第155話 関係

「エドワルドが、直接借りを返せと言わなかったのは、私に対する配慮というか仁義の問題だと思う。私が断ったら言い出すかもしれないな」

「友人が困っているなら、私は何を置いても駆けつけて助けてあげたいと思うし、実際にそうすると思う。ツトムはどうしたいの? エドワルドに協力して銃も提供するつもり?」

「今は銃の提供は考えていないかな。帝国も王国も大して変わらないだろうし、信用できないからね。

ただ、帝国に行くのはちょっと迷ってる。・・・・・・ロサはもし、私がエドワルドについて帝国に行くと言ったらどうする?」

 

 石動イスルギの問いに、ロサはいきなり椅子から立ち上がると、石動のところまでズンズンとテーブルを回ってきた。

 そしてズンッと、石動の膝の上に座ると正面から顔を覗き込んだ。


「なんでそんなことを聞くの! 一緒に行くに決まってるじゃない! 前にも言ったでしょう、私はあなたの心の支えになるんだって! 支えるのに傍にいなくてどうやってやるって言うのよ!」

「ゴメン・・・・・・、ありがとう」


 石動は両手を、プリプリと腹を立てているロサの両頬に伸ばす。

 目の前のロサの顔が更に近づいた。


 ふたりはしばらく見つめ合った後、自然と唇が重なっていった。



 

 ブルッと寒気がしてベッドで目が覚めると、石動の毛布まで隣に寝たロサが奪ってしまっていた。

 それで肌寒くて目が覚めたのだと気付く。

 ロサも毛布にくるまっていたが、裸でむき出しの肩が寒そうだ。

 石動は毛布を引き上げてロサの肩までかけてやる。


 再び仰向けにベットに横になった石動は、天井を見上げながら感慨にふけってしまう。


「(ついにこういう関係になっちゃったかぁ・・・・・・結構我慢してたんだけどなぁ。後悔はないけど、アクィラさんに殺されるかな。いや、アレをもがれるんだっけ)」

 苦笑いしながら、今度はラタトスクに念話で話し掛けてみた。


「(ねぇ、ラタちゃん。本当は前から、エドワルドがマクシミリアン皇子だって気付いていたんじゃない?)」

『うん、そうじゃないかと思っていたよ。前にも言ったけど「レーウェンフック家」というのは帝国に存在しないからね。年恰好や言動から可能性は高いとは思っていたかな』

「(ええ~っ、なんで教えてくれなかったのさ)」

『そりゃ確証の無いことは言わないでしょ。聞かれたら答えたかもしれないけど、聞かれなかったしね』

「(そっかー。ではエドワルドが言っていたことは本当なの?)」

『おそらく間違いないだろうね。第一皇子の暗殺と皇帝の体調悪化、第二皇子の暗躍は情報として特殊能力アカシックレコードで私も掴んでいるよ。マクシミリアン皇子が殺される可能性も充分あるだろうね』

「(じゃあ、第二皇子が帝国を継いだら、侵略戦争がはじまると言うのも本当なのかな)」

『可能性は高いと思うよ。第二皇子は帝国の情報機関や暗部を掌握している。その情報機関の長が入れ知恵して大陸制覇をそそのかしているとも聞くからね。今は軍部を皇帝が掌握しているから動きが取れないだろうけど、もし崩御するようなことになれば・・・・・・』

「(皇帝って、そんなに危ない状態なんだ)」

『第二皇子の息がかかった者に毒を盛られているという噂もあるよ。全くの出鱈目とも思えないけど』

「(そうか・・・・・・。そんなに切羽詰まっていたんだ・・・・・・)」


 ラタトスクの話を聞いた石動の頭の中では、二つの思いが入り混じっていた。


 一つは何とかして第二皇子の陰謀を阻止して、エドワルドを助けてやろう、という思い。

 もう一つは反対に、第二皇子が戦争をおこすなら銃の普及には大チャンスではないか、という囁き。


 その囁きがだんだん大きく、頭の中で響き始める。


 、と頭の中で何かが囁く。


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