第164話 幕間「旅の途中~ワイバーン討伐~」3/6

 困ったように石動イスルギはロサと顔を見合わせる。


「ちなみにですが、そのワイバーンの群れとは、何匹いるか分かりますか?」

「冒険者たちの報告では、6匹だということでした。今日、一匹倒されたので、あと5匹だと思われます」

「大きさは同じでしょうか?」

「ええ、やや小さいのがいたので群れというよりファミリーなのかもしれないとのことでした。あと、一匹だけですが、黒くてデカいのがいたそうです。群れのリーダーのようだと聞きました」


 石動はフィリップ達の方をみて、尋ねてみる。


「どう思う?」


 フィリップが唸るように言った。


「マズいですね・・・・・・。ワイバーンはつがいを殺されると復讐にくるほど執念深いと言います。ましてや家族が殺されたとなると、怒り狂ってこの街を襲うかもしれません」


 それを聞いたマーカスは蒼白になって頭を下げた。


「そんな・・・・・・ザミエル殿! そのままではこの街は全滅するやもしれません! 助けると思ってどうかお願いします・・・・・・このとおりです」


 石動はフィリップを見て、ニヤリと笑いながら尋ねてみる。


「到着が1日くらい遅れても、心の広いマクシミリアン皇子は怒ったりしないよね」

「・・・・・・致し方無いかと。帝国への通商ルートが閉鎖されているというのは由々しき事態。我々もお手伝いしましょう」

「心強いね」


 石動はロサと頷き合うと、マーカスに向かって言った。

「わかりました。引き受けましょう」



 石動たちは翌朝、まだ夜が明けていないうちに宿を出て、ワイバーンの巣に向かう。


 案内はマーカスが付けてくれた冒険者だ。

 前回、ワイバーンへの討伐作戦にも参加していたベテランらしい。


 冒険者の説明では、ワイバーンが巣をつくっているのはV字ブイジ形の谷あいに街道が通る場所で、その谷の途中にある岩棚とのことだ。


 谷の上からでは庇のようにせり出した大きな岩の下に巣があるため、攻撃できない。

 下から攻撃しようとすると巣から丸見えなので、接近するとワイバーンが気付いて飛び立ってしまい、空から逆襲されるため被害が大きかったそうだ。


 とりあえず反対側の谷の上から、ワイバーンの巣がある斜面を偵察してみることにした。

 

 石動はマジックバッグから、前世界で狩猟に使っていたツァイスの双眼鏡を取り出すと、斜面の途中にある岩棚を観察する。

 

 双眼鏡で見ると、鳥の巣のように木の枝や草などが敷き詰められたものがいくつか見える。

 数えてみると4つあった。


 それらは全て庇のように伸びた巨石の下に出来た、岩棚の奥に造られている。


 一つの巣には母子だろうか、大きさの異なる2匹のワイバーンが身を寄せ合って寝ていた。

 他の巣にも番いつがいなのか、同じ大きさのワイバーンが寝ている。

 一つある空の巣は、昨日、石動達が倒したワイバーンのものかもしれない。

 そして一番奥にある、一際大きな巣を見た時、石動は僅かに眼を見開いた。


 そこには漆黒の大きなワイバーンが一匹で寝ていた。


 他のワイバーンの体色はグレーに茶色が混じったような、トカゲっぽい感じだが、この個体は身体も一回り以上大きいうえに真っ黒だ。

 そのうえ頭には、他のワイバーンにはない角が2本、生えている。


 石動は無言でロサに双眼鏡を渡し、奥を指さす。

 ロサも漆黒のワイバーンを見て唸った。


「あれはマズそうね」

「なんだか、キングサラマンダーの時を思い出すよ」

 

 小声で囁き合い、認識を共有する。

 それから、フィリップにもそう渡すと、奥の個体を見るように指示した。


 フィリップはまず双眼鏡の性能自体に驚き、すぐ目の前にワイバーンが見えることに慌てたが、石動の説明を聞いてようやく落ち着いた。


 そして漆黒のワイバーンをみて驚きの声を洩らす。


「ザミエル殿、あれは間違いなく上位個体です。ひょっとしたら亜竜にまで進化しているかもしれません。ワイバーンの知能はさほど高くありませんが、亜竜は狡賢いので騎士団総出で討伐するような対象ですよ。それもかなりの被害を覚悟して、です。

 こんな人数で何とかなるような代物ではないです。本国に応援を頼みましょう」

「何言ってんの。そんなことしてる間にワイバーンが報復に出て、あの街を襲うかもしれないだろ? それにここはまだ帝国ではない。国境で紛争を起こす気かい?」


 興奮しながらも小声で訴えるフィリップに対し、石動は冷静に言葉を返す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る