第152話 8ミリモーゼル弾

 では、なにを造るのか?


 やはりボルトアクションライフルの元祖である、モーゼルライフルと8ミリモーゼル弾にしようと石動イスルギは決めた。


 いきなりレミントンカスタムのような最新型の高精度な銃を造ろうとしても、石動自身の鍛冶レベルだけではなく、鋼材などの材質が不十分なので現状では不可能だと感じている。


 その結果、石動が現状で造ることができる最新鋭の銃が、1900年代のボルトアクションライフルということになるのだ。


 そして数あるボルトアクションライフルの中から、石動が白羽の矢を立てたのはモーゼルKar98kライフルというわけだ。


 1898年にドイツ帝国の制式ライフルとなったGew98ライフルを発展させたこのライフルは、第二次世界大戦のナチスドイツの主力小銃として有名だ。


 Gew98ライフルで採用されたM98ボルトアクション機構は、最も堅牢かつ安全で考え抜かれた設計と評され、これよりのちに開発されたボルトアクションライフルに多大な影響を与えた名作だ。

 シンプルな造りなのでチューンアップもしやすいという面もある。


 そして使用弾薬である8ミリモーゼル弾。


 正式には7.92x57mmモーゼル弾で、1905年にドイツ軍制式となってからは第一次・第二次世界大戦を通じて使用され、現在でもハンティングなどで根強い人気がある弾薬だ。

 性能としてはアメリカ軍が第二次世界大戦で使用した30-06スプリングフィールド弾と同程度だが、弾道の低伸性に優れ射程距離が長い特徴がある。


 石動はナチスは嫌いだが、ガンマニアとして、この時代のドイツ製火器の大ファンでもある。


 ルガーP08や、ルパン三世の愛銃ワルサーP38など、ガンマニアではなくても知っているような銘銃が、この時代のドイツ製火器にはゴロゴロしている。

 石動にはアメリカの実用本位の銃とは違った、クラフトマンシップが感じられる精緻な銃というイメージがあった。 

 将来、石動が自動オートマチックライフルが造れるような鍛冶レベルになれば、是非とも造りたい憧れのライフルがこの時代に存在している。


 そしてそのライフルが使用する弾薬は8ミリモーゼル弾だ。


 憧れの実現への第一歩として、8ミリモーゼル弾を使用するモーゼルのボルトアクションライフルを先に造っておこうと思った、と言っても過言ではない。


 これからも目標に向かって、鍛冶スキルと錬金術スキルをあげて精進しようと心に誓う石動だった。


 一か月後、クレアシス王国とのシャープスライフル量産計画に関しての契約は、オルキスの尽力によって、無事完了した。


 旋盤のロイヤルティ代金も含めて、契約金などはノークトゥアム商会がすべて管理してくれるので安心だ。

 今後は石動も必要なら各国にある商業ギルドにて、自身名義の口座からお金を引き出すことができるように手続してくれた。


 既に石動の口座には、かなりの金額が入金されているよ、とオルキスが言いウィンクする。

 もちろん、ノークトゥアム商会の利益も膨大なものになるらしく、ノークトゥアム会長からじきじきで感謝の手紙が石動に届いたほどだ。

 オルキスも、おかげさまで、更に出世できそうだと笑っていた。


 エルフの郷での、師匠を中心とした雷管と50-90紙薬莢弾の生産も順調のようだ。

 早速、オルキスから雷管と銃弾が届いたと連絡してきた。

 第一陣で届いたのは、その数1,000発。

 

 石動も黒色火薬用シャープスライフルにキャップ式雷管を填め、紙薬莢弾を装填して試射してみたが、作動・威力とも申し分ない。


 さすがは師匠、と言うほかないだろう。


 そんなこんなで、所用にモーゼルライフルと弾薬の試作にと、石動は忙しい。

 だが、忙しい合間を縫って郊外に試射しにいくのも定番の行動となっていた。


 既にロサにも専用のマリーンM1895をもう一丁造って渡してあり、石動が試射に行くたびに同行しては結構な弾数を撃ち込んでいるので、すっかり手足のように扱えるようになっている。


 ロサは片手でマリーンM1895を撃つと、スピンコックして、さらに片手で撃ち続ける芸当もこなしていた。それでいて、きちんと的を外さないのが凄い。

 ターミネーター2のシュワちゃんも顔負けだ(映画で使われたのはウィンチェスターM1887散弾銃だけど)。

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