだけでなく、これからは帝国軍部の動きが最も重要になるだろう。
第一師団から第三師団まで、どの師団がどちらの皇子の味方をするのか。
そしてその取り巻きの帝国貴族たちの動きは?
そのような交渉はもう、とうの昔に水面下の駆引きとして始まっているのだろうが、ふたりの皇子にとって益々予断を許さない状況になったのは間違いないだろう。
でも、と石動は思う。
なんだかとても疲れた・・・・・・使い慣れないスキルを全開で使ったせいだろうか?
今までの人生でレンジャー徽章取得時のレンジャー養成訓練が、最も辛い経験だと思って生きてきた。
アレに比べれば特殊作戦群のセレクションも耐えられたし、大概のことは乗り越えられると思っていたが、今夜は同じくらい疲れているかも・・・・・・。
だから今夜は、いやもう夜が明けるから、今日だけはお願いだから少し休ませてくれないか。
少し休んだらまた頑張るから・・・・・・。
石動はロサが乗る馬の後ろに乗せられて皇城へと帰りながら、器用に居眠りを始める。馬上で落ちないよう、ロサの腰に手を廻したまま舟を漕ぎ始めた。
ロサはうしろの石動の様子に気づいたが、苦笑いしたまま何も言わず、極力揺らさないように優しく馬を進めていく。
その時、朝日が昇りはじめ、柔らかな光が帝都を照らした。
ロサや石動だけでなく、皇城へと進むマクシミリアンと近衛騎士達にも日の光は降りそそいだ。近衛騎士たちの銀色の甲冑が朝日を反射して輝く。
そのまぶしいような光景は、ロサにはまるで朝日が石動達のささやかな勝利を祝ってくれているかのように感じられたのだった。
ようやく長い夜は明け、また新しい一日が始まった。
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