第156話 囁き
いつの間にか、
頭の中の冷静な部分が、私はいつ寝たんだ?と疑問に思うが、答えは出ない。
夢の中で燎原の火の如く囁きが頭の中の全てを占めていき、それと同時に目の前に炎が燃え広がって、辺り一面に紅蓮の炎が渦巻き始めた。
その炎の中で、数限りない人々が銃を撃ち合い、殺し合っている。
子供は泣き叫び、婦女子は逃げ惑う。
今や、囁きは頭の中でこれ以上ない大音量で響き渡っていた。
戦争こそ何よりの兵器の実験場。銃器が一番活躍し、発展する場所ではないか。
お前が銃器をコントロールすることで、戦場を支配することは簡単だろう。
まだ試していないアレもコレも試せるなら万々歳ではないか!
お前は魔弾の射手の悪魔、ザミエルなのだから!!
・・・・・・いや、私はそんなことを望んではいない! そんなことまでしなくていいんだ。ただ、銃を造って楽しく暮らしたいだけなのに・・・・・・
石動は夢にうなされ、呻き、ひどく汗をかいている。
ラタトスクは、そんな石動の様子をじっと、暗闇の中で見つめていた。
翌日、エドワルドが訪ねてきたときには、石動の腹は決まっていた。
「ザミエル殿、急かして申し訳ないが、吾輩も翌日には帰国の途に就かねばならない。良ければ返事を聞かせてくれないか」
「エドワルド・・・・・・いや、マクシミリアン皇子。私はあなたに命を助けて頂いた借りがある。だから、その借りを返すべき時が来たのだろうと思っている。帝国に行くことにするよ」
「おおっ、ありがたい! では銃の導入も承知してもらえるのだろうか!」
「帝国に行くのは承知するが、それはまた別問題だ。というか、助けるって簡単に言うけど、具体的に何をさせるつもりなんだ?」
「帝国にいる間、ずっと吾輩の傍にいてくれれば良い」
「普段は帝国の皇城にいるのだろう? 私のように身分も無い者が王城内をウロウロしても大丈夫なのか?」
石動の疑問に、エドワルドは自信たっぷりに頷いて笑う。
「それはもちろん大丈夫だとも。私と一緒なら皇帝の部屋にだって入れるさ。ひとりでも城内を動けるように、通行許可証も発行させるしね。
できることなら、銃のデモンストレーションをしてくれるとその発明者という肩書で連れ回せるから、動きやすくなるとは思うのだが・・・・・・」
「そのことだけど、銃のデモンストレーションはあくまでドワーフ達が造ったライフルであればやっても構わないと思ってる。ただし、帝国に銃を売るかどうかは、私がそちらに行って国の内情を見極めないと答えられないな。
理由はそれだけじゃなくて、クレアシス王国の王家やエルフの郷に、販売窓口であるノークトゥアム商会も絡んでくるから、相談せずに単独では決められないんだ。そのことは了解しておいてほしい」
「わかった。父上にも吾輩からそう伝えておく。とりあえず実施することが重要なのだから、かまわないだろう」
エドワルドは笑顔になって、安心したように言った。
「そうなると、私が帝国で滞在する部屋もしくは家に鍛冶場と錬金術作業ができる設備を整えることはできるか? どうしても銃のメンテナンスや準備のために必要になるが」
「それは吾輩が帝国に戻ってから手配しよう。ほかに必要なものがあれば言っておいてくれ」
「ああ、今回はロサも同行するので、滞在場所にはそのための配慮が欲しいかな。あとは、護衛もデモンストレーションも、全くの無報酬というわけにはいかないだろう。報酬については別途相談だ」
「いや、吾輩としても全く問題ないな。無論、報酬も用意してある。ロサ殿も来られるなら大歓迎だ。我が国にはダークエルフも結構暮らしているぞ。家の設備やロサ殿の王城内での通行許可なども、吾輩が戻ってから手配するとしよう」
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