第188話 切り札
「ねぇ、ラタちゃん。マジックバッグって、新しくもう一つ造ることって出来る?」
『もちろん出来るよ。ただし、今私は分体だから、マジックバッグの容量はある程度限られちゃうけどね』
「いや、今考えてるのは、逆に小さいヤツだな。どのくらいの容量のものができるのかを聞きてみたくてね」
『? ・・・・・・小さいヤツ?』
姿を見えなくしていたラタトスクが、石動の肩の上でポンッと栗鼠の姿を現した。
その小さな首は不思議そうに斜めに傾げられている。
石動はその姿を見て、ほっこりしながら説明を始めた。
「いざという時のバックアップというか、切り札的なものを造っておきたいんだよ。例えばパンツの中にマジックバッグを仕込んでおいて、その中に拳銃を忍ばせる的な?」
『・・・・・・ツトムって、ひとつのマジックバッグ付きのパンツを毎日履き続けるひとなの? さすがにいくつもマジックバッグを作るのはちょっと』
「うぐっ・・・・・・、ならパンツじゃなくても、ブーツや靴下とかから拳銃を取り出すのでもいいや」
『靴下なんて、パンツと同じで毎日同じものは履けないだろう? それにいざという時と言うなら、ブーツを脱いで寝ている時に襲われたら同様に使えないよ』
「ううむ・・・・・・」
結局、すったもんだした挙句、手首や足首にバンドのように巻いたらどうか、という案でまとまった。
大きさは留め金部分を除き、マジックバッグとして使えるのは幅5センチメートル、長さ10センチ前後くらいで考えることになった。
「こんな大きさだと、容量的にはどのくらい入りそう?」
『う~ん、入れ物の素材にもよるけどね。バンドの素材は何で造るつもりだい? 前にあげたマジックバッグは、私が秘蔵していた幻獣の革を加工した特別製だから容量多くできたけど、普通はあんなには入らないんだよ』
「へぇ~、普通の布とか革じゃ無理なんだ、知らなかったわ。そういえば前に倒した亜竜の素材が余ってるけど、あれじゃダメかな?」
『亜竜の革なら、そうだな~、サイズの4~5倍くらいは入れられるのができるかもね』
「それだと縦20~25センチ、横40~50センチくらいか・・・・・・。それだけあれば充分だな。ラタちゃん! お願いします!」
石動は、新たに造る小型マジックバッグの中には、最低でも拳銃と予備弾薬に小型ナイフが入ればいいと思っている。
余裕があれば、手榴弾のひとつも入れば文句ないところだ。
早速、亜竜の革の中でも鱗が小さめで柔らかい箇所を選ぶと、石動は錬金術スキルを発動させ、革を乾燥・鞣してから染色し、張り合わせる。
隠しポケットを造ったうえで、全体に光沢加工と防水加工を施すと、なんとかリストバンドのような形になってきた。
簡単に他人に外されたり盗られないように、留め金も内蔵式にして、どうやって外すのかを分からないように工夫した。
出来上がった隠しポケット付きリストバンドに、ラタトスクが空間魔法を掛けると、特製リストバンド型マジックバッグの出来上がりだ。
「ラタちゃん、容量はどれくらい入りそう?」
『思ったよりポケット部分が小さかったから、縦20センチ、横30センチ、高さ5センチの薄い箱くらいの容量が限界だったよ』
「そうか、張り合わせた部分が意外と場所取ったのかもしれないね・・・・・・。でも、それだけあれば充分だよ! ありがとう!」
『どういたしまして』
石動は早速、試しにリストバンド型マジックバッグにモーゼルⅭ96を入れてみる。
何とかギリギリ入るには入ったが、ほとんどモーゼルだけでほぼ一杯になり、あとは予備弾薬を束ねたクリップくらいしか入らない。
SAAは
もともと
まず、モーゼルⅭ96の銃身がオリジナルだと5.5インチ(約140ミリメートル)あるところを3.9インチ(約990ミリメートル)に切り詰める。
グリップも薄く小さめのものに変えて、
つまり、これは石動なりの「モーゼルⅭ96・ボロモデル」を再現してみたものになる。
モーゼルⅭ96・ボロモデルの由来は、ソビエト連邦の前身であるボリシェヴィキ主導の「
地下活動の際に便利な短銃身コンパクトタイプのC96ボロモデルが供与され、嵩張らないように極限までスリム化するために、弾倉部分を6連に減らしたモデルまであった。
石動も容量上必要なら6連弾倉にするのも已む無しと思っていたが、マジックバッグに10連弾倉のボロモデルでも予備弾薬クリップ一つとナイフが入ったので、減らさずそのままにしておいた。
ナイフもスパイダルコのデリカモデルをイメージして造ったもので、刃長8センチ弱、折り畳めば11センチ程になるコンパクトなものだ。
ブレードにはサムホールを設けることで片手でも刃を開けられるようにしてあり、刃の半分は波刃にしてあるので、ロープなどの切断に絶大な威力を発揮する。
しかも素材は亜竜の爪から削り出したものであり、切れ味は剃刀並みなのに強靭で折れ難く、しかも軽い。
今回、石動が急にリストバンド型マジックバッグを造ることを思い立ったのは、マクシミリアンと共謀して、ある計画を実行することになったからだ。
その計画とは、石動がひとりだけで城下町を散策して隙を見せ、帝国諜報部が襲ってきたところを捕まえよう、というものだ。
前回の宿屋の襲撃についても諜報部暗部の犯行という証拠が無いので、単なる火事とそれに乗じた賊の犯行、という形で有耶無耶になってしまった。
マクシミリアンや石動としては、反撃をしたくてもまさか皇城内の帝国諜報部オフィスを襲撃するわけにもいかないし、それならばと「おとり捜査」を計画してみたのだ。
第二皇子が石動の銃に対して興味を示したことは、マクシミリアンたちにも聞こえていた。そのうえ、宿屋襲撃も石動の銃の働きによって、撃退されたと言っていい状況だ。
さぞかし腸が煮えくり返っていることだろう。
そんな時に石動が隙を見せれば、帝国諜報部は果たして黙ってみているだろうか。
接触を図り、引き抜きでも持ちかけてくるだろうか?
それとも、直接石動を襲撃してくるだろうか?
襲ってきてくれれば、なんとか犯人を確保することで帝国諜報部徒の関与を証明したい。
マクシミリアンは石動の危険が大きすぎる、と難色を示したが、石動はやる価値があると考えていた。
襲撃があれば石動が発砲するなり手榴弾を使って大きな音を立て、それを確認したマクシミリアンが近衛騎士たちを連れて応援に駆け付けることにして、ようやく合意する。
マクシミリアンの公務中でも連絡取れるよう連絡係兼護衛として、石動を変装した騎士がふたりで遠くから見張ることになったのは、どうしてもマクシミリアンが譲らなかった条件だった。
皇帝たちとの家族での食事会やアルベルティナ嬢のお茶会なども、マクシミリアンの根回しによって実現したものであり、ロサには悪いが内緒でことを進めていた。
ロサが知れば、絶対についてくると言い張るだろうと予測できたからだ。
マクシミリアンには、ロサが暴走しないように抑える役もお願いしてあったが、大人しくしてくれれば良いが・・・・・・と石動は心配になる。
後でロサから仲間外れにしたことへの、キツイ叱責があるんだろうなと思うと、苦笑するしかない。
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