第157話 決意

 従者の一人が、エドワルドの後ろで、必死に話し合う内容を記録していた。

 エドワルドは安請け合いしているが、実際に手続するのはこの人たちがやらされるんだろうな、と石動イスルギは自衛隊時代に上司に振り回された経験を思い出し、同情してしまう。


「確認だが、私に護衛を依頼するということは、銃を使っていいのだと解釈しても良いか? 王城内で発砲しても問題にはならないんだろうな」

「大丈夫だ。私を護衛するためなら、問題にはならないさ。ただ、その着剣した槍のような銃を、始終所持して城内を歩くのは難しいかもしれんな。近衛騎士を除いて、城内は吾輩でも腰につるす短剣しか持ち込みは許されてはおらんのだ。大剣や槍は、決まりで持ち込めないぞ」


 エドワルドが申し訳なさそうに言うが、石動は頷いて言葉を続ける。


「やはりそうか・・・・・・。それでは短剣程度の大きさのもので対策を考えなければな。では長物をマジックバックの中に入れておくのは大丈夫か?」

「それも微妙だな。吾輩の方で確認しておこう」

「わかった。じゃあ、ここでの仕事の引継ぎと、帝国に行く準備に一か月ほど欲しい。それまで殺されずに頑張っていてくれ」

「う~む、せめて半月に負からんか?」

「・・・・・・では、三週間くれ。超特急で準備しよう」

「わかった。それまでにこちらも準備を整えておく」


 エドワルドは石動の言葉を聞いて、安心したように頷いた。

 ふたりは立ち上がると、固く握手を交わす。


「これからはエドワルドではなく、マクシミリアン殿下と呼んだ方がいいのかな?」

「よしてくれ。帝国内では殿下で構わんが、二人の時は堅苦しいのは無しだ」


 エドワルド、改めマクシミリアンはニヤリと笑って、器用にウィンクしてみせる。



 それからが大変だった。

 

 各方面に挨拶に行き、しばらくエルドラガス帝国に行く事になったと伝えると、皆に例外なく驚かれた。

 石動は、よんどころない事情で断れないのだと伝え、引き止めようとする皆を説得しなければならなかったほどだ。

 仕事の引継ぎは有能なノークトゥアム商会が引き受けてくれたので、なんとかなりそうだ。

 銃の生産もカプリュスの主導で、ようやくいろいろなドワーフ工房での分業が始まり、軌道に乗ってきていた。

 

 石動はそういった仕事の合間に、新しい銃の準備を急ピッチで進めている。


 それは帝国で使用するために必要な、新たな拳銃の製作だ。


 近接戦闘ならM12トレンチガンがあれば問題ないが、持ち込めない決まりがあるなら、城内で振り回すのは難しそうだ。

 となると、暗殺者に対抗するには、腰に下げる大きさの拳銃が必要になる。


 現在の二発しか装填できない大型デリンジャーでは力不足なのは明らかだ。

 本当はイングラムM11やUZIウズィーなどの短機関銃が欲しいところだが、マガジンの製作と調整が期限までに間に合いそうになかった。


 短機関銃自体の構造は単純なので、簡単に造れそうに思えるが、問題は箱型弾倉マガジンだ。


 オートマチック拳銃やライフルなどで装弾不良ジャムになる原因のほとんどが、マガジンの不良によるものだと言っていい。弾丸を装填する角度やそれを保持するスプリングの強さなどがいい加減だと、たちまち装弾不良を起こし、使い物にならなくなる。


 また銃本体の薬室チャンバー内へマガジンから送り込む際の傾斜フィーディングランプとの相性も大切で、ここに差異があると上手く弾丸が装填されずに装弾不良になってしまう。


 要人警護の仕事中に装弾不良を起こされる可能性があるものは使えない。


 今回は開発した後に調整する時間がないので、将来への課題として已む無く諦めたのだ。

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