第151話 MOA

 そんな日々の中、石動イスルギがふと思い出すのは、前に「なぜ、銃を普及させてはいけないんだ?」と考えた時のことだ。

 あの時も「銃を旧式のままでコントロールすればいい」と考えたんだっけ・・・・・・。


 結局はあの悪魔の囁きの通りになってしまったな。


 石動は自分が本当に「魔弾の射手の悪魔ザミエル」になった気がした。

 ただ、不思議と石動に後悔の念は無かった。



 忙しい合間を縫って、石動は少しづつ無煙火薬のアップデートを続けている。


 最初に作った緩燃剤であるジニトロトルエンを配合したコルダイト無煙火薬は、シャープスライフルには相性が良かった。


 そこで試しにと、次に前世界から持ち込んだ愛銃のレミントンM700カスタムに使用する308ウインチェスター弾を造ってみたのだ。

 なにぶん、空薬莢も実弾もあるので、弾頭や薬莢を造るのは簡単である。

 新たに錬金術で造った薬莢に新開発の雷管と無煙火薬を入れ、弾頭で蓋をして締めると、ハンドロードの308ウインチェスター弾の完成だ。


 何とか時間を作っていつもの郊外に出かけると、早速レミントンで試射してみた。

 ロサが双眼鏡を持ち、看的を務めてくれている。


 石動のレミントンM700カスタムは、銃身・引き金・ボルトなど全てカスタムして磨き上げているので、相性の良い弾薬を使えばその精度はサブMOAを叩き出す。


 MOAミニッツオブアングルとは、ライフルの精度を数値で表す際に使われる単位のことだ。


 1MOAは100ヤード(91.44m)先のターゲットに1インチ(2.54cm)内で集弾できる精度を持つ、という意味である。

 つまり、理論上は1,000ヤード(914.4m)なら10インチ(25.4cm)に集弾できるという計算になる。もちろんこれは風や湿度など、細かい外的要因を全く無視した数値だが。


 石動のレミントンカスタムのサブMOAの精度とは、1MOAの半分である100ヤードで0.5インチ(1.27cm)内に集弾できる精度までカスタムしてあるということだ。

 今回ハンドロードした弾丸で、どれだけの精度を出せるか、石動はワクワクしながらレミントンを構える。


 いつものようにまず、100メートルに貼った標的から狙ってみる。


 ドゥーーンッ


 よしよし、発砲音は同じようだな、と思いながら続けて三発撃った。


 双眼鏡を覗いていたロサからも指摘を受け、少しずれていたスコープの照準を修正して更に三発撃つ。


 そしてロサと共に標的の場所まで歩き、弾痕を見た石動はがっかりした。

 それぞれ三発づつ撃った弾痕が、幅5~7センチ以上で集弾していたからだ。

 5センチ≒2MOAの精度では、軍用小銃としては合格点でも、狙撃銃としては落第点である。


「これじゃ役に立たないな。もっと精度の良い弾を造らないと」

「? 弾ってみんな同じじゃないの?」

「まったく違うんだよ。一般的に安い弾は精度が悪いし、試合用の弾は精度が良いんだ。その代わり一発が高価なんだけどね」


 軍用などの安価に大量生産される軍用弾と、細かいところまで計算された試合用のマッチ弾では、集弾性能は段違いだ。

 自衛隊などの軍隊でも、一般の兵士が使う小銃の弾とスナイパー達が使用する弾は全く別な物なのが普通である。


 薬莢や弾頭の形状や、使用する火薬の粒の形や質など、精密に考え抜かれた弾丸は、現代科学の粋と言っても過言ではない。

 銃との相性が良ければ、例外的に安い弾でも良い精度を叩き出すこともあるが、それは非常に稀なケースにすぎない。


 今回の試射で石動の造った弾では、まだまだ狙撃銃用の弾丸として不十分だとはっきりした。

 これ以上の試射は残念ながら不要だと、石動は判断する。


 石動は、今後も精度の良い弾を造るべく試行錯誤していかなければ、と決意を新たにした。

 同時に、今のままのコルダイト火薬を活かせる長距離射撃用の小銃と弾丸も造ろうとも思う。

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