第165話 幕間「旅の途中~ワイバーン討伐~」4/6

 双眼鏡で岩棚の周辺を見回していた石動イスルギは、ある場所に目を留めて、冒険者に尋ねた。


「あの岩棚の少し上に、岩柱がいっぱい立っている所があるよね。あそこからなら岩棚の奥まで見通せるかな?」

「あそこからならよく見えますよ。ただ、岩棚まで100メートルくらいはあるので、以前の討伐時に黒いヤツはおろか他のワイバーンにも、矢を射かけても効果がありませんでした」

「なるほど。ありがとう」


 石動はしばしの間考えていたが、顔を上げて皆を見回して笑いかける。


「よし、ではワイバーンに見つからないようにあの岩柱のところまで移動しよう。そしてサッサと片づけてしまおうか」

「・・・・・・サッサと片づける?」


 フィリップ達が石動のセリフに首を傾げた。



 幸いにしてワイバーン達はぐっすり眠ってくれているようだ。

 風下から侵入したこともあり、石動達は何とか日の出前には岩柱が立ち並んでいる場所に辿り着く。


 そこは雨風の浸食のいたずらか、太さは様々な砂岩の柱が2~3メートルの高さで立ち並んでいて、柱と柱の間の隙間は人ひとりが通り抜けられる程度のものだった。

 

「(いつも試射に行っていた、クレアシス王国の郊外にも同じような場所があるな。ミルガルズ山脈の麓ではよく見る地形なのだろうか?)」


 石動は新しい銃を造るたびに試射で通っていたクレアシス王国郊外を思い出しながら、狙撃に最適な場所を探す。


 この場所に着くまでの道すがら、石動が皆と打ち合わせした作戦は単純だ。


 石動が岩柱の影からワイバーンを狙撃する。

 できるだけ即死させるように頭を撃つか、飛べないように翼を狙う予定だ。

 銃声で気がついて、狙撃する前に飛んできたワイバーンは、ロサが撃ち落とす。


 その後、飛び上がれずに地面にいるヤツは、フィリップ達が止めを刺すことにした。


 石動は、一番奥の黒いワイバーンを狙える場所を見つけると、様子を窺いながらマジックバッグからモーゼルKar98kを取り出す。

 次いで弾薬入れアモポーチも取り出した。


 そしてアモポーチから取り出した8ミリモーゼル弾を挿弾子クリップに差し込み、装弾数の5発づつ束ねておく。

モーゼルのボルトを引いて弾倉を開き、このクリップを差し込んで指で一気に押し込めば、一発づつ装填するよりも速く装填できる。


 石動は以前、キングサラマンダーとの闘いの時に鉛弾頭が通用しなかった苦い経験から、カプリュスの作業室で弾薬を造る際に通常の8ミリモーゼル弾だけではなく、特別な弾も造って用意しておいたのだ。


 特別な弾とは、特製ダムダム弾、徹甲弾アーマーピアシング曳光弾トレーサーの3種類の弾薬だ。


 特製ダムダム弾とは、弾頭の先端からドリルで穴を空け、その中に水銀を詰めて先端に鉛で蓋をした弾だ。

 弾頭が目標に当たった衝撃で弾頭の中から水銀が飛び出し、内臓をズタズタに切り裂く。そのうえ弾頭の形状も花が開いたような形に変形するので、対象に与えるダメージは通常の弾丸の何倍も大きい。

 ダムダム弾自体が非人道的な弾丸として前世界では禁止されている弾頭だが、この世界にはジュネーブ条約も無いし、魔物がいるので必要になるかもしれないと作っておいたのだ。

 弾頭の先を黒く塗って他と判別できるようにしてある。


 徹甲弾アーマーピアシングとは、弾頭の芯にタングステンのような堅い金属を入れることで、貫通力を高めた弾頭だ。カプリュス特製の「クロムモリブデン鋼:ニッケル・バナジウム」を芯に使ってある。

 試しに3ミリの鉄板を2センチ間隔で10枚並べたものを撃ってみたら、通常の8ミリモーゼル弾でも4枚抜けたが、徹甲弾だと10枚キレイに貫通したあげく何処かに飛んで行ってしまった。

 これならどんな堅い装甲を持つ怪物でも、簡単に貫通できるだろう。

 徹甲弾は弾頭の先を青く塗っておいた。


 曳光弾トレーサーは弾頭の後部に、白リンやマグネシウムを詰めることで、発光しながら飛ぶ弾だ。

 主な使用目的としては飛んでいく弾丸の軌道が視認できるので、弾着の修正が容易にできるというものだ。

 石動の場合は黄燐を多めに使用しているので、焼夷弾的な目的もある。

 これは弾頭の先を赤く塗ってあった。

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