第177話 ダイナマイト
降りてきたヘンドリック騎士に確認してみる。
「別館への連絡通路はどの方向ですか?」
「階段ホールを左に折れて、廊下を進んだ先だ。廊下にも部下を配置しておいたはずなのだが・・・・・・」
「先程のボウガン男の事もありますし、他にも刺客がいる可能性が高いので、充分注意して進みましょう」
ヘンドリック騎士の言葉に頷いた石動は、まずひとりで先に階段ロビーを進むと、左の廊下へ通じる手前の壁で停まる。
階段を煙突のようにして登ってくる、火事の煙がかなり勢いを増してきた。
加えて火事の熱が肌に感じられるようになり、階下でバチバチと音をたてて燃える炎の赤い舌が、黒煙に見え隠れし始める。
「(これは急がないとマズいな・・・・・・)」
そう思いながら、石動はそっと廊下へ顔を出して連絡通路へ向かう廊下を窺った。
すでに廊下にも薄っすらと煙が立ち込めはじめていて視界が悪くなっている。
廊下の両側には客室が二部屋づつあり、その部屋の前を通り抜けると、その先が別館へと通じる通路になっているようだ。
ヘンドリック騎士が配置したという近衛騎士の姿は見当たらない。
石動は念話でラタトスクに話しかけてみる。
「(部屋の中に刺客が潜んでいると厄介だな。ラタちゃん、もしかしてどの部屋にいるか分かったりする?)」
『残念ながらこの煙と熱のせいか、はっきり分かりにくいね。人の気配は感じられるから、刺客が近くにいることは間違いないと思うけど・・・・・・』
「(そうか、ありがとう)」
石動は一瞬考えたが、ヘンドリック騎士らのところまで戻ると、マクシミリアンたちに言った。
「ヘンドリック騎士が配置したという近衛騎士の姿は見えませんでした。廊下の左右にある部屋のどれかに連れ込まれたのか、すでに連絡通路を渡ったのかは分かりません。
本当は廊下沿いの全ての部屋を慎重に調べ、刺客がいないことを確認するか、倒してから進むのが良いのでしょうが、火の勢いから判断してそんな時間が無いのは明らかです。
そこで、ちょっと乱暴な手を使おうかと思います」
「乱暴な手とは? 何をする気だ?」
「ダイナマイトを使おうと思います」
マクシミリアンが訝しげに尋ねてくる。
「だいなまいと? なんだそれは? ザミエル殿の事だから新しい銃なのか?」
「説明する時間が惜しいし、見ればわかりますよ。それにもうすぐこの宿は燃え落ちそうだから、少しばかり吹っ飛ばしても大勢に影響はないだろうから・・・・・・」
「いや、なにやら不審な
「危険かどうかといえば危険ですね。だから殿下たちは階段近くのロビーあたりで少し待っていてください。潜んでいるネズミを炙り出して来ますから」
説明が面倒になった石動は、ヘンドリック騎士とロサに、マクシミリアンたちを爆風から死角となる階段ロビー付近に集めて警護するよう頼む。
「ダイナマイトは大きな音や衝撃波を感じるでしょう。私が銃を発砲した音が聞こえたら合図だと思って、床に伏せて口を大きく開け、しっかりと耳を塞いでください。いいですね?」
石動は皆が頷いたのを確認してからその場を離れ、廊下の手前でマジックバッグからダイナマイトの金属筒を取り出した。
ダイナマイトも、最初はコルダイトなどの無煙火薬製作の過程で出来たニトログリセリンが余ったものを、珪藻土に染み込ませて蝋を染み込ませた紙に包んで、マジックバックの中に保管していただけだった。
しかし、液体であるニトログリセリンが珪藻土から滲み出してきて危険なため、今ではニトロセルロースや木粉などを混ぜ合わせてゲル状にした「ゼリグナイト」化させて保存している。
