第162話 幕間「旅の途中~ワイバーン討伐~」1/6

 クレアシス王国からエルドラガス帝国に向かう道中には、大陸の背骨とも言うべきミルガルズ山脈が、高い壁となって立ちふさがっている。


 街道は、そんな山脈の比較的低い谷あいを抜けるように走っているが、それでも標高は2000メートルを超えていた。


 道幅も細く、馬車が擦れ違うのもギリギリという場所が多く、中には谷側はもちろんガードレールも無いので、見下ろせば切り立った断崖絶壁というところまであってスリル満点だ。


 すこし麓の方に下がると緑の木々や平原が広がっていて、石造りの村が点在し、牧歌的な雰囲気を奏でている。


「(なんだか昔、テレビで見たキルギスとかタジキスタンとかの風景にも似ているな・・・・・・)」


 石動イスルギは馬車に乗っていてもすることがなく、風景を眺めながらボーッとしていた。


 ミルガルズ山脈を越える道程もようやく終盤を迎えていて、今晩国境の街に泊ったのち一山超えればエルドラガス帝国に入ることになると聞いた。

 そこからは平坦な道が多いので、2日もあれば帝都に着くだろうという話だ。


 まだ先は長そうだ・・・・・・。

 そう思うと、石動はため息が出そうだった。



 しばらくして、やっと国境の街に着き、宿屋前の広場で馬車を降りる。

 そこは中心に尖塔がある円形の広場で、いくつか枝分かれした街道からのランナバウトの役目もするようなので賑やかだ。

 あちこちから馬車が来ては走り去っていくのを横目に、石動とロサは広場に面した宿屋の前に立っていた。

 広場の周りにはさまざまな商店が立ち並んでいるので、人の往来も多い。

 

 そんな街の雑踏は、しばらくの間、あまり人気のない街道を走っていた石動達にとって、なんとなくホッとする光景だった。


 護衛騎士のリーダーであるフィリップは宿の中に入り、宿泊の手続きをしている。

 あとのヤコープスとサンデルは騎馬や馬車を厩の方に回しに行った。

 宿はクレアシス王国に来る往路の途中で、あらかじめ予約しておいたらしい。

 護衛騎士たち、流石、なかなか仕事ができる、と石動は内心感じいっていた。


 ふとロサが空を見上げると、石動の袖を引っ張ると言った。


「ねぇ、ツトム。あの鳥、デカくない?」

「え? どれ?」


 ロサが指さす方を見ると、街の背後に聳える山々の頂上付近を悠然と飛んでいる鳥のような生き物に気がついた。

 かなり高いところを飛んでいるにもかかわらず、点ではなく翼を広げたシルエットが確認できている。

 もっと低い位置で飛んでいる鳶のような鳥に比べても、相当大きいだろうと簡単に推測できるほどだ。


 そのシルエットはみるみるうちに大きくなって、必死に逃げていた鳶を襲って嘴で捕らえた。

 鳶の羽毛が空中で飛び散るのが見えた。


 ククっと頭をあげて飲みこむような仕草をした生き物を見ていた石動は、空中で態勢を変えたそれと目が合ったような気がした。

 するとその生き物は向きを変えて、街の広場を目指して急降下してくるではないか。


「ヤバイ! みんな逃げて!! 建物の中に入るんだ!」

「早く! 急いでこっちへ!」


 石動とロサは、広場の流れに割って入り、避難するよう大声をあげて誘導する。

 そうしながらマジックバッグからM12トレンチガンを取り出し、フォアアームをスライドさせて薬室に九粒弾ダブルオーバックを送り込む。

 ロサも隣で肩からマリーンM1895を下ろし、レバーを操作して45-70弾を薬室に装填した。


 その頃には広場の人たちも空から襲ってこようとしている異形に気付き、悲鳴を上げて逃げ惑っていた。


 広場の真ん中で迫りくる脅威に向かい、空に向かって吠え続けていた勇敢な大型犬が、飛来してきた巨大な生き物によって両足の鉤爪に捕まれてさらわれる。


 犬を掴んだまま上空へと舞い上がった生き物は、器用に片足で掴んだ犬の頭を食いちぎり、飲みこんだ。ボタボタッと犬の血が雨のように広場の石畳に降り注ぐ。


 

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