第153話 エドワルドの告白

 忙しく働き、宿に帰って泥のように眠る。

 そんな生活を続け、モーゼルライフルの完成も見えてきたころ、珍客が宿に現れた。


 エドワルドがやってきたのだ。

 

 

「エドワルド! なんだか久しぶりだね! 元気そうだけど・・・・・・どうしたの今日は?」

「ハハハ、突然に申し訳ない。吾輩は用事があって、一度、国に帰っていたのだがな」


 戻ってきたエドワルドは、いつもの傭兵ルックではなく、地味めだが上品な格好をしている。


 その上、従者兼護衛をふたりも連れていて、まるでどこぞの貴族が訪ねてきたようで、石動イスルギとロサは戸惑ってしまったのだ。


 石動たちの部屋で一緒に夕食をとることになり、とりあえず皆で部屋へ上がることにした。


 宿に食事の手配をしてから、ソファーに座り、お茶を入れることになった。

 エドワルドの従者の一人が紅茶を入れるのを志願し、石動たちは座って待つことにする。


 なんだか落ち着かない。

 石動とロサは同じ思いで顔を見合わせる。


 そんな様子のふたりを見て、エドワルドが切り出した。


「・・・・・・実は今回、ザミエル殿に折り入ってお願いがあり、訪ねてきたのだ」

「お願い?」

「うむ、お願いというか吾輩からの依頼と言うかな。しかしその前に、まずは隠していたことがあってな、謝らせて欲しい」


 エドワルドは石動とロサに頭を下げながら、告白した。


「実は吾輩の名前はエドワルド・レーウェンフックではない。本当の名前はマクシミリアン・フォン・アールスブルグという。エルドラガス帝国皇帝フルベルト・フォン・エルドラガス13世の三男なのだ」

「は?」

「えーと、つまり第三皇子ってこと? 帝国の?」

「うむ。そういうことになるな」

「「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」


 石動とロサは思わず驚いて声をあげてしまった。

 エドワルドの言動を怪しく思うことは度々あったが、まさか帝国の皇子だとは思ってもみなかったのだ。

 

「ええ?!  だって、ひとりで旅していたし、出会った時は従者の人なんかもいなかったし。ジャングル行った時なんかも、皇子があんな危ないことする?」

「ハハハッ、あのジャングルは面白かったな! 吾輩は第三皇子などと言われていても、全く周囲から期待されていなかったのでな。皆も上の兄ふたりのうち、どちらかが父の後を継ぐのだと思われていたから、吾輩は好きなように自由に動けたのだ。

 各国をいろいろと見て回って面白かったぞ。とくにザミエル殿と同行するようになってからは退屈しなかったわ」


 ロサの言葉にエドワルド(?)が笑いながら答える。


「う~ん、僕らは膝まづいて無礼を詫びるべきなのだろうか? それとも土下座かな?」

「いやいや、それだけはやめて欲しい。公的な場ではともかく、今まで通り接してくれると助かる。

 なんなら国に帰るまでは呼び名も『エドワルド』で構わんぞ」

「いいのか? それはこちらも助かるけど・・・・・・。また国に帰らないといけないんだ?」

「うむ、そこでじつは、お願いがあるのだ」


 エドワルドは居住まいを正し、真剣な表情で石動を見据えて言った。

「ザミエル殿、どうか吾輩と一緒にエルドラガス帝国に来て欲しい。そして吾輩を助けてもらえないだろうか?」

「助けてほしいって・・・・・・どういうこと? たとえば皇子の護衛とかなら、近衛騎士とか専門の人が帝国にもいるんじゃないのか。今、一緒にいる従者の人たちも相当手練れなのは私でも感じられるよ。こんな素性もわからないような男に頼む必要があるとは思えないんだけど」

「うむ・・・・・・これから言うことは絶対に他言無用で頼む」


 エドワルドは石動とロサの眼をみて頷いた。ふたりも頷く。


「じつは先日、我が兄である第一皇子が亡くなった。表向きは落馬による事故死となっているが、事実は違う。何者かに暗殺された恐れがあるのだ」

「・・・・・・」

「兄は健康そのものでな、文武両道、公明正大なうえに性格も明るい。だれもが第一王子は次の皇帝の器であり、あとを継ぐと信じて疑わなかった。兄が継ぐなら、帝国も安泰であろうとな。

 それなのに、その兄の突然の死だ。皇帝であるわが父も心痛のあまり、寝込んでしまった程だ」

「死因の落馬って、間違いないのか?」

「うむ、そこがよくわからんのだ。兄が落馬したところを誰もはっきりとは見ておらぬ。馬に乗って狩りをしていた時、気がついたら兄が落馬していて、周りの者が駆け寄った時にはもう息絶えていたそうだ。

 兄はウィンドベルク王国との戦役にも何度も騎馬で参加しているし、乗馬は達者だった。いろいろと不審な点が多いのだ」

「・・・・・・。その言い方だと、誰が犯人だか分かっているようだね」

「・・・・・・証拠はない。証拠は無いが・・・・・・我が兄である第二皇子による差し金ではないかと思っている」

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