ゼリグナイトにしておけば、ゲル状なので分割するなどして火薬量を調節するのも容易だという利点もある。
石動はまず、薄い鋼板で造った金属の筒を、サイズを変えていくつか造ってみた。
そして紙薬莢弾と同じ要領で、黒色火薬の代わりにゼリグナイトを蝋に浸した紙に包むと、散弾と一緒に金属の筒に詰め込む。
それから封をして導火線を挿せば、ダイナマイトならぬ手製の鉄パイプ爆弾の完成だ。
いずれは導火線ではなく、発火方式もヒューズを使うことで、手りゅう弾に発展させたいと石動は考えている。
しかし鉄パイプ爆弾を造っては見たものの、さすがに離宮の中で実験するわけにもいかず、今日までマジックバッグの肥やしになっていたのだ。
降ってわいたような鉄パイプ爆弾をテストするチャンスに、石動はワクワクしていた。
「(特殊作戦群時代に使っていたのはC4とかのプラスチック爆弾だったしな・・・・・・。
ダイナマイトを作戦中に使うのは初めてだ。純粋なゼリグナイトだけのダイナマイトは、数あるダイナマイトの種類の中でも、最も爆発力が大きいと読んだ事がある。どれくらいの爆発力か確かめる意味でも、ゼリグナイトが一番少ない短い筒のヤツにしておくか)」
石動は取り出した一番短いタイプの鉄パイプ爆弾に挿してある導火線を切って、5秒ほどで爆発するように調節しておく。
準備が出来た石動は、まずは4つの部屋のうち、手前右側の部屋の前に立った。
そっとドアノブを廻すも、鍵が掛かっていて開かないことを確認する。
石動はウインチェスターM12を構えると、木製のドアに向けてマグナムバックショットを発砲し、ドアに大穴を開けた。
それから鉄パイプ爆弾の導火線に火を点けて、いち、に、と数えてから開いた穴に放り込んだ。
放り込むと同時に、死角となる階段ホールへ走りながら、大声で叫ぶ。
「
石動が飛び込むように階段ホールの床に伏せたのと同時に、鉄パイプ爆弾が爆発した。
大音響とともに爆発した鉄パイプ爆弾は、爆風で鍵が掛かっていた部屋のドアも吹き飛ばし、反対側の部屋のドアに突き刺さった。
部屋の中で爆発と同時に爆風と衝撃波、更に散弾用の鉄球を撒き散らした鉄パイプ爆弾は、隣接した右奥の部屋との境の壁もぶち抜いてしまう。
その結果、奥の部屋のドアも、鍵が爆風で壊されて開いてしまったほどの威力だった。
伏せている石動にも、爆風と衝撃波が叩きつけられ、爆発の余波で屋根から凄まじい量の木くずや埃が降り注いできた。
「やべぇ、思ってたより室内で使うには、ちょっと威力がデカすぎたかなぁ」
石動は肩や頭の上に降り積もってきた埃や木くずをパンパンと手で払いながら起きあがり、独り言を呟く。
石動は立ち上がると油断なくウィンチェスターM12を構えながら廊下を進み、爆破された部屋の中に入る。
部屋に入ってまず驚いたのが、窓があった辺りの壁がごっそり吹き飛んで、庭に散乱していたことだ。
天井からも天板などが垂れ下がり、一部屋根に穴が開いているようだ。
家具などはバラバラになって散乱し、壁材などと混じって瓦礫と化している。
ベットもマットレスだけが壁にもたれかかるように残っていた。
天井や壁には散弾の鉛球や鉄パイプの破片が開けた穴が無数にある。
「(こりゃ、この中で人間が生き残るのは無理だな・・・・・・)」
石動はこの部屋には生存者無しと判断し、壁に開いた大きな穴から隣の部屋へ移って探索することにした。
ウィンチェスターを構えたままくぐれるほど、爆発が開けた穴が大きくなかったので、スリングで銃を背中に回し、邪魔にならないようにしてから穴のふちに手をかける。
